第四十四話 「クローゼットの中身」
俺は相当エキサイティングで非常にハードな任務から帰還した。
あれから馬で国の門を潜った後、色々騎士団の偉い人から事情聴取を受けた。
俺が知る限りの出来事を伝えて、今は騎士団本部の待機室で待機中。
「信じられないな……あんな子供が?」
「ああ、最上位聖騎士を差し置いて、一対一で異空の使徒を討ち倒したらしいぜ」
「マジか、これは……最年少の最上位聖騎士の任命もあり得るんじゃないか!?」
ああ、賞賛の声が聞こえてくる! なんて気持ちがいいんだ!
実際は俺の実力ではない気もしてくるのだが、倒せるきっかけとなった聖剣は俺が作ったのだ。
そりゃあ……調子に乗るよね。
「おい、アイツなんか腹立つ顔をなってきたぞ」
「本当にあんな奴が? 足組み出したし、なんかムカつくな」
「イラつく顔と姿勢だな。見るに耐えないから、あっちで話そうぜ」
「ああ、そうだな。異空の使徒を倒したのもなんだか冗談に思えてきた」
ふふっ、俺のオーラに屈してしまったのかな?
こちらを見て話をしていた騎士達はどこかへ行ってしまった。
「エバン、お待たせ……って何ウザそうなキャラみたいになってるの?」
手続きを終わらせてルカが俺の元へ帰ってきた。
俺はウザそうなキャラとやらを解除して、座っていた高級そうなソファーから立ち上がる。
「どうでした?」
「もう休んでいいってさ。術にかかっていた昏睡状態の騎士達も起きてきた。これで、任務完了だよ」
おお、『暗獄』が解けてきたのか。
地獄の裁定とか言っていたから本当に目覚めるか心配だったが、もうその必要はないらしい。
最悪『ホロウ・ナイトメア』で無理矢理介入する方法も考えていた。
「今回は本当に不甲斐ない結果だった。私達、最上位聖騎士の立場がないよ」
ルカは先程から、いや馬で帰還している際ずっとしょんぼりしている。
表情に出ていないだけで、かなり重症だ。鬱病……じゃないよな?
「カルロスも、そんな事言ってましたけど、そんなに深く考える事ですかね?」
「……え?」
俺は自分の考えをそのままルカに伝える。
「だってもう終わった事ですし、何より死人も出なかった訳で。今は悲観するよりもヤマテンを呼び出したクソ迷惑な野郎の捜索の方を優先するべきだと思いますね」
今回の黒幕を探し出して捕らえて目的を吐かせる。
その事を考えていた方が幾らか気持ちは楽だと思う。
楽観的かもしれないが、俺は今までそうしてきた。
最初の悲劇を受け止めて、次はそうならないように出来る限りの全力を尽くす。
そうやって俺は生きて、このソファーにも何ともなく座っていられた訳だよな。
「そう、だね。そうかもしれない……うん。今はやるべき事をしなきゃだよね!」
「はい。その為にも、俺はもう部屋に戻って休みます。ルカさんも、あんまり思い詰めないで下さいよ?」
ちょっとでも元気が出ただろうか?
