四日目①
朝と言うにはまだ早い3時50分ごろ。
「起きてください。お兄ちゃん」
俺は、姫華の緊張した声によって起こされた。
明かりがつけられている。
「どうかしたか?」
なにがあった? 泥棒か?
俺は起き上がって辺りを見回したが、部屋には異変はないようだ。
「今、トイレに行きたくて起きたんです。そしたら……」
彼女は今日、ガムテープで目張りした部屋で寝ていたはずだ。
別の部屋をすすめたんだけど、どうしても隣がいいというのでそこで寝ている。
「……そしたら?」
俺が話を促すと、
「朝じゃなくてまだ夜だったんです……」
「…………」
「その報告でした。起こしてすみません」
「え? う、うん」
彼女は俺の部屋の明かりを消して、そのまま廊下に消えていった。
え? なんだったの?
「お兄ちゃん。起きてください。大変です」
また緊張した声で起こされた。
「今度はどうした?」
「それが、私は普段ぜんぜん眠れないのに、今日はとてもゆっくり眠れたんです」
「……そうなんだ。それは良かったね」
「いいお布団ですね。どこの布団ですか?」
「わかんない。前からあるお客様用の布団だよ」
「いいですね。こんど六花にも買ってあげたいので買いに行きましょう」
「ねえそれ朝の5時に言わないといけない話?」
「失礼しました。じゃあ6時ごろになったら起こしますね。6時でいいですよね?」
そう言うと、彼女はその場に正座して、俺の顔をジッと見つめ始めた。
「6時に起こしてくれるのはありがたいけど……何してるの?」
「私、基本的に不眠症なので、どうせ眠れないならお兄ちゃんの顔を見てようと思って」
「やめて。余計に眠れないから」
部屋を出ていく姫華を見送って、俺はもう一度目を瞑った。
そして、朝6時のアラームで起こされた。
俺は、寝不足気味の頭でなんとか起き上がってスマホのアラームを止めた。
「……起こしてくれるんじゃなかったのかよ」
まあいっか。
朝食はどうしようかな。
シンプルにベーコンエッグとかでいいかな。
顔を洗ってキッチンに入り調理を始める。
二人分のお弁当と、朝食を作り終えたが、姫華が降りてくる気配はなかった。
俺は二階にあがって、部屋をコンコンとノックする。
「はい」
どうやら起きてはいるようだ。
「姫華。そろそろ起きないと遅刻するぞ」
「え。じゃあ起こしてくださいよ」
「いや。もう今起きてるよな?」
「一人じゃ起きられないんですよ」
「またなにかやらかしたのか?」
「声が聞こえづらいので中に入ってもらえませんか?」
「え……」
いや。警察呼ばれるの嫌なんだけど?
「早く入ってください」
「……いいの?」
「早く」
部屋に入ると、彼女はカーテンを閉め切ってアイマスクをしたまま布団で仰向けになっていた。
俺は「カーテン開けるぞ」と言って近づいた。
「……」
なんで返事しないんだよ。
「じゃあ開けるからな」
そう言ってカーテンを開ける。
「あ、明るくなりましたね。誰かいるんですか?」
「は? なに言ってんの?」
「……」
「なんで返事しないんだよ」
「すみません。耳栓をしてるので、何も聞こえないんですよね」
「とれよ耳栓。さっきしてなかっただろ」
「……」
だめだコイツ。超絶かわいいだけで、なんでも許されると思ってるな。
許すけどな。
俺は膝をついて、彼女の耳にオレンジ色の耳栓がついているのを確認する。
「もし私の体に触ったら警察を呼びますので」
「遅刻するぞ?」
「何も聞こえないので耳栓をとってください」
「いや。自分でとれよ」
「……」
え。本当に遅刻するよ?
「まだですか? もう一度言いますが、体に触ったら警察を呼びます」
なんだコイツ。
俺は集中して耳栓を抜き取る。
「くすぐったいですね」
「だったら自分でとれ」
「次は右耳をお願いします」
「……」
俺は黙って耳栓を抜く。
「うふふ。くすぐったい」
「お前の人生、楽しそうでいいな」
「まるで貴族になったようです」
「貴族はこんなことしねえよ」
「さて。この辺で起きますか。え? もうこんな時間? 何してるんですかお兄ちゃん!」
「俺のせいかよ」
「まあ遅刻しても無遅刻無欠席のレコードが途切れるだけですからいいですけどね」
「いいから早く起きろ」
「では。起きますか」
彼女が布団をバサッとめくると、二玉学園の女子の制服が出てきた。
え? コイツ制服着たまま寝てたの? うそだろ!?
彼女は起き上がると、風のような速度であっというまに下に降りて行った。
俺も一階に降りると、彼女は漫画のようにベーコンエッグを口にくわえながら玄関先にいた。
「ほへじゃあ、いっへひまふ」
「くわえるのはパンにしておけ。弁当は持ったか?」
「持ちました。ありがとうございます。もぐもぐ」
「あ。でも今日は一緒に行かないか?」
「え。だって噂が立つと恥ずかしいですし」
と、彼女が言った。
「別に兄妹になったって言えば大丈夫じゃないか?」
「いえ。そうすると、前の父が浮気で離婚したって話を皆にしないといけなくなるので……」
「あ。そっか。ごめん」
浅はかだった。
俺は反省した。
「本当は……一緒に行きたいんですよ?」
そう言って、顔を赤くした彼女は玄関から出て行った。
「なんだあいつ………………風邪か?」
帰ってきたら、早めに休ませるか。
登校すると、既に姫華はクラスの女子と楽しそうに談笑していた。
一瞬、彼女と目が合ったが、すぐに目をそらされた。
「おい。マイホームキードクターがまた双子を見てるぞ」
「ヤバいって。また事件おこす気かよ」
まだ何の事件もおこしてねえよ。
その日。
クラスの男子はある話題で持ちきりだった。
それは「天河姫華がバスケ部の3年生と付き合いだした」という内容だった。
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