第四十六話 「謎施設の住人達」
俺は慌てながらも、素早くノーマルソードを取り出して攻撃をブロックした。
「こ、こいつどこから剣を……」
俺の異次元武器庫に驚きを見せてくれた。
良い反応をしてくれるじゃないか。
「よっと」
剣を強く握りしめて、力を押し切り、反撃の一手を喰らわせる。
相手の腹に上段回し蹴りを瞬時に喰らわせて、背後に吹き飛ばす。
「ぐはっ!」
毎日のようにしごかれた俺の体は、自然と、少しだが戦闘に合った肉体へ変化していっているのだ。
「なんだ? ガキ相手に情けねえな」
周りにいた男達は、俺が吹き飛ばした男を見て「何をやってるんだ?」と不思議そうにしている。
「お前らこそ、ガキ相手に
俺は武器庫から二本の剣を取り出し、天井に向かって投げた。
ひゅんひゅんと回転し、剣は空中でやがて静止する。
何故なら俺が能力を発動させたからだ。
「風圧発射」
パチンっと格好つけて指でも鳴らしてみた。
そして、剣はそれに反応したわけではないが、周囲の風を纏いながら、男達へ向かって発射された。
「は?」
「かはっ!?」
ぼっーとそれを眺めていた二人の男に勢いよく足、胴体に突き刺さる。理解ができないといった顔をしながら二人は倒れ、じわじわと来る刃物の痛みにやっと気がつく。
「なっ、なっ」
「おい、ぼさっとするな! 警報を鳴らせ!」
「こいつ、ただのガキじゃねえぞ!?」
おいおい……態度変わりすぎだろ。
これは正当防衛だ。
アイツらは俺を殺す気でいる。
なら、躊躇はいらないだろう。それにこれはピンクドラゴンを取り戻すため、仕方ないことなのだ。
俺はもう一度クイックチェンジを使って槍を素早く取り出した。
上の方からなにやらけたたましいサイレンが聞こえてくる。警報を鳴らしたのか?
「いきなり現れやがって……死ねっ!」
激情した一人の男がカットラス、海賊剣のような剣を振りかぶる。
「だが遅い、遅すぎるぜ!」
槍で一突き。俺は容赦なく男の腹を狙って攻撃するが、狙いがズレたのか掠る程度になってしまう。
すかさず槍を横に振り、殴るような形にする。
強い打撃威力を誇っていたようで、「かはっ」という声を上げて、男は地面に倒れた。
俺は攻撃することに躊躇いはないが、殺すことには少しある。なぜなら後が怖いからな。誰だってそうだろう?
立て続けに俺に剣が突きつけられる。
一人一人が大したことのない腕で、俺でも突破できそうだ。
だが数が多い、質よりも量ってか?
「これは……不味ったかも」
ドラゴンなんて放っておいて、大人しくルカに知らせれば良かったかもしれないと今更ながら後悔してしまう。
どんどん奥の方から新しい戦力が出てくる事を確認した俺は、戦う事を放棄することにした。
槍から剣に切り替え、能力を引き出す。
「警戒しろ! 何をしてくるか……」
「待て、意識が……?」
すっかりレギュラー化した武器、ホロウ・ナイトメア。
対象に一定時間悪夢を見させ、その周りにいる奴らもその夢の中へ巻き込む理不尽な魔剣である。
「寝ててくれ、邪魔だから」
我ながら恐ろしい武器を作ったものだ。
男達はバタバタと意識を失い、足から崩れ落ちた。
夢を見ている男はうめき声を出し、他の奴らは目を閉じたまま動かない。
「はあ、今頃ソーマ達は審査試合だってのに、俺は何やってんのかな……」
あと十五日後には四争祭の競技選手を決める第一試合が始まる。
アイツらは大丈夫だろうか? ちゃんと特訓しているだろうか?
