二日目②


 学校が近づいてくる。


「あとはココを真っ直ぐいけば学校だから、そろそろ別行動しようか」


「そっか。りく君とはここまでか」


 学校では、彼女は天河を名乗っている。


 だから、俺と仲良く並んで歩いたり、兄妹だとバレたりするわけにはいかない。


「じゃあまた夜に」


「……」


「どうしたの?」


「ん。なんでも」


「そっか」


「じゃあ。私行くね」


「気を付けて」


「りく君」


と、彼女は俺の名前を呼んで立ち止まった。


 俺も合わせて立ち止まる。


「どうしたの?」


「実はね。私、本当はりく君を疑っていました」


「え?」


「お母さんの再婚相手の人の子供は信用できる人なのかな? 本当に大丈夫な人なのかな? そういう風に、昨日はずっと疑っていました」


「そっか。で、今日はどうでしたか?」


「信用できる人だと思いました」


「それは良かった」


「うん。これからもよろしくお願いしますね」


 彼女はそう言って、深く深くお辞儀した。



 軽やかな足取りで歩いていく六花の後ろをゆっくりと歩く。



 そういえば。家の鍵を渡してないな。


 とりあえず、教室で渡すか。


 俺は教室に入ると、六花が自席で本を読んでいるのを見つける。


 さっきまでは髪をおろしていたが、今は青色のシュシュで髪を結っている。



 俺が六花に近づく。


「おい。あいつ六花さんに近づいてくぞ」


「馬鹿だな。火傷しろ」


 すると天河姉妹を監視している男子達から嫉妬の視線が集まってくる。



 六花は普段、男子と喋らない。


 男子が無理に喋ろうとすると、彼女は無言で睨んでくる。


 だから男たちは「俺は六花さんと2回も喋ったことがあるぞ」とか「挨拶を返してもらった事がある」とかで自慢するのだ。


 男達にとって、六花と喋るという事は、ステータスなのだ。


 輝かしいトロフィーのようなものなのだ。


 だが、俺は違う。


 俺は、彼女の兄になったのだ。


 くくく。


 俺は、優越感に浸りながらポケットに手を入れると、


「六花。これ。家の鍵だから」


 そう言って、家のスペアキーを彼女の机の上に置いた。


 彼女は、スペアキーと俺を何度か見比べて。


 こういった。


「気持ち悪いから消えて」


「…………………………え」



「おい! 見たか? あいつ、家の鍵を渡そうとしたぞ」


「昨日は姫華さんに告白して、ダメだったからって今日は六花さんに家の鍵を渡そうとするとか、あいつヤベエヤツだな」


 違う。違うんだよみんな。


「あいつは双子ファンクラブから除名だな」


「家の鍵は無い」


「家の鍵は無いわ」


「ヤバいだろ家の鍵は」


「おい。学校の裏掲示板で『#家の鍵』がトレンド入りしてっぞ」


 なんでこうなった?


 俺は、自分の席に逃げ帰って、イヤホンをつけて教科書を読むふりをして難を逃れた。


 そして夜。


 19時を過ぎても、六花は帰ってこなかった。

 

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