第七報 復讐屋と裁き屋

復讐屋(上)

「はあ、はあ、お前等なんだよ。怖いって!」


 バチとザイに追い込まれ袋小路に逃げ込んだ男の名は三浦和也25歳。

 

 肩で息をしながらザイは言った。

「お前、逃げ足早いな……とりあえず、大人しくしてくれよな?」

 そして、バチは三浦を捕獲しようと一歩ずつ歩み寄る。



「おい!」


 背後から何者かがバチとザイに声を掛けた。

「ソイツを俺達に引き渡しな」

 

 バチ達が振り向いた後方には強面の男二人と綺麗な身なりの女性が立っていた。その男の内の一人がバチとザイに近付いて来る。


「お宅はどちらさまで?」バチが問うと、男は答えた。

「俺達は復讐屋リベンジャーでね。そいつに復讐したいって人から依頼を受けてんだよ」


 ザイもその男に向かって言い返す。

「こっちも依頼で動いてるんだよ、スッこんでな!」


 ザイとガタイの大きい男は対峙し睨み合う。


 男はザイが間合いに入るや否や顔面目掛けて拳を振るった。それを交わしたザイは腕を掴み、間接を極めようとするが男はスルリと腕を抜き、後ろ回し蹴りをザイにおみまいする。ザイはそれも躱し男の下腹部に打撃を与えた。

 男は何事もなかったかのようにコキコキと首を鳴らし、再度構えを取った。


「強いね」と、ザイが呟くと

「お前もな」と、男が返す。


 二人が見構え隙を探る中、バチが何食わぬ顔で二人の間に入る。


「あん?邪魔するなよ」

 男は鋭い魔な眼差しで睨みつけるが、バチは全く動じず冷静な顔でザイに言った。


「ザイ、帰るぞ」


 ザイは驚く。「帰んの?」


「ああ」


「おいおい!」

 呆気にとられる男がバチとザイを引き留めようとするが、ザイは男の肩を「ポン」と叩き、微笑みながらこう言った。

「相棒が言ってるから帰るよ、続きは今度な……」


 バチはすれ違いざまにリーダーであろう女性に話しかけた。

「room?」


 バチの問いかけに女性は答えた。

「ああ、あなた達はあの……なるほどね。残念ながら私達はフリーの復讐屋リベンジャ―よ」


 それを聞いたバチは「そうか」と、一言だけ言うとザイと一緒に去って行った。



 バチとザイが姿を消し、約三時間ほど経った深夜1時頃。


 三畳程のレンタルルームに監禁された三浦は手足を縛られ、復讐屋に暴行を受けていた。

「助けてしてください……本当に違うんです」

 

 三浦は涙ながらに訴える。


「お前、彼女をたらしこんで、強姦したんだろ!」

 復讐屋のガタイの強い男がひたすら殴る蹴るを繰り返す。

「私達はその女性の彼氏からの依頼を受けて来ているの。二度とあなたが彼女に悪さしないようにってね」

 リーダーらしき女性は暴行の様子を静観しならそう言った。


「里奈がそう言ったのか? 違うよな……言う訳がない!」


 さらに男達は三浦を殴る。

「気持ち悪い男だな。彼氏気取りかよ」


「ちがう、本当に違う里奈は……」



 その時、トランクルームの扉が「ガチャッ」と空き、ザイが顔を出す。

「どーも!」


「お前等! 何故ここが……」


 ザイの後ろから現れたバチは血だらけの男を引きずり復讐屋の前に差し出した。


「星野……、どういう事?アンタ達、私達の依頼主に手を出したの?」

 リーダー格の女性がバチに詰め寄ると、メモ帳を胸元から取り出し読み始める。


「この野郎ふざけやがって!」


「まあまあ、少し聞けって」

 復讐屋の男がバチに殴りかかろうとする所へザイが制止に入る。



 原告の名は星野弘明ほしのひろあき27歳。彼女である松川千奈まつかわちな23歳は、二週間前家の帰宅途中に三浦和也に暴行され強姦され全治一か月の重傷を負った。一週間後病院を退院した彼女は暴行のショックにより引き籠り今も尚、家から出れずにいる。被害者の松川は三浦の復讐を恐れ、警察に被害届を出せていない。