「頼むぞ……その結果で俺の人生が決まると言っても過言じゃないんだからな」
「なっ!? これは一体どうなって……?」
ヤバい、そうこうしている内にまた誰か来た。
でも、他の奴らとは違った。
秘書みたいな格好したお姉さんが現れたのだ。
白衣を纏っていて眼鏡をかけている。いかにもな研究者っぽい風貌の女性だ。
走ってきたのか、汗を垂らして険しい表情をしている。
「責任者か何かか? まあ、どっちにしろ関係ないけど」
俺はホロウ・ナイトメアを構え、女性に近づいて――
「ちょ、ちょっと待って!」
白衣の女性はそれを大声で阻止した。
なんだ? ど、どうした? そんな懇願するような顔を……。
「見逃して! お金はあげるから! だから、助けてください
「…………はいぃ?」
聖騎士? 誰の事だよ。
話しかけられているのは間違いなく俺だろう。
でも俺は生憎聖騎士ではない。
まあ、一応見習いのではあるんだけどさ。
「私は巻き込まれただけなんです。こんな実験やりたくなかった!
「待て待て、何の話をしてんだ? いや、別に知りたくないんだけどさ」
「き、騎士団がとうとうここを突き止めたんでしょう? あの人が無闇に動きすぎたからに違いないわ!」
あの人ってどの人だよこら。
どうやら、俺の事をこの場所を暴いた聖騎士だと思っているらしい。
俺をどう見たら聖騎士だと考えるのか分からないな。
聖騎士には特別な制服を見に纏うそうだが、彼女はそれを知らないのだろうか?
……おもしろいからそのままにしとこ。
**
「ああ!? だったら土下座して命乞いしてみろ!」
「ど、土下座……?」
「手ぇついて跪くんだよ! とっとやりやがれ!」
「は、はい!」
――これは軽い冗談だ。
数分間、俺はこの人で遊んでいた。
調子に乗って土下座なんて頼んでみたら、本当にやってくれるこの女の人が哀れに見えてきたな。
剣を地面に突き立てて偉そうな態度とってみたりして、俺は謎の愉悦感を覚えていた。
ヤバい、何かに目覚めそう。
いや、俺がしている事は何も問題ないはずだ。
だって俺は正義側だし、多分あっちは悪サイドだろ?
ただ絵面が傍から見て引くレベルなだけで……。
「で? ここは一体どんな所なんだ? 説明してみろ」
「え? ……聖騎士様は知っての上で乗り込んできたのでは……」
「詳しくは知らねえんだよ。ああ、お前らが悪いことしてるのは勿論知ってたけどな!」
これじゃどっちが悪人なのか判別できないな。
俺はこの施設が何なのか手短に説明してもらった。
なんか長ったらしい、よく分からないワードが多く出てきたので、俺なりに解釈しておく。
「……なるほど、ホムンクルスの量産か。それは……うん。良くないことかもね」
ホムンクルスって、何だっけ?
確か……錬金術で作り出した人造人間だったような?
俺の中学時代に読んだ厨二チックな漫画にはそう描いてあったかな。
「じゃあ……署までご同行願おうか?」
「ひっ、ちょ、ちょっと待ってください! あの人の情報を引き渡しますから!」
「さっきから気になってたんだけど、あの人ってどこの誰?」
どうやらまだ裏に黒幕的な奴がいるっぽいな。
ただの学生の俺が、介入してもいいのだろうか?
「あの……大きな声では話せないので、もう少し寄ってきてもらえませんか?」
「え? いや、俺達以外は寝てると思うから大丈夫だろ」
ホムンクルスを作れる力を持った人物、か。
闇の業界を支配していそうな悪顔の奴なのだろうか。
いやだなあ、つい昨日激戦があったばかりなんだけど。
俺は絶対的な有利の状況で、彼女の言う事を馬鹿正直に聞いて近づく。
「いえ……あの、それじゃ
土下座の体勢の女性はそんな事を…………?
パァン!
「……っ!?」
突如、俺の胸中心に破裂音が轟いた。
それは初めて感じる、音と痛み、そして煙。
驚愕した、目の前の座る女性が持つものを見て。
「ありがとう、近づいてくれて。おかげで、初めてなのに簡単に
――銃だ。
この世界にあるはずがない、未来の戦闘武器。
黒い独特の光沢を持った大きな銃口。
中心にはリロードするためのシリンダーが備えてある、いわゆるマグナムピストルというやつだろうか。
現代人だった俺でさえ、エアガンでしか見たことのない、テレビの中の地球の兵器だった。
それが、俺に向けられ、弾が炸裂したのか?
