復讐屋(下)

 ザイはいつものようにコンビニでビールと酒のあてを物色する。

「やっぱりビールにはさきいかだな。それとバチの分も……と」

 ザイがビールとさきいかをカゴに入れレジへ向かう。


「あっ」

 

「おぅ」


 なぜか前回トラブルとなった『復讐屋』の男が目の前にいる。

 その突然の事にザイは驚いた。


「おいおい、まだ俺達に用があるのかよ。つけ回すなよ」

 ザイは明かに嫌そうな態度をとった。


「は? お前なんかに用はない。偶然だ、偶然!」


「本当に?」

 疑うような目で見るザイに男は怒りだす。


「やろうってのか?」


 そこへもう一人の男も姿を現した。

「お兄、他に食べる物いらない? あっ、お前は」


「お前等、実の兄弟だったのか……」


「ああ、そうだよ……って、お前なんでこんなプロテインドリンクばかりカゴに入れてんだよ? 酒持って来いよ!」


「いや-だって、筋肉にはコレだろ?」

「いいから返して来い!」


 そんな兄弟のやり取りをよそにザイはそそくさと会計を済ませ、コンビニを後にする。


「あいつらこの辺りに住んでんのか、面倒くさいな」

 ふと、ザイはぼやく。



 『事務所』についたザイは靴を脱ぎながら、バチに声を掛けながら部屋の中に入ろうとする。

「バチ! そこでこの前の奴らに…………えっ?」

 部屋の扉を開けたザイはさらに驚く。


「な、なんでお前までいるんだよ」


「お前まで?」

 ザイの言葉に返事するのは『復讐屋』の女リーダーだった。


 バチと朱里は正座し、まったりと温かいお茶をすすっている。


「おいおい、説明しろよ」


 すると外から声が聞こえる。

「おい、早く来い。ココみたいだぞ」


「待ってくれよ--! お兄」


 嫌な予感がしたザイが後ろを振り向くと、先ほど偶然出会った『復讐屋』の男達が玄関に立っていた。


「あ--!」


「あ--!」


 指を差し合うザイと男達。するとバチは言う。

「今回の原告(依頼人)だ」



 一同は輪になって座し、ビールを片手に話を進めていく。


「まずは自己紹介、私は復讐屋リーダーの朱里しゅり。そして、この二人が私の仲間の阿吽兄弟で、兄の阿行あこうと弟の吽行うんこうよ」


「ウ……ウンコ」


「うんこうだ!コラ--」

 キレた吽行が横に座るザイの胸ぐらを掴みかかり殴りかかろうとする。


「やめなさい。吽行! 阿行止めなさい」

 朱里の掛け声で阿行はすかさず立ち上がりザイと吽行は引き離す。


「ザイさんよ、コイツにその言葉は禁句なんだ」

 阿行が吽行を宥めながらザイに注意を促した。


「そうなの? ごめん、ウンコ」

 少し申し訳なさそうに、ザイは頭をポリポリと掻いた。


「コラ――‼」


 朱里は軽く咳ばらいをし

「それでは馬鹿達は放っておいて続きを」と、話を再度進める。



「二人は『スターブル』っていう半グレ集団知ってる?」

 朱里が二人に質問する。


「いや」と、バチが一言答えると

「全く」と、ザイも答える。


「じゃあ、そこからね」


 朱里が説明しようとするとシヅクが口を開く。

「スターブル……約一年前くらいから急にポッと現れた半グレ達ね。窃盗、恐喝、強姦に詐欺、そいつら最近はロクな噂しか聞かないわね」


「そのとおり」

 朱里は頷いた。



スターブル 少数精鋭の半グレ集団でありその数22人。


リーダー 拓馬たくま しん32歳

副リーダー 斎藤さいとう しゅう28歳



 武闘派の拓馬と頭脳派の斎藤で形成されている集団で、一年程前より現れここ半年で人数と勢力を拡大している。スターブルは手法を選ばず、時には指定暴力団の仕事も陰で請け負っているとの噂もある。


 朱里が皆にリストを渡す。

「これが、現在までで分かっているメンバーの名前と写真15人。この金髪の筋肉男が拓馬で、赤髪の長髪男が斎藤。私達、復讐屋が受けた依頼はスターブルの殲滅もしくは解散。私達の大口依頼主からの依頼なの」


 バチはリストを眺め黙っている。


「私達の依頼主とそちらの*長官が昵懇じっこんの仲みたいでね。今回は敵さんの人数が多いからって、あなた達の組織に応援を頼んだんだって」

と、朱里が言う。


「おいおい、俺達は執行官だぜ。警護や防衛ならウチの専門委員の仕事だろ?」


 ザイが言うように、『コート』での警護や防衛の仕事は専門委員の『警護班』の仕事である。バチ達が指示なく与えられた役職以外の業務を行うと、越権行為とみなされ厳しいペナルティーが科せられる。しかし、時と場合もしくくは*長官の指示により一部権力の行使が認められる場合もある。


 するとシヅクも鞄からリストを取り出し読み始めた。


 三ヵ月前、斎藤宗が街で一人の女性に声を掛ける。女性の名は小松奈央こまつなお。彼氏との待ち合わせのため誘いを断る小松を、斎藤は手は掴み強引に連れて行こうとする。

 それを見た彼氏の松井まついしょうたは、慌てて駆けつけその手を振りほどいた。斎藤はニヤッと笑うと取り巻きのメンバー3人に指示し、小松と松井をひと気のない裏路地へと連れて行った。小松の見ている前で松井はスターブルの3人から暴行を受け、全治3か月の重傷を負う。小松もまた、そのまま斎藤に拉致されると、暴行及び強姦により心に深い傷を負った。


「これは案件の一つ。そして、これ全て原告達よ」


 シヅクが床に「ドサッ」と、置いたリストを見るザイは驚いた。

「これ、全部依頼者?」


「うん」

と、頷くシヅク。


「マジかよ……」

 ザイは、深々とため息をついた。


 コートもまたスターブルに恨みを持つ者達から、大量の依頼を受けていた。復讐屋とコートは共通の目的があったのだ。


「今回は大掃除だね」

 何気ない顔で言うバチにザイは一応問いかける。


「やっぱ、受けるんだよな」


「ああ」


「はあ、そうだよな」


 『コート』と『復讐屋』はスターブル清掃のため準備に入る。


――――――――――――――――――――――――――――――――

長官 バチ達の直属の上司


 

 


 




 




 

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