三日目②


 今日は、ゴミの日でもないのに、カラスがゴミ捨て場に溜まっていた。


 いい事をするつもりで彼女を泣かせてしまった。


 ドアの修理費はかかるし、帰りは鍵を切断する器具も買いに行かないといけない。


 ……そういえば、また渡しそびれたな。家の鍵。


 もうすぐ教室に着く。


 意気消沈している彼女を見るのは辛かった。


 教室のドアを開けると、姫華が大爆笑していた。


「あははははは!」


 え? 何めちゃくちゃ笑ってんの?


 さっきまでは、暗い顔で目を真っ赤にして泣いていたのに。


 いまの姫華は笑いすぎて涙を浮かべている。


 ……どうなってんだよ?


 俺は、頭の中が真っ白だった。


 ぜんぶ夢だったのか?


 でもドアの穴が消えてくれてるなら、それもいいな。



 5時間目の後の休み時間。


 俺は、姫華に話しかけてくる女友達がまだいないのを確認し、彼女にそっと近づいた。


「おい見ろよ。家の鍵がこんどは姫華さんに近づいていくぞ」


 妖精姉妹を監視している男子たちが、俺の動きを察知したようだ。


「おいおい、まだ懲りないのかよ。家の鍵」


 ねえ、俺って「家の鍵」って呼ばれてんの?


 俺の接近に気づいた姫華が、こちらを見上げる。


 なんだろ? と言った表情だ。


 相変わらず存在自体が美しい。


 俺はポケットに手を入れると、


「姫華。これ、家の鍵」


 そう言って、家のスペアキーを彼女の机の上に置いた。


 彼女はスペアキーと俺を交互に見た後で、


「何の話ですか?」


「……」


「みろよ! 家の鍵が、きょうも家の鍵をわたしてるぞ!!」


「いまどき家の鍵ハラスメントかよ。ダサ」


「ホームキードクターには困ったもんだな」


「またかよドク」


「日替わりで姉妹に家の鍵を渡そうとするとか完全にサイコパス」


「でも、ちゃんと断る天河姉妹はさすがのフェアリー」



 俺は、鍵をポケットにしまって急いで席に戻る。


 俺は、再び勉強をするふりをして最後の休み時間をのりきった。


 よし。


 帰りは破魔矢を買いに行こう。


 家に帰る前に、電車で有名な神社に行って破魔矢を買って、魔よけのお守りも買った。

 予想外の出費だったが仕方ない。


 ホームセンターで自転車の鍵でも破壊できる工具を購入し、夕食の食材を家に帰る頃にはすっかり遅くなってしまった。


「…………いるな」


 俺の家の前に、超絶美少女が座っている。


 俺は、破魔矢とお守りを神社の紙袋から出そうとすると、


「おかえりなさい」


 俺を見つけた超絶美少女が、走って近づいて来た。


「た、ただいま」


 俺が言うと、彼女は思い切り頭を下げて、


「ごめんなさい!!」


と、謝罪してきた。


「え? なにが?」


「私が家に鍵をかけたせいで、ドアを壊すことになったじゃないですか」


「そんな事ないよ。もともと壊す予定だったし」


「そんなわけないですよね? これで足りますか?」


 彼女の手には、ガムテープが三つ。


「……」


 俺は、なんだかすべてが馬鹿らしくなって、破魔矢と魔よけのお守りをポイッと投げた。


 あとでゴミの日にでも出すことにしよう。


 俺たちは、二階にあがってドアの穴の修復を始めた。

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