二日目④
夕食はチンジャオロースにしよう。
俺が無心で包丁でピーマンを切っていると、姫華が近づいてきて、俺と電子レンジを交互に見比べた。
「ずいぶんと時間がかかってるようですね」
「すいませんね。作業が遅くて」
「私、ご飯を食べたいって言ったんですよ?」
「知ってますけど?」
「それにしては電子レンジが空なんですけど?」
「どういう事? 今、野菜を切ってるんだけど?」
「ご飯と言えばレンチンです」
「どんな食生活を送ってんだよ」
「それは秘密です。秘密の数が多いほどいい女ですからね」
「それはものによるのでは? レンチンしてるいい女ってあまり聞かないよ」
「本気で言ってますか?」
「いや。失言でした」
彼女は中身はアレでも、外見は超一級品だ。
「しかし、まだレンチンしないんですか? そろそろお腹と背中がくっつきそうなんですけど」
「もう少し待ってくれ。今、チンジャオロースを作ってるから」
「チンジャオロース?」
「え? 知らない? ピーマンと……」
「私、野菜食べませんよ」
俺の言葉をさえぎって、二玉学園の妖精が言った。
「堂々と言うなよ」
「あと、辛い物も苦手です」
「チンジャオロースは辛くねえよ」
「そうでしたか。じゃあ野菜抜きチンジャオロースをお願いします」
「ただの肉炒めだよ。他に食べれるものはないの?」」
「菓子パンかピザかハンバーガーです」
「お子様かよ」
「だいたい休みの日は、朝マックで買って来た100円マックを寝っ転がりながら一日中食べてますね」
「やめてくれ。これ以上、俺の夢を壊さないでくれ」
「女子に夢を見ない方がいいですよ。おならをしながらテレビも見ます」
「やめろ! 生きる希望がなくなるだろ!!」
「とにかく野菜以外をお願いしますね」
「他に食べれるものは無いの?」
「チョコとビスケットとアイスクリームですね」
「糖尿病待ったなしだな」
「大丈夫です。女の子は甘いもので出来ているので」
「天河姉妹に至っては否定できない」
「でもこんな私ですが、実は、とある野菜のサラダが大好きです」
「なるほど。秘密はそれか。そうじゃなきゃ、そんなに肌が綺麗なわけないもんな」
「フライドポテトです」
「美容の天敵みたいなの来たな」
「質の悪い油であげた、黒ずんでる感じのフライドポテトとかがもう大好きで。野菜サラダ最高ですよね」
「野菜サラダに謝れよ」
「夕食のラインナップはそういう感じでお願いします」
「無理だよ。芋とお菓子じゃねえか」
「でも私、野菜はジャガイモ以外は無理ですよ。魚介も嫌いです」
「肉は?」
「肉はまあ……大好きですけど」
「大好きなのかよ」
「じゃあ、肉とお菓子でお願いします」
「お菓子は出さない。けど肉を中心にするよ」
「ならいいでしょう」
顔で彼女がリビングに消えたところで、俺は冷蔵庫から、明日の弁当用に作っておいたハンバーグのタネを取り出した。
チンジャオロースに入れる予定だったピーマンとタケノコとネギをミキサーに入れて粉々にしてハンバーグに混ぜる。
彼女の奇跡のような美しい肌が今、お菓子とフライドポテトによって破壊されそうになっている事を知った今、俺の使命は一つ。
彼女に野菜をくわせることだ。
ハンバーグと混ぜてこねる。
ちょっと水っぽくなったけど、まあいいだろ。
「ハンバーグ美味しそうですね。ください」
いつの間にか戻ってきた姫華さんが、棚から皿を勝手にとって突き出してきた。
「行儀悪いな。座って待っててくれ」
俺が言うと、
「わかりました」
意外にも、彼女は素直にいう事を聞いた。
ハンバーグとチンジャオロースを彼女の前におくと、彼女はハンバーグだけをたべた。
馬鹿め。チンジャオロースはフェイクだ。
ハンバーグには、ピーマンと玉ねぎとタケノコがたくさん入っているんだからな。
「このハンバーグ美味しいですね。どこで買ったんですか?」
「買ってないよ。俺が作ったんだ」
「え。こんなの作れるんですか?」
「そんなに難しくないぞ。自炊してれば簡単に作れるようになる」
「そうですか。でも、自炊なら私もしてますよ。楽しいですよね。冷凍食品があっというまに温まるのを見るのは」
「それは自炊とはよばない」
「なんか、私に対する言葉にトゲがないですか?」
「俺はもう、めった刺しにされてるよ」
「昨日は告白までしてくれたのに……」
告白の事を知ってるって事は、やっぱり本物の天河姫華なんだな。
絶望だ。
もう絶望しかないよ。
俺、とんでもないモンスターに告白しちゃったよ。
でも希望はある。彼女は俺の告白を断った事だ。
「俺の告白を断ってくれてありがとう」
俺はお礼を言った。
「なんですか? 微妙に私をディスってませんか?」
微妙にじゃない。
全力でだ。
「でもこれ美味しいです。また作ってくださいね」
そう言って、彼女はハンバーグを美味しそうに食べた。
「もちろんいいよ」
「やった」
小さくガッツポーズする彼女は、世界中から争いが消えてしまいそうになるぐらいには、すてきな笑顔だった。
顔はいいのにな。
俺はその顔に騙されて告白したんだな。
自分の見る目のなさにがっかりだ。
今からでも遅くない。
俺は六花派に乗り換える。
「ハンバーグ。おかわりありますか?」
彼女はお代わりする気まんまんで、俺の前に空になった皿を突き出して来た。
「もちろんあるよ。ちょっとまってて」
「やった!」
喜んでニコッと笑う。
なんだあの笑顔。めちゃくちゃ可愛いな。
「じゃああと10個で」
「食べ過ぎだよ」
いまだに慣れない誰かと食べる夕食。
いいものだな。と思った。
その後、リビングでテレビを見ていると、彼女が洗面器を持ってやって来た。
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