「…………あれ?」
でも、痛みはそれ以降感じなかった。
痛かったのは最初だけで、もう胸の辺りには何も異変はない。
「な、何だ? 子供騙しか?」
「!? な、なぜ死んでないの!?」
いやなんでお前も驚いてんの?
思い通りにならなかった、と言ったような顔で俺を見ていた。
眼鏡越しでも分かるようなおもしろい目に変わってしまっている。
俺は目線を下にして自分の体が大丈夫か確認してみる。
左胸が、紫色の煙を出している。
煙の発生源は、紫色の小さな銃弾だった。
その銃弾は、俺の左胸の裏ポケットにつけてあった
「…………あ、危ねえッ!」
ルカから任務の時に渡された聖紋の存在をすっかり忘れてしまっていた。
俺と白衣の女性は同じように驚愕する。
「こ、この上に偶然重なったのか。あと一歩で、お陀仏だったわけ……?」
偶然が奇跡を産んでくれた。
こんな救済は多分滅多に回ってこないだろう。
メリディアス様に今度
「……! くっ!」
「あ、待て!」
俺を撃った奴は逃亡を図った。俺に背を向けて、後ろの通路へ走っていく。
すかさず俺は体勢を整えて、剣を抱えてその後を追う。
「追って、くるな!」
「うおっ!?」
白衣を揺らしながら後ろをばっと振り向き、走りながら銃を連射してきた。
俺はすかさず剣を振り上げるが、銃を弾き返すなんていう高等技術がないことに気が付いた。
「ああ、クソッ!」
通路の横に壁に滑り込み、銃弾を避ける。
あの銃弾は地球のものよりも少し遅いことに気がついた。色もなんか紫だしな、金属じゃないのかもしれない。……もしかして魔力か?
「なんだってあんなのがこの世界にあるんだ? なに、俺が思ってたよりも裏社会は進展していたのか?」
銃弾が通り過ぎないのを確認して、再び白衣を追いかける。
道は一本道だ。
それに相手は女性、まだ追いつける!
「ここか。……この水はなんだ?」
足元を見てみると、謎の紫色の液体が流れ出ている。気になるが、それを辿れば自然と何か分かるか?
暗い通路を走り抜け、俺は奥の広い部屋へ出た。
途中に変なピコピコした棒や、キラキラした物体があちらこちらにあったが、それらを好奇心を抑えて全力スルーしてたどり着いた。
「おいおい……ホムンクルス以外になんの研究してんだよ」
中心を担っているであろう部屋を目の当たりにして、そんな感想を口にしてしまった。
この世界ではまだ到底理解できないであろう、精密な機械達が陳列していたのだ。
俺の見慣れるパソコン、そのグレードアップした版みたいな凄そうな装置がそこにはあった。
白衣の奴がそれをカチャカチャとキーボードのようなものを打ち、何やら操作している。
他にも、洗濯機のような台型の機械や、天井にはエアコンに似た怪しい光を出す機械まで。
それらは全て、
「……まさかだけど。あの人ってのは……」
ヤバい。最悪のパターンしか考えられない。
ヤマテンの件と関係性があるとしか思えないんだけど!
今すぐにでもここから逃げた方がいいか?
怖いし、俺弱いし、鍛治師だし、武器能力乞食だし。
だって、その一番奥にある巨大な装置が、俺のいけない未来を想像させてくるのだ。
ド○ゴンボールに出てきそうなカプセル。
中に入れば回復できそうな細長い棺桶のような構造の装置だった。
だが、バリバリにガラスは砕けており、中には何もいなかった。
紫色の液体がドバドバと周囲に溢れ出し、俺の靴の半ばまで浸っている。
「――今更だが、ホムンクルスってのはどこだ?」
……そして。
その声に応じるように、何かが俺の真上から飛び込んできた。
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