一日目④


 温めなおした親子丼を彼女の前に置く。


「わ。美味しそう」


 輝くような笑顔。


 作ってよかった。


「冷める前にたべよう」


「うん」


 彼女は、両手を合わせて親子丼に向かってお辞儀した。


「いただきます」


 本当に姿勢が美しい。


 何年かぶりに「いただきます」と言ってご飯を食べ始める。


「うわ。美味しい!!」


 ビックリしたような声をあげる。


「え、そんなに美味しかった?」


「ごめん。はしたないよね」


 顔が真っ赤だ。


 育ちの良さが全面に現れている。


「いや。嬉しいよ」


 それから二人して、色々と話をしながらご飯を食べた。


「私。食器を洗うね」


 食べ終わった彼女は、そう言って立ち上がる。


「いや。いいよいいよ」


「じゃ、2人で洗おうよ」


 六花さんは、食器を洗い始めた俺の隣に立った。


 さすがに初恋の人にそっくりの美少女に隣に立たれると緊張する。


「じゃあ、りく君がスポンジで洗ったのを私が流すね」


 近い。


 近すぎる。


「りく君?」


「あ、すみません」


「疲れた? 休んでてもいいよ?」


「大丈夫だよ」


 俺はそう言って、どんぶりとフライパンを洗い、彼女が泡を洗い流して食器置きに置いた。


「親子丼。美味しかった」


 彼女は言った。


「本当? こんなものでよければいつでも作るよ」


「ほんと? りく君は料理が得意なんだね」


「いや。全然だよ。でも、毎日作ってるから、だいぶ上達はしたかな」


「凄いね。私、料理はぜんぜん出来ない」


「よかったら教えるよ」


「本当? 嬉しい!」


 なんか、六花さんって素直で可愛い人だな。


 二人そろって人気があるのがよくわかる。


「もちろん本当だよ。いつでも教えるから」


「じゃあ約束だよ? 嘘をついたらハリセン千本だからね」


 俺は、いったい何を飲まされるんだろうか。


「それは怖い。約束は守るよ」


 俺が言うと、彼女はふふふと笑い、


「うん。よろしくね」


 それから、リビングで少し話をした。


 まだ実感がないけど、一緒に暮らすためのルール作りをした。


 食事や買い出し、ゴミ出しや掃除について。


「そろそろ寝よっか」


 彼女が眠そうにし船をこぎ始めたので、俺はそう提案した。


「それとお風呂はこっちです。いま、沸かしてるので良かったらどうぞ。タオルはここ、ドライヤーはここ。あ、着替えは……」


 いや、着替えについて触れるのはやめておこう。


 変な事を言って嫌われたら嫌だ。


「それじゃあ、おやすみなさい」


 俺は、明日の朝食の準備だけして、寝る事にした。


 そう言えばお弁当どうしようかな。


 彼女の分をつくってもいいのかな?


 朝、何時ぐらいに起こせばいいだろうか。


 誰かが家にいる感覚に、少し戸惑いながらも、俺は懐かしさと喜びを覚えていた。




 朝方。


 暑苦しくて目が覚めた。


 じっとりと汗をかいている。


 窓の明るさからすると、朝の5時ぐらいだろうか。


 目覚ましに手を伸ばそうとすると、体が何かにしがみつかれて動かないのに気が付いた。


 ゆっくりと下を見ると、俺の腰回りにがっしりとしがみついている、六花を発見した。



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