タイムリミットを知った ④
私は先週の金曜日、余命を宣告された。
土日の間に気持ちを切り替えてユメにはこのことは言わないことにした。ユメは感傷的だから、私に死ぬまでに色々やってあげようとするはず。そしたら今まで通りの学校生活を送れなくなる気がしたから。
月曜日、教室へ入るとユメの姿があった。私はいつも通り声をかけた。
「おはよう」
ユメは読んでいた本を閉じて、勢いよく立ち上がった。
「大丈夫だった?胃腸炎で入院だって言うから…」
私は土曜日ユメと遊ぶ約束をしていたが、そんな精神状態じゃなかったので胃腸炎で入院になったとメールで伝えていた。
「あ、うん。もう平気。心配かけてごめんね」
心配してくれるユメをみると、こらえていたものが溢れてきそうだった。
ユメには絶対に言えない。そう確信した。
そんなある日の放課後、
「私、先生に呼ばれているからちょっと職員室行ってくる」
ユメと教室に残って話をしていると、先生に呼ばれていることを思い出した私は職員室へと向かった。
職員室に入り、先生との用事を終えて席を立ち、ふと前の方を見ると学校の人気者『竹内くん』がいた。
彼は、先生と何やら話し込んでいた。
「明治大学の監督が、来年お前をスカウトしたいと言っている」
「俺、サッカーは高校で終わるつもりなんですよね」
「もったいないこと言うなよ。今はまだ二年だ。ゆっくり考えてみてくれ」
「わかりました」
その大学がすごいところなのかは知らなかったが、スカウトされるくらい上手なんだと、ユメの言っていた運動神経も良いということに納得した。
初めて聞く竹内くんの声は、低すぎず高すぎず穏やかで心地の良い声をしていた。そんな彼の怒った姿なんて想像も出来なかった。
頭だけ下げて職員室を出た。出ていく前にもう一度竹内くんを見た。先生と楽し気に話していて、私が彼と関わるなんて一生ないと改めて思った。
そういえば、サッカーは高校で辞めると言っていたが、彼の将来の夢は何なのだろう。一年半しか生きられない私は夢も希望もなく、ただ平穏な毎日を送りたいと思うだけだったのでこれから未来がある彼を見ると、何になりたいのか考えてしまった。頭が良くて運動ができてかっこいい、高スペックな彼ならどこでも通用するだろう。
教室に戻ると、ユメが漫画を読んで待っていた。ドアの開く音が聞こえたのか、こちらを見る。
「お、ノンちゃーん。遅かったじゃん」
私は「ごめん。行こっか」と笑顔で言って、ユメと教室を出た。
今日はユメが私の家に遊びに来た。
「部屋散らかってるから片づけてくるね。リビングで待ってて」
机の上には大量の薬が置いてあることを思い出して、見つからない場所に隠すために二階の部屋へ行った。
「ユメーもういいよ。上がってきて」
家にユメを呼ぶときは気を付けないと。
その日も何気ない会話や、アニメのキャラクターについて熱く語りあったりしていると、あっという間に夜になった。
「そろそろ帰って勉強しなきゃ」
「そうだね。明日は英語の小テストだし、私も勉強しなきゃ」
一年半しか生きられないからって、勉強を放り投げているわけではない。今まで通り生活するって決めた以上勉強も欠かさずやった。そして、毎朝早くに学校へ行き日記をつけた。前日のことを思い出して、今日も生きている証を書き記すために。
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