許嫁編 マシュマロの夢③
諸事情によりタイトルを変更いたしました。m< _ _ >m
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家に帰ると、妹が玄関先で眠っていた。
「六花?」
声をかけると、膝を抱えるようにして寝ていた六花が顔をあげた。
「あ。帰って来た。お兄ちゃん」
六花は立ち上がり、靴も履かずに近づいてくる。
「おい。裸足だぞ」
俺が言うのも聞かずに、 六花は、俺の手前でピタリと止まると、
「ごめんなさいお兄ちゃん。私、何か怒らせるようなことをしましたか?」
「は?」
頬に涙の後。
疲れた顔。
もしかして、夜通し玄関にいたんだろうか。
「私がお兄ちゃんを怒らせたから、帰ってこなかったんですか? ごめんなさい。でも、帰って来てくれて良かったです」
六花は同じような事をもう一度言った。
「落ち着けよ。六花。別に俺は怒って帰ってこなかったんじゃないぞ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「よかった」
ホッと安堵の息を吐く。
「ごめんな」と、俺は言った。
「どうして謝るんですか?」
「お前に心配かけたからだよ」
「別に。そんなことで謝る必要はないですよ。でも良かった。また帰って来ないかと思いました。帰って来なかったらどうしようかって思ってました」
急に感情が高ぶったのか、涙がボロボロと頬を流れ落ち始めた。
「お、おい六花」
「大丈夫です。ちょっとゴミに目がはいりました」
「大変な事になってるぞ」
「ヘヘ。でも帰ってきてよかったです」
「うん。帰って来たよ」
「良かった」
「今日は悪かった。理由はこれから話すけど、二度とこんな事はしない。約束する」
「本当ですか?」
「本当だよ。嘘ついたら何でも言うことを聞くよ」
「いう事なんて聞かなくていいので、ちゃんと帰って来てほしいです」
「うん、そうだな。とりあえず足を拭いて部屋にいこう。ほら、足出して」
「はい」
素直にいう事を聞く彼女に、俺はポケットに入っていたハンカチで足を拭いてやる。
リビングまで連れて行って、ソファに座らせる。
まだ涙を流している彼女の背中をさする。
過去になにかあったんだろうか。
さっき、六花は「また帰って来ないかと思った」と言った。
誰かが前にも、帰ってこなかったのだ。
「大丈夫だからな。俺は絶対に帰ってくるからな」
声をかけ、彼女の背中をさすりながら、彼女が落ちつくのを待った。
「ふぅー……」
と、彼女は一度、大きく息を吐いて。そのあと吸って、
「……落ちつきました。もう大丈夫です」
「ごめんな。今日は心配かけた」
「いえ。何があったのかを聞いてもいいですか?」
「もちろんいいよ。でも、その前にご飯を食べよう。何か食べたか?」
「パンは少し」
指さす先に、菓子パンの包装が落ちている。
「じゃあ、お腹は減ってないか?」
「お兄ちゃんのご飯が食べたいです。安心したら、お腹が減って来ました」
「わかった。急いで作るよ。何が食べたい?」
「……オムライス。中に味のついてるご飯がはいってるのがいいです」
「わかった」
炊飯器の、炊きっぱなしになっていたご飯を取り出す。
フライパンにバターを溶かし、細かく切った玉ねぎと鶏肉を放り込み、調味料を入れてご飯をいれて炒めていく。
別のフライパンでも、割って茶こしでこした卵をいれて、薄く卵を焼いていく。
薄く焼いた卵の上に、完成したチキンライスをのせていき、最後にフライパンを皿の上でひっくり返して、オムライス用のケチャップをかける。
「おまたせ。先に食べてて」
彼女の前にオムライスを置く。
「美味しそうですね」
「俺が作ったからな」
急いで卵を焼いて、もう一つ作って戻ると、六花はまだオムライスに手を付けてなかった。
「あれ? お腹減ってなかったのか?」
「お兄ちゃんと一緒に食べたいと思いました」
なんだこいつ。
妹の鏡だな。
俺は、後から作った出来立てのオムライスと、妹のオムライスを交換する。