 バチが三浦の罪状を読み上げると、復讐屋の女性が口を開く。

「あなた達も同じ依頼を星野から受けていたみたいね。でも、どうして星野がこんな血だらけになってるのよ。意味が分かるように説明しなさいよ。私達と二股かけたのは私もいささか憤りを感じるけど、それだけの理由?」


 バチは三浦の元へ行くと縛られている手足を解放し、ザイにに預けた。

「ところが、私達の所にもう一つの*提訴があってね」

 バチは再び、手帳を読みだした。


 原告の名は松川千奈23歳。3年前、星野弘明27歳(当時24歳)と交際する。星野は嫉妬心が強く松川の交友関係に男がいるというだけでも気に食わない性格であった。

 当時、近所に住む幼馴染の男と少し話をしただけで、星野は彼女に暴力を振るった。それ以降、彼女に気に入らない所があると、そのたびに暴力を振るうようになった。そんな星野に嫌気がさした松川は1年前に別れを告げた。当然星野は納得がいかず、さらなる暴力を振るった。

 

 怖くなった彼女の届け出を警察に出す。警察より警告を受けた星野は、以降松川に手が出せなくなる。

 半年後、松川は心の支えになってくれた幼馴染である三浦和也と交際を始めた。    

 何事もなく続いたある日、再度星野が松川の前に現れた。復縁の申し出をきっぱりと断った松川に対し、またも星野は暴行を働き彼女は全治一か月の重傷を負った。


「俺達の執行に嘘を許されない。原告星野からの提訴は破棄され、松川里奈が俺達の原告人となった」

 バチとザイは三浦に肩を貸し、その場を去ろうとする。


「おい、どこに証拠があって言ってんだお前!」

 復讐屋の男は引き下がる様子がなくバチの肩を強く掴みかかった。バチはその男の手首を鷲掴みすると力を込めた。

「いっ……離せ、コラ」

 手首の痛みに男の顔が引き攣る。


「やめなさい」と復讐屋の女性が言うと、バチは手を離し懐から数枚の写真を取り出しその男に渡す。


「これは……」

 復讐屋達はその写真を見て倒れ込む星野に蹴りを入れた。

「起きろオラ、俺らまで騙しやがって。落とし前はきっちりつけてもらうぞ」


「じゃあ、後はそちらでよろしく--」

 ザイは手を振りトランクルームの扉に手を掛けた。


「待って」と、リーダー各の女性が言う。


 女性は歩み寄り、カバンから出した100万円をバチに渡そうとした。

「これは治療代。悪かったね三浦和也」


「どうやらリーダーさんは話が分かるようだな」

 バチはその金を受け取った。


「私は、燐花りんか。あなた達とはまた会いそうね」

 女は僅かに笑った。


 バチは「防犯カメラは排除しておいた。あんまり無茶すると捕まるよ」

と言い、ザイと一緒に三浦を連れ外へ出て行った。


「うまくいったようね」

 外には車を停め外で待機するシヅクが立っていた。


「おっ、シヅクちゃんタイミングバッチリだね--」

 ザイはシヅクを褒める。


「おっ、じゃないわよ。私が調べなかったらこの人は、無実の罪でもっとひどい目に合わされたのかもしれないんだよ」



 二人は少し黙り込む。


「ウチの調査官は優秀だね--」と、バチが話をそらすとザイもそれに乗り「うん、優秀だ。優秀だ」と、答えた。


「…………」


 シヅクはザイのお尻をおもいっきり蹴飛ばす。

「痛って--な! なんで俺なんだよ」


「なんとなく」



 三浦和也はその後、彼女の元へと無事送られた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*提訴 訴え出る事(この文では依頼を表す)




 





 





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