三日目①

 ドンドンドン!! ドンドンドン!!


 誰かが隣の壁を叩いている。


 1人しかいない。


 しばらく待ったが壁を叩く音はとまらない。


 俺は、起き上がって隣の部屋の入口まで行くと、


「おい! 壁を叩くのをやめろ!」


「あ、お兄ちゃん。いいところに来てくれましたね」


 ドアも開けずに姫が言った。


「悪いけど、近所迷惑だから太鼓の達人の練習はやめろ」


「練習じゃないです。これは本番です」


「なお悪いわ」


「実は昨日、部屋のドアノブに鍵を17個ほどつけたんですけど」


「え? なんで? 元々鍵があるんだから必要ないだろ」


「そんな事はありませんよ。おかげでお兄ちゃんの侵入を無事に防げました。感謝しかありません」


「俺が侵入しようとしたみたいに言うのやめろ」


「まぁ、そこまでは良かったんですけど、実は買ったカギにダイヤル式が混ざっておりまして……」


「早い話が開かなくなったと?」


「さすがお兄ちゃん。話が早いですね」


 頭が痛い。


「鍵屋を呼ぶから今日は遅刻になるぞ?」


「わかりました。ご面倒をおかけします」


「トイレは大丈夫か?」


「……」


 返事はなかった。


 大丈夫じゃないらしい。


 俺は家の物置から、餅をつくときに使う杵を持ち出した。


 ドアを破壊できるのは今、これぐらいしかない。


「ドア……修理代いくらかな……」


 ドアの前で「姫華。危ないからドアから離れてろ。あと窓を開けてくれ」


「え? 何をするつもりなんですか?」


「いいから離れろ。怪我しても知らないぞ」


 ちょうどいい。


 最近ついてなかったから、思い切り叩いてスッキリしたい。


 近所からうるさい! とクレームが来てもしるもんか。


 俺は最初は軽めに叩き、何度かためして感覚を掴んでから、思い切りドスン! とやってやった。


 思いのほか大きい穴が開いた。


 うん。


 これ修理費いくらだよ?


 ストレス解消のつもりで穴をあけたが、胃にも穴があきそうだ。


 ある程度穴を広げてから、


「このぐらいあれば出てこれますか?」


 彼女に言うと、


「あ、はい。出れると思います……あの、ごめんなさい。私のせいで……」


「ホントだよ。まったく気を……」


 彼女は泣いていた。


 ボロボロと涙を流して。


「ごめんなさい……」


「あ、いや……実は今日、もともと壊す予定だったんだよ。このドア」


「そんなわけないですよね……」


「高羽家では、年に一度ドアと餅をつくことになってるんだよ。帰ってきたら餅つきしような」


「……」


「とりあえずでようか。遅刻しちゃうから」


「………………はい」


 その後の彼女の消沈ぶりは、見ていて痛ましかった。


 朝食には、彼女の好きそうなお菓子を用意したが、一口も食べなかった。


 どうしたらよかったんだろうか。


 そしてどうしたらいいんだろうか。


「あの……先にでますね。本当にごめんなさい」


 彼女はそう言って、先に制服を着て玄関から出て行ってしまった。


 ……え。これって俺のせいかな?

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