「どうして交換したんですか?」
「六花には温かい方を食べて欲しいんだよ」
「そうでしたか。では、遠慮なく頂きます」
彼女はスプーンを持って、ぺこりとお辞儀した。
卵とご飯をスプーンですくって、口に運ぶ。
「あれ。いつもと味が違いますね」
「気付いたか? オムライス用のケチャップを買ってみたんだよ」
「いつもよりさらに美味しいです」
「どれぐらい?」
「うーん。100倍ぐらいですかね」
「ケチャップでそんなに変わったら、逆に自信失くすわ」
「ふふふ」
と、スプーンを口にくわえたまま笑う。
元気になったみたいでよかった。
「そうだ六花。やっぱり連絡先を教えてくれよ。何かあった時に困る」
「なるほど。私から連絡先を聞き出すために帰ってこなかったんですね?」
「そんなわけないだろ。悪夢のような目にあったんだよ」
「なにか事件があったんですか? 聞きたいです」
「事件ってほどじゃないけど……とりあえず連絡先交換しようか」
いままでは頑なに教えてくれなかった連絡先だったが、今回の件で考えが変わったのだろう。
彼女は快く教えてくれた。
「連絡する時は、ラインとメールとショートメールに全部同時に送ってくださいね」
「なんでだよ。ひとつで良いだろ?」
「ラインで連絡が来た時に、もしかしてお兄ちゃんは既にメールで何回も連絡しても、私が連絡よこさないから怒ってラインで送って来たかもしれないと、思うかもしれないじゃないですか」
「考えすぎだ」
「そうでしょうか?」
「じゃあ最初からラインでだけ送るようにするよ」
「でも、ラインのシステム障害が起きて連絡が出来なくなってたらどうするんですか?」
「じゃあ電話で連絡するよ」
「でも通話できないような場所にいたら? または電話会社での障害が起きたら?」
「……わかったよ。全部同時に連絡するよ」
俺は白旗をあげた。
「よかった」
妹はスプーンを口にくわえたまま、嬉しそうに微笑んだ。
「それで、今日のことなんだけど、ほたる先生から何か聞いてなかったか?」
「ほたる先生?」
キョトンと首をかしげる。
「……連絡してあるって言ってたんだけどな」
「ってことは、お兄ちゃんは巨乳先生と一緒にいたんですか?」
ほたる先生は、一部の生徒に『巨乳先生』とか『巨乳ちゃん』とか呼ばれている。
「そうだよ」
「そういえば昨日。先生が『高羽くん借りるねー』って言ってました。意味がわからなくて無視したんですけど」
なんだその適当な連絡は。
おかげでうちの妹泣いたんだからな。
「あいつ……絶対に許さねえからな」
「何があったんですか?」
俺は、今朝あったことをかいつまんで話した。
アルコールで酔いつぶされた事。
気付いたら先生のベッドで寝ていて、写真を撮られて。彼氏のふりをするお願い強要されたこ。と
六花は不機嫌な顔になり、
「アルコールで酔いつぶしてから、お願いを強要するとか、教師のすることじゃないですね」
「教師じゃなくてもアウトだよ」
「本当です。でも、どうしてお兄ちゃんだったんでしょうか?」
「?」
「巨乳ちゃんは、あのルックスでスタイルも抜群です。その辺の男子生徒なら、彼氏のふりなんて大喜びでやりますよ」
「たしかに」
「それなのに、わざわざお兄ちゃんに頼んだ。お兄ちゃんは、先生が普通に「彼氏のふりをしてほしい」って頼んでたらら断っていましたよね?」
「当たり前だろ。俺には心に決めた人がいるんだから」
「……」
急に俺の顔を見上げる六花。
「なんだよ?」
「別に」
「じゃあなんでそんな顔をしてるんだ?」
「生まれつきです。生まれつき顔が綺麗なんです」
「すごいなその自信」
「とにかく、巨乳先生は、お兄ちゃんに断られることを見越してアルコールで酔いつぶしたんです。つまり、お兄ちゃんじゃないとダメだったんですよ」
「なるほどな」
「何か理由があるんでしょうね」
「そういわれると、ちょっと怖くなってきたな」
「お兄ちゃん。月曜日からは一緒に行動しましょう。先生への対応は私がぜんぶやりますので」
