二日目⑥



「ふう、いいお湯でしたね」


 銭湯の帰り道。


 長風呂していた彼女は、早めに上がっていた俺とは対照的に体から湯気をだして暑そうだ。


「そうだな」


 俺はそう言って彼女の方を見ないようにした。


「どうしました? そっちに何かあるんですか?」


「ちょっと薄着過ぎないか?」


 目に毒なんてもんじゃない。


 夢に出てきそうなぐらい、Tシャツの彼女は美しかった。


「そうですか? 普通だと思いますけど」


 姫華は、自分の姿を何度も確認するようにしながら歩いている。


 俺は、そのすこし後ろから天河姫華をチラリと盗み見る。


 今はいつものサイドテールではなく、髪をあげて上の方で結っているので、うなじが見えている。


「……ヤバいだろ」


 あれはヤバい。



 家に着くと、すでに22時を過ぎていた。


「今日は疲れただろうから、早めに寝ろよ」


 俺が言うと、


「そうですね。ありがとうございます」


 素直に返事をした。


 素直ならかわいいのに。


 彼女の部屋は、六花が使っていた部屋をそのまま使う事になった。


 彼女は部屋に入る前、こちらを振りかえり、


「部屋のカギを開けようとした時点で警察を呼びますので」


「言いたいことは色々あるが、わかった」


「まぁ、そんな度胸はお兄ちゃんにはないのかもしれませんが」


「煽るな」


「それじゃあおやすみなさい。お兄ちゃん」


「うん。おやすみ」


 そう言って自分の部屋に戻る。


 なぜか隣の部屋からは、ガチャガチャと不審な音が断片的に聞こえてきたが、しばらくしたらおさまったので、気にしないで眠ることにした。


 翌朝。


 俺は騒音で起こされることになった。

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