許嫁編 作戦③


 大変なことになった。


 よくわからないうちに、お見合いをすることになってしまった。


 しかも初恋の人と。


 しかも他人として。


 もう、どういう情緒でいればいいのかがわからない。



「でも、本当にお兄ちゃんはいいんですか?」


 火曜日の朝。


 六花はハムサンドを口に運んでいる。


「何がだよ?」


「もし相手にバレてしまって、大事にされてしまった場合、お兄ちゃんは退学になるかもしれません」


「そうだな」


「許嫁の話がなくならないで、私と、お兄ちゃんと、先生がクビになるだけかもしれません」


「なんだよ。急に弱気になったのか?」


「いえ。私はこれまでもたくさんの人に嘘をついてきました。姫華のふりをして、たくさんの人にお断りをしてきました。いまさら弱気になったりはしません」


「だったらなんだよ?」


「本当に、お兄ちゃんたちを巻き込んでいいのか、不安になって来ました」


「いまさらだろ」


「ごめんなさい。そうですよね。そもそもお兄ちゃんの告白だって私の嘘のせいでめちゃくちゃになりましたしね」


「どうした? なんかあったのか? 最近おかしいぞ?」


「何でもないです。ただ、守れなかったらどうしようって不安なんです」


「馬鹿かお前は」


「私、馬鹿ですか?」


「ああ。大馬鹿だよ。俺はお前に守られるつもりなんかこれっぽっちもないね」


「でも退学になったら、お兄ちゃんの努力は無駄になるんですよ?」


「ならないよ。学んだ知識は頭に詰まってる。経験は体が覚えてる。退学になったところで痛くもかゆくもない」


「でも……」


「俺はね。六花。前にも言ったけどお前がここに来てくれて嬉しいんだ。お前がいる事で毎日が楽しいんだ。だから、お前がやることの責任は、俺にも取らせてくれ」


「……」


「それに再就職先も決まってるしな」


「再就職先?」


「ああ。俺は退学になったらアイドルのマネージャーをやるよ」


「先生のですか?」


「ああ。六花もやるか? アイドル」


「私がやったら人気が出過ぎて先生が可哀想なのでやめておきます」


「いいね。いつもの六花に戻って来たな」


「はい。あ、そうだ。今日から稽古で遅くなります」


「稽古?」


「はい。先生に紹介して貰った弟さんが劇団員をしているそうなので、週末の顔見せに向けて、衣装合わせとかもしてくれるそうなんです」


「アタルさんか」


「はい」


「でも残念だな」


「何がですか?」


「俺は、六花が許嫁とお見合いするのが見れないからさ。あとでどんなだったか教えてくれよ」


「はい。任せてください。あなたの妹、高羽六花が、相手の恋心を見事に粉砕してみせますよ」


「うん。まぁ心配なのは俺だな」


「大丈夫ですよ。最悪、姫華にはバレても大丈夫ですから」


「そうか?」


「きっと姫華がフォローしてくれます。大丈夫です」


「そう言ってくれると安心するよ」


「私の活躍にご期待ください。一発で相手を仕留めて見せますから」


「いいね。でもほどほどにな」


 ピンポーン。とインターフォンがなった。


「あれ? だれだろ」


「先生の弟さんですよ」


「え? なんでアタルさんが?」


「先生に相談して、実は送り迎えをして貰うことになりました」


「え? なんで?」


「衣装とか、いろいろ相談があるんですよ」


「そうなんだ」


 なんだか釈然としないが、玄関口まで行くと、アタルさんが立っていた。


「よお。高羽くん。おはよう」


「おはようございます。アタルさん」


「それと、あんたが六花さんか?」


「はい。私が六花です。今日からよろしくお願いします


 そう言って、六花は頭を下げた。


 三人で行くと目立つという事で、六花とアタルさんが先にでて、10分ほどしてから俺も出発した。


 玄関に何か落ちているのを見つける。


 三角形のプラスチックだ。


 なんだこれ?



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よければ、同時に連載している『《魔王降臨》初恋の人がゲーム世界に勇者転生していたので、魔王になってドロドロに甘やかす事にした』も良かったら流し読みしてあげてください。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220822086957

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