第四十三話 「本能のままに」
己の心が叫ぶのだ。
怒り、憎しみ。
嫌悪、
それを取っ払う為に、剣を振るい原因を断つんだ。
湧き上がってくる感情を能力に変えながら、冷静に行動をする。
何も、感じない。
俺が発狂せずにいられるのは、スキルが止まず力に変換し、
強制的に心の奥底に眠る感情を引っ張り上げられる。
ああ、でもいいか。
気にしなくても問題は無い。
目の前の障害を、越えられれば……それでいい。
「……ふっ!」
『ひれ伏すのは、お前の方だ。今すぐその罪深い舌を引きちぎってやろう』
聖剣と妖刀が、
様子見だった俺の攻撃は、一気に加速する。
武器は強い、だから壊れる心配はしなくていい。
『
刀が
いつもの俺の立場と逆転しているようだ。
「エバン……」
俺は
相手の予測を上回る速度で動けば、隙はすぐに生まれるだろう。
剣を振るう腕は、スピードを加速していく。
『その
ヤマテンの頭上から弾丸の雨が降り注いでくる。
剣を振るのを止め、
当然、脚力、体力、持久力も上がっているので避けるのは
「これでも食らってみるか?」
俺は武器庫から『スナイプブレード』を取り出しすぐさま射出する。
最大限まで能力を引き上げられた剣は、
今までの速度を超えてくる。
『くっ……
だか紫のオーラが障壁を即座に生成し、防がれてしまう。
やはり通常レベルの武器じゃ歯が立たない、か。
「近づいて、叩くまでだなっ!」
迫り来る弾丸を適当な鉄剣で迎え撃つ。
刃は一瞬で砕け散り、銀色の破片が宙を舞う。
だがそれでいい。
武器は大量にある。
近づく為に、俺は今まで量産してきた
『狂人め……裁定を下す!』
ヤマテンが俺に人差し指を向け、エネルギーを放出し始めた。
なんだ?
デ○ビームでも撃つ気か?
「狂人は……お互い様だろうに!」
紫色のオーラの
バチバチと
それを追撃する為、投げ槍を武器庫からクイックチェンジする。
「……らあっ!」
『ストレートブラスト』を片手で持ち、光線に向けて
たちまち魔力が中心から
『こんなもの……』
槍が障壁に弾かれるが、それは単なる囮だ。
本命は……!
俺は槍に集中していたヤマテンへ飛びかかり、剣で素早く斬りかかる。
『ぐっ……』
簡単な戦略、だがこれが結構効くんだ。
ヤマテンは少しだが体勢を崩しながら刀で受け止める。
「おいおい……ペース落ちてるんじゃないか?」
『黙れ。人間風情が……!?』
俺はヤマテンの腰あたりに、武器庫から密かに取り出したサッカーボールをぶち込んだ。
風が波打ち、激しい音を立てる。
先程蹴った威力を優に超えただろう。
『ぐあっ……。ひ、卑怯な!』
「そりゃどうも」
障壁は展開されておらず、直接凄まじい衝撃が与えられたことだろう。
後ろに引き、さらに刀の構えが崩れた。
俺がそれを見逃すわけがない。
「はああっ!」
聖剣を片手で振りかぶり、更なる追撃を繰り出そうとする。
地面を深く踏み込み、今出せるトップスピードで突進した。
すぐに剣の間合いに入る。
ヤマテンはバックステップのまま、刀をもう一度防御に回す。
――が、無駄だ。
『!? 何!!』
彼女は足下に違和感を覚え、視線を下にしてみる。
そこにはいつの間にか出現したのか、無数の
移動しようにも鎖がそれを許さない。
「ちゃんと相手を見ておくんだったな!」
俺は聖剣とは別の手に、『
今の筋力なら片手で持つのも造作もない。
クイックチェンジ故の即発動だ。
『ぐ、あ゛!?』
精一杯の
刀が下になり防御するが、
『……っ!』
「はあああああっ!」
俺の内にある全ての“呪いの力”を引き出し、ヤマテンを引き裂こうとする。
やはり人間の体の強度ではない。
『ちっ! まだ、終わらぬ!』
ヤマテンの背中から無数の闇が
すぐさま俺は武器庫から『スナイプブレード』をあるだけ取り出して、迎え撃つ。
闇の刀の威力を風圧剣が
俺は最後のヤマテンの抵抗を退け、聖剣を両手で持って左下に斬り下げる。
『やめろ……私、は……!』
俺に殺意のこもった目線を突きつける。
だが、俺の動きは怯まず止まらない。
今の状態は、敵を殺す事に
「あの世に――帰って、反省しやがれ」
勢いよく胴体を斬り裂き、ヤマテンの瘴気でできた存在を断つ。
聖剣が最大限に力を発揮して、
