第六報 咲良 一以

シヅクの休日

 私の休日……。

 

 早朝ジョギングをし、お気に入りのオープンテラスがあるカフェで一息つく。一等地の高層ビルの一階にあるカフェでまったりとする。私もここの住民になったような少しリッチな気分になれる。



 シヅクはジョギング後のモーニングをこのオープンテラス楽しんでいた。


「店員さん、申し訳ない。コーヒーをこぼしてしまって、テーブルを拭きたいのだが……」


「すぐにお持ち致します」


 女性店員は慌てて布巾を取りに行き、シヅクの隣にいる男のテーブルを拭く。


 シヅクはその男を見て、何かに気付きハンカチを差し出した。


「ズボンにコーヒーがかかっていますよ」


 男のズボンはテーブルから滴り落ちたコーヒーで少々濡れていた。


「どうもありがとう、予想外だよ」


「えっ?」


 男は軽く手を振り「いえ、ただの独り言ですよ」と、言った。


「そう……そのスーツ、オートクチュール? 早く拭かないと高級なスーツが台無しになるわよ」


「いえ、オーダーメイドですよ。身の丈にあったね……」


「そう? どちらにしても良いスーツでしょ」


「クリーニングするから大丈夫だよ」


 シヅクがハンカチを渡した際、長袖の隙間から覗いた腕の傷痕に男は気付く。だが、男は気遣うようにさりげなくその傷痕から目をそらした。


 気付いたシヅクはニコっと微笑む。

「過去の事ですので、お気になさらずに……」


「その通り。必要なのは今、あなたの現在がどうあるかだ」

 男はそう言いながら、渡されたハンカチでズボンを拭いた。


「確かにそうですね。――では、私はこれで」

 シヅクは振り向きレジへ向う。


「ちょっと待って!」

 男はシヅクを呼び止めた。


「何か?」

 シヅクは男の方を振り向く。


「このハンカチはクリーニングしてお返しします」


「差し上げますよ」と言い、シヅクはそのままカフェから出て行った。


 去り行くシヅクを見て男は言う。

い。想定外の収穫だ」


 シヅクの姿が見えなくなるまでジッと見つめていた男は呟く。

「また、会いたいものだ」


 男の名は咲良さくら一以いつい


 

 


 


 

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