「いやダメだろ。学園のアイドルと一緒にいたら、色んな噂になる」
「大丈夫です。先に噂を流しておくんですよ」
「どんな噂だよ?」
「高羽りくは、天河六花と付き合っている」
「いや、むしろそう言う噂が流れて欲しくないんだよ」
「どうしてですか?」
「俺への嫌がらせが凄いことになるぞ。真っ先に靴がなくなって、机には油性ペンで『死ね』っていう落書き。目を離した隙に体操着はトイレに突っ込まれるだろう事が予想できる」
「まるで見てきたように言いますね」
「人のやる事なんて、だいたい想像できるだろ」
「でも、私と付き合えるならそれぐらい安いものではないでしょうか」
「そうだな。普通の生徒だったらな」
「お兄ちゃんは異常な生徒なのですか?」
「違うよ。そういう意味じゃない。俺たちは兄妹で暮らしてて、そのことは卒業まで内緒だ。あの天河姉妹が、実は親が離婚してて、苗字が実は違ってて、実はクラスメイトの男と暮らしてるなんてバレたら大変なことになるだろ?」
「……たしかに」
「俺と六花が付き合ってるって嘘のうわさが流れて、色々調べられたあげく、その真実に気づかれるのは避けたい。それに、俺たちの暮らしも脅かされるぞ。変な奴が、うちの周りをウロウロするようになるぞ」
「それは嫌ですね」
「だろ?」
「じゃあ、残念ですが。それじゃあやめておきましょう」
何が残念なんだよ。
妹の思考回路はよくわからん。
「とにかく。それがいい」
「あ、そうだ。これが届いていました」
六花はそう言って、テレビ台の下に置いてあった段ボールを持ってくる。
「なんだこれ?」
「お兄ちゃんのお父さんから見たいです」
「親父から?」
差出人には、確かに『高羽大輔』と書かれている。
中身は変なネックレスとか、数珠とか、不気味なぬいぐるみがいくつか入っていた。
「気持ち悪いな」
「そうですね」
六花も同意見だった。
ん? なんだ?
封筒が入ってるぞ。
戸籍謄本だった。
一枚の用紙の中に、俺と親父と六花とその母親の名前が書かれている。
「……」
六花は、ジッと用紙を見つめている。
「見るか?」
「あ。いえ大丈夫です。本当にお兄ちゃんと家族になったんですね」
「そうだな。養子縁組の手続きまでしてるって事は、親父は日本にいるのに顔も出してないって事だな。唐突に海外に行くって言って、止めるのも聞かずに出て行ったくせに」
思い出したら腹立たしくなってきた。
「お兄ちゃんもでしたか」
「え? ってことは六花もなのか?」
「はい。私のお母さんも、ある日、置き手紙を残していなくなりました」
「酷い親だな」
「でも、たった1人の親です」
「そうだな」
「私達。似ていますね」
「兄妹だからな」
「そうですね」
「なあ六花」
「なんですか?」
「突然、俺なんかと兄妹になっちゃって、思うところとかないか?」
「思うところ?」
「ほら。実は嫌だな。とか」
「こんなに綺麗な私の兄が、どうしてこんな平凡な顔つきんだろう。とかですか?
「あんまりそういう事いうなよ」
「でも、もしもう一度過去に戻れて姫華たち4人と暮らせるとしても、お兄ちゃんと出会えるのなら、私は喜んで一人になりたいです」
「六花」
「なんですか?」
「ありがとうな」
「いえ。こちらこそ」
「そうだ。デザート食べるか?」
「それより1つ聞いておきたいです」
「なんだ?」
「お兄ちゃんは、ずっと私と一緒にいてくれますか?」
「ああ。お前が出て行かない限り、ずっと一緒にいると誓うよ」
「嬉しいです。約束です」
そう言って薬指を出して来た。
「そういうの。普通は小指じゃないのか?」
「この指は、結婚指輪をはめる指なので」
「全然いみがわからない」
「いいから。早く」
「はいはい」
そうやって、俺たちは約束を交わした。
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勇者と魔王の恋愛ものです!
お時間あればぜひお読みください!
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