真っ二つ……とまではいかないが、それなりに、いや致命傷は与えられただろう。
『…………かは』
勝負は、
それだけ、両者は速すぎる戦いを繰り広げたのだ。
俺は数歩後ろに下がって剣を引き、武器庫に戻す。
何故なら、もう彼女は指ひとつ動かせる事はないだろうと思うからだ。
戦いが終わったと認識したと同時に、力が抜けていく。
「あ……これ、俺もヤバいな」
負の感情が力を供給するのを止めたのだろう。
何故、かは分からないが。
『…………』
ヤマテンを方を見てみると、地に両膝を突いて下を向いている。
俺が斬った部分から光りを放ち、徐々に闇を消していく。
「エバン! 大丈夫!?」
ルカが近づいて来た。
俺が倒れそうになっている所を支えてくれる。
「あ、ああ。大丈夫じゃないけど、大丈夫だ」
【負のスキルボード】は、限界まで俺を
ちょっとずつ落ち着いてきているが、先程の状態が続いていたら……。
俺は少ない
「よ、よく分からないんだけど!」
後ろを振り返って、聖騎士達の様子を見てみる。
カルロスや他の数名は体を起こし、意識を取り戻している。
だが、まだ見た限りでは二十人ほど目を覚ましていない。
これは、とんでもない被害だ。
「おい……ヤマテン。アイツらはどうやったら起きんだ?」
俺は
『…………私が消滅したのちに、やがて目を覚ますだろう』
律儀に返答してくれたな。
意思疎通は、出来たのか。
「そうか、目は覚ますか。そりゃ良かったわ。……最後にさ、誰がお前を呼んだのか教えてくれない?」
『…………』
あ、欲張りすぎたかも。
だがしばらく黙った後、答えてくれた。
『……知らぬ。私はただ、応じたまでだ。……召喚者は、私を呼んだ。只者ではないだろうな、私と同等かそれ以上の力を有していると分かる』
同等か、それ以上……?
それは何の冗談だ?
『……私をイメージし、それ相応の魔力と悪感情を注ぎ込んだのだ。
「――今、なんて?」
故郷の、幻想を具現化?
少なくともこの世界に
なら、ヤマテンを呼び出したのは――。
「……日本人、なのか?」
「え、え? 何の話をしてるの?」
理解の追いついていないルカを無視して、俺は考える。
ヤマテン、刀、和服……。
もしかして俺以外にも転生者がいたりするのか?
いや、だとしても意味が分からない。
何故ヤマテンを呼び出し、その場に居合わせず、破壊の限りを尽くさせようとした?
完全に、悪意がこもった犯行とした見れないんだが……。
「帰ったら……何か情報がないか調べてみるか。暇だし」
他人事だとしても、怒りが湧いてくる。
俺達をこんなめちゃくちゃな奴と戦わせやがって……!
幸い死人は出なかったが、聖騎士団達はそいつを見過ごしてはならないだろう。
それに、これは地獄王への
『……貴様ら人間は勝手が過ぎる。私のような複製物を作りおって。……異空の使徒、と呼んでいたな?』
ヤマテンが今にも消えそうな状態なのに、俺に話しかけてくる。
……一応、俺はお前を殺した相手なんだが。
『呼び手を、討ち倒せばこの現象は止まる。……私は呼び出された事自体に不快感を抱いている。迷惑ならば……早めに殺しておくが吉だろうな』
「……そりゃ親切にどうも」
発動の主を倒す。
実に簡単な事だな。
……そいつが弱ければの話だが。
大体、本体を叩けっていう話じゃないの?
『…………すまなかったな』
最後に、ヤマテンは謝罪の言葉をしてくれた気がした。
声が小さくて聞き取れなかった。
なにも謝ることなんてないんだが。
「……結局、どうすれば良かったのかな」
ルカが俺に聞いてくる。
んな事言われても……。
「……ヤマテンを召喚した奴を探すしかない。そこら辺は、聖騎士団に任せるよ」
俺とルカ達は、任務を終わらせた。
だが、
騎士達は……不甲斐ない結果に終わってしまった。
特にルカやカルロスあたりが悔いの残る思いをしているのではないだろうか。
俺も……スキルについて向き合わなければならないしな。
ヤマテンを倒せたのは感謝しかないが、いずれ俺じゃなくなってしまうのが怖い。
皆が皆それぞれの思いを持って、王国に
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