特に軽い言葉で繋いでみたが。
俺はそれだけ言って部屋へと続く階段を登った。
**
翌朝。
俺がベッドで気持ちよく眠っていると、何かがお腹の上に乗ってくる感覚がした。
俺は前世で犬を飼っていたが、それと同じような質量のある物体がもぞもぞと動いている。
「……んあ?」
それが夢でない事がようやく認識し、目が覚めて
「キュアア!」
「――は?」
そこには犬……ではなく、薄い桃色の生物がいた。
ドラゴンというやつだろうか? 爬虫類っぽさを思わせる
おお、これがファンタジーか。
俺は異世界の朝にはこんな事もあるんだなとこの現実を冷静に受け止め……………。
「ぎゃああああっ!」
「キュウウッ!?」
……られるわけが無かった。
俺はベッドから飛び起きてその場で剣を武装する。
寝床の上でドラゴン退治とは納得がいかないが、今はパニック状態。
やむを得ず武器を布団の上に立って構える。
「な、な、何だお前!?」
「キュウ〜!」
ピンクドラゴンは剣を見た途端に、後ろへ向かって飛んでいく。
部屋にある扉の開いたクローゼットへと身を隠した。
「ドラ、ゴン? 何で俺の部屋に……っていやいやおかしいだろ色々と!」
俺は剣を構えたままクローゼットに近づき、中の様子を覗いてみる。
そう言えばこの部屋に来てクローゼットは見ていなかったな。
そこにはいつの間に置いてあったのか、大きな箱があった。
ドラゴンはその箱に収まり、体を縮めて丸くなっていた。
「な、何これ? 俺こんなの知らないんですど。誰の忘れ物だ?」
だいぶメルヘンチックな飾りがしてある箱だ。
俺はドラゴンに敵対の意思が無いことを確認して、箱ごとクローゼットから持ち運び、ベッドに座る。
「思ったより軽いな、お前」
「キュア?」
トカゲと言えば、最初に出くわしたリザードマンを連想させるが、それを打ち消すほどの可愛げがコイツにはあった。
くりっとしたつぶらな瞳に二本のツノが特徴的なピンクドラゴン。
パタパタと小さな翼を動かしてこちらを見つめている。
「……ん?」
俺は箱の中に手紙がある事に気がついた。ドラゴンが踏みつけているそれを引っ張り出して中身を読む。
『やあ、エバン君。
この手紙を読んでいるという事は、私からの贈り物とご対面してくれたのかな?
そのドラゴンは、『ヒールドラゴン』という種の、極めて珍しい飼育用モンスターだ。
なぜそれを俺に? と思っているでしょ?
ほかに引き取ってくれそうな人いないんだよね。
ちょうど停学で暇だろうし、一ヶ月の間でいいからお世話をしてやって欲しい。
生まれてまだ間もないし、人懐っこい性格だろうから、イライラはしないと思うよ。
では、よろしく〜。
(追伸)
拒否と返却は受け付けない。
青色学園校長 タリア・ローレンス』
「……やってくれたな」
あの校長、なにかと俺に絡んできてないか?
イライラはしないって、俺をなんだと思ってるんだよ。
……つまり、コイツの世話を停学期間中は俺がするというわけか。
何という無理矢理な押し付けだろうか。
「それにしても、ヒールドラゴン。聞いた事ないな。ワイバーンなら授業で聞いたことあるけど……」
さて、どうしたものか。
課題もまだ残っているので暇じゃないが、まあその後は暇だから育てるのはいい。
問題は俺だ。
ドラゴンなんて当然飼った事もないし、そんな例は聞かないので世話の仕方が分からない。
「キュウウ」
「この本部、ペットは受け付けているのだろうか」
タリアの奴、それも既に手配済みだろうか。
あの人も最上位聖騎士とかなんとか言ってたしな。
許可を下ろす側だから大丈夫かな。
ドラゴンの腹がぐぅぅと鳴った。
小さな手で抑えてこちらに何かを訴えかけてくる。
「腹減ってんの? ていうか、お前いつからここにいるんだ?」
任務中に運び出されたのか?
クローゼットの中にずっといて、我慢できずに出てきてしまったのか。
「……あのガタガタしてたのお前だったか」
「キュウア?」
はあ、心霊か妖精の仕業だと思って放置してしまった。
三日以上なぜ何も食べていないのも分かった。
「とりあえず、食堂から何か食べられそうなものもらってこよう。 ……お前も来るのか?」
「キュア!」
俺の肩に細い足を張り付けて飛び乗ってきた。
まだ幼いのか、重さはあまり感じられない。
人に懐きやすいってのは本当らしい。
「……ピ○チュウってこんな感じなのかな」
ドラゴンを肩に乗せ、食堂へ向かった。
朝食を食べたら、ルカと再び組み手の予定がある。
仕方ないな、コイツも連れて行くか。部屋にいちいち戻るのも面倒だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます