三日目③
俺たちは、二階のドアを修理した。
鍵を壊し、穴をガムテープで埋めた。
破片を掃除機で吸って、床を水拭きをして綺麗にする。
「よし。こんなとこだろ」
俺が言うと、彼女は立ち上がり。
「綺麗になりましたね」
「前よりきれいになったぐらいだよ」
「ふふ。そうでしょうか」
「うん」
すると彼女は、まじめな顔をして、
「お兄ちゃん。今はガムテープですが、ドアの修理費は必ず私が支払いますので、もう少しだけ待ってもらってもいいですか?」
「別にいらないよ」
「いえ。そういうわけにはいきません。私が壊させたんですから」
「でも壊したのは俺だよ」
「壊させたのは私です」
一歩も譲らない姫華に、俺は提案をすることにした。
「じゃあ半分ずつだそうか。壊した俺と、壊させた姫華とで割り勘だ」
「それ。いいですね」
ずっと暗い顔だった彼女が、ようやく少しだけ笑顔を取り戻した。
「それよりお腹減らないか?」
「減りました。これからお餅をつくんですか?」
「餅?」
「朝、高羽家ではドアを壊してから餅を食べる習慣があるって言ってました」
ああ。そんなこと言ったかもしれない。
「あれは嘘だよ」
「知ってました」
「なんだよそれ」
俺たちは、笑いながら一緒に一階におりた。
今日は色々と疲れたので、めんつゆで味付けしたロールキャベツの作り置きを食べることにする。
偏食家の彼女は嫌がるだろうかと思っので「姫華のはちゃんと肉にするからな」と伝えると、
「いえ。私も同じものを食べたいです」
「でもこれ、思いっきりキャベツで巻かれてるよ?」
「同じものが食べたいです」
「……わかった」
ロールキャベツをレンジで温めて、インスタントの味噌汁とご飯をテーブルに置いた。
「美味しいです」
無理をしてるのが顔に出ている。
でも、食べれるなら野菜は食べた方がいい。
彼女は昨日とは打って変わり、小さな動きでかわいらしくご飯を食べている。
「べつに気を遣わなくて大丈夫だよ。好きにしてもらった方が俺も楽だし」
なんだか心配になったので言うと、彼女は首を横に振って、
「別に気を遣ってはいません。美味しいものを美味しいといっただけです」
「そう? ならいいけど」
ご飯を食べ終わると、姫華は近づいてきて、
「お兄ちゃん。テレビを見ましょう」
「テレビ? いいけど……」
今日、何か面白い番組でもあっただろうか。
ソファーに座ると、姫華が俺のすぐ隣に座り、俺に全体重を預けるように肩にしなだれかかってきた。
「え? ちょっと!?」
「失礼しました。お兄ちゃんかと思って」
「いや。あってるけど」
「じゃあ大丈夫でしたか」
「大丈夫じゃねえよ」
「なんでですか? 減るもんじゃないでしょう?」
「減らないけど俺の心臓が止まる」
「そうですか。じゃあ仕方ないですね」
彼女はふぅ……と、色っぽいため息をついた後、リモコンでチャンネルを変え始めた。
いったい何を見るつもりなのだろうか。
「そうだ。家の鍵いる?」
俺が聞くと、
「いります」
いるんだ。
俺は、スペアキーを彼女に渡した。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「……」
あ、ヤバい。ちょっと見とれてしまった。
彼女は鍵を大事そうにポケットに入れると、再びチャンネルを変え始めた。
「あまり面白い番組がないですね」
チャンネルを変えるのに飽きたのか、ふいに彼女が言った。
「聞いてますか? お兄ちゃん」
「聞いてるよ。近いよ」
「そうだ。お風呂に入りませんか? お背中流しますよ」
「いやいいよ。もう鍵の件は気にしてないからさ。あんまり気を使われるの好きじゃないんだって」
「……そういうわけじゃないです」
彼女がシュンとする。
「お茶が欲しいな……」
呟くように言うと、
「私、とってきます!
彼女は子供のように走ってグラスに麦茶をいれてくる。
うちは冷蔵庫に麦茶を作り置きしているのだ。
「ありがとう」
「いいんですよ。何でも言ってください。私、妹ですから」
その後は、あまり面白くもないバラエティ番組を見て、今日は家のお風呂がいいという姫華にお風呂に入ってもらい、俺はシャワーを浴びてから寝た。
そして、
「起きてください。お兄ちゃん」
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