第二章 秘密を知った ①
「あ、ちょっと涼、ご飯は?」
「食べてる時間ない。朝練に遅刻する」
俺たちのサッカー部は週に三回、月、水、金に朝練がある。俺は朝が苦手だからこのようなことはしょっちゅうある。
「だから一時間前には起きなさいって言っているじゃない」
靴ひもを結ぶ朝の薄暗い玄関に母の声が響く。
いってきます、と勢いよく玄関からでて自転車にまたがり立ちこぎで学校へ急いだ。
この季節の風は冷たい。かじかむ手でサドルを強く握った。
六時五十分。七時からの朝練になんとか間に合った。
自転車を漕いでいる途中、スマホが連続して鳴っていた。部室に向かいながらスマホをポケットから取り出すと、母から『お弁当忘れているよ』のメッセージを先頭にスタンプが大量に届いていた。
「やっちまったー。…ごめんなさい」
『ごめん。今日は購買で済ます』
とメッセージを送り、部室へ入った。
「うーっす」
「お、今日もギリギリだな涼」
そう健太が声をかけてきた。
「うるさいなー。いいだろ間に合ったんだから」
健太とは中学の時から同じサッカー部で、親友だ。
そんなこんなで一時間の朝練が終わり、制服に着替えて健太と教室へ向かった。
「八時に登校するやつなんかいないよな」
健太は朝来る途中に、コンビニで買ったおにぎりを食べながら言った。
それな、と言って二階の教室へと階段を上り、静かな廊下を歩いていると、三組の一番奥の一番後ろの席に誰か座っているのが見えた。何かを書いていた。勉強?
「珍しいな。こんな早く来ているなんて」
おにぎりを食べ終わった健太がごみをコンビニ袋に入れながら言った。
「ああ、確か三組って特進だよな?課題が間に合わなかっか、今日の予習でもしてるんじゃないか」
横顔しか見えなかったが、どこか見覚えのある顔。そう思いなら三組を通り過ぎて六組の教室へ入った。
八時二十分を過ぎると、登校する生徒が増え始め、いつもの学校の朝がやって来た。
昼休み、お弁当を出して今にも食べ始めようとしている健太の肩を叩き、
「購買行くぞ」
と言って、無理やり健太を連れ出した。
購買へ向かう途中、三組へ目をやったが彼女の姿は見つけられなかった。
「なんだお前、弁当忘れたのか?早く起きて余裕を持たないからだぞ」
母と同じようなことを健太は言ってきた。
「朝は苦手なんだよ」
とだけ言い返して購買へ向かった。
「涼、なんだか今日ぱっとしないな」
「え?」
「なんか考え事してる?」
そう、俺は朝三組で見た彼女が思い出せそうで思い出せないのが腹立たしくて、ずっと考えていた。さすが親友、俺の表情をすぐに感じ取っていた。
「ああ、今日、三組に一人早く来てた子いただろ?どっかで見たんだよなーでも、どこで見たのかどんな顔だったかが思い出せなくて」
「なんだ?気になるのか?」
健太は俺の肩に腕を回して。にしし、と笑う。
「は?ちげーよ」
「なーんだ。人気者の涼くんが元気ないからみんな心配していたんだぞ」
弁当を買って教室に戻ると、確かにクラスからの視線が心配の眼差しというか、とりあえずいつもとは違うことがわかった。
すると近くの女子数名が、声をかけた。
「竹内くん今日なんだか変」
「元気ないから心配してたんだよー」
「あんな顔の竹内くんも新鮮でいいけどね」
優しい声掛けに涼は答えるように笑った。すると彼女たちも満足げに「笑ったー」「それそれ」と言って笑って返してくれた。
放課後、練習に向かいながらふと三組に目をやると、彼女はもういなかった。
はあ、とため息をつくと、
「やっぱ気にしてるんじゃん」
と健太が突っ込む。
「違うって。ただ、すっきりしたいだけ」
そう言って健太の頭をぺしっと叩き、部室へと急いだ。
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