身勝手なる理由(その後)

 松平は拉致された日から皮膚移植や鎮痛剤投与など、医療班の卓越した技術によりギリギリ死ねない状態を維持され、原告(依頼人)全ての執行が行われるまで生かされた。

 度重なる皮膚移植に体中の皮膚はボロボロになり、鎮痛剤も最後の方では効かなくなり、その痛みは想像を絶していたであろう。


 

 当初、六名が死亡したと言われた某ビル放火事件。

 最終的には松平に復讐を果たせた二人以外、全員が亡くなるという悲惨な結末となった。松平が死亡した今となっては、後の被害者遺族は悲しみに暮れるしかなかった。



 全てがようやく終わりを迎えた頃、三人は事務所に集まる。


「シヅクはもう少し訓練が必要だな」

 ザイは、ビーフジャーキーをかじりながらビールを飲む。


「うぷ、アンタよくあの後でそんなに食べられるよね。あの現場で私はどれだけ吐いてしまったか……」


「すぐ慣れるさ」

 バチもあっさりとしたもんで、まったりとビールを嗜んでいた。

 

 ようやくバチとザイはシヅクを仲間として認めたようだ。


「あなた達は異常者だからね! ちょっとは認識してほしいわよ」


「しかし、大丈夫なのか?放火犯が失踪したってなると、警察の不祥事だろ? 問題になったら奴らも必死にならないのか?」

 ザイは心配で仕方なかった。


「ああ」

 またもバチはあっさりと答える。


「ああって、バチさんそれ多くない?」

 シヅクはビールを一気に飲み干す。



 実際、松平が収容された病院には複数の防犯カメラがあり、

バチと『専門委員』が松平を運び出す様子が、鮮明に記録されていた。

 しかし、F病院は政府官僚の一部や警察上部との深い関わりがあり、『コート』はその癒着の証拠を握っていた。

 今回は本部直々の依頼ともあり、上層部の間でうまくまとめられたらしい。

 現に松平が失踪した5日後には、F病院にて意識を取り戻す事なく放火犯は死亡したとの報道が流れ、連日話題となった。


「ウチの組織ってどれだけ力あるんだよ!」

と、ザイは言う。


「さすが、本部ってとこね」

 シヅクも改めてコートの危険さを噛みしめる。


 病院で死亡したとされる松平は、計7回の治療と熱傷を繰り返した挙句、最後には体を燃やされながらクレーンに吊られ、4階程度の高さより落とされ絶命した。

 その光景は残酷な復讐を望む依頼人までもが、目を覆うほどの凄惨な最後であった。


「ビーフジャーキーって味気ないよな……バチ、今夜焼肉食いにいかね?」


「ああ、いいねぇ」


「あなた達、やっぱり普通じゃないよね」

 シヅクは呆れた顔で二人を見ていた。





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