第四十一話 「異空のヤマテン」
「ど、どうしたらいいんですか!?」
「お、落ち着け! そいつは敵だ! どんな姿をしていてもーー」
なんか、最近女性の裸体を見るの多くないか!?
『…
俺達がその様子に戸惑っていると、彼女は動き出した。
空間の割れ目が閉じ、野生の鳥達が騒ぎ始める。
『これより、罪人達の裁定を下す』
彼女は周りに纏っていたオーラを増幅させる。
たちまち、それは彼女の体に合わせるように形を変えた。
一瞬で、禍々しいオーラが晴れ、
服を着た彼女が現れる。
日本古来から受け継がれてきた、伝統的な衣装である着物。
身にまとい、宙に浮いてこちらを睨みつけている。
「ヤマテン? あれ、どっかで聞いたような……」
「ーーみんな陣形を崩さないで! 女の子の裸見たからって硬直はするなっ!! 今は任務中、あの子は
ルカが警告してくれる。
俺達男ははっと意識が正常になり、
再び戦闘態勢に戻った。
そ、そうだった。
俺も早く武器を……。
『…呼び手の者は、いないか。せっかく私が応じてやったというのに、出迎えも、無しとは』
ヤマテンと名乗った少女は手を上に掲げ、禍々しい魔力を放出する。
冷酷な空気感と、全てを
「スクロールを発動させろ!」
カルロスが指示を出す。
皆が事前に用意していたらしい、魔法の刻まれたスクロールを取り出した。
「
スクロールが赤い光を放ち、ヤマテンに向ける。
魔法陣が即形成され、十人の聖騎士が同時に魔法を発動させた。
「「「『クリムゾンレイッ!!』」」」
光線系の火属性魔法が一直線に標的へと向かう。
「お、おお!」
とんでもない威力だ。
こちらにまで熱量が伝わってくるほどのエネルギーが込められているのだろう。
『ーー無力』
だが、その熱は一瞬で掻き消された。
掲げている方のもう片方の手で防御されたのだ。
魔力の込められた魔法を吸収するように無くしてしまう。
「……防御魔法か? いや、だがそんな素振りは…」
いよいよまずい敵だと認識し始める。
「ーーこれならどうかな」
だらしない男達を引っ張り上げるようにルカが動く。
剣を抜き、金色の魔力を放つ。
「アルセルダ剣術、
雷を見にまとい、目で追いつけないほどの速さで近づいた。
気づけばもう敵の目の前。
雷速に振られた剣でヤマテンに横薙ぎを食らわせる。
だが、
『無駄だ』
オーラで瞬く間に“
キィィンと金属音を生み出し防御される。
空中で剣同士がぶつかり合い、
激しい衝撃波が発生する。
「くっ!」
『愚かだな、人間』
掲げられたエネルギーが
雨のように俺達に降り注ぐ。
「防御に専念!スクロールを所持する者は直ちに展開するんだ!」
『自分が罰せられる立場だということを、履き違えてはならないぞ?』
凄まじい威力の
「じ、自動回避!!」
俺は
他の聖騎士達は魔法でなんとか身を守ろうとするが、破られてダメージを負う者が出てくる。
一撃一撃がとんでもない威力。
当たればひとたまりもない。
「無茶苦茶だぞ…! 何なんだあいつは!」
裸で出現し、服を着て乱暴に人を襲っている。
自分でもちょっと何を言っているのか分からなくなってきた。
「それに、ヤマテン……。あの和服といい、刀といい、日本にあるものばかりじゃないか?」
日本でヤマテンと言えば、地獄の王である
悪人の嘘つき舌を引っ剥がし、罪を
なんで同じ名前なのかは知らないが……。
「――よし。せっかくだし、お試しで使ってみるか」
この状況はあまり良くない。
相手のペースに持ち込ませてはならないのだ。
俺は昨日思いつきで製作した新作を取り出す。
まさか出来るとは思っていなかったので、完成したときは
能力を発動させ、“それ”は周囲に風を発生させる。
少し浮遊した“それ”は力の解放を待つ。
「あとは……俺が
まあ、スポーツで言えば選手の武器とも言えるか。
某名探偵さながらのキックを見せてやるよ……!
ヤマテンは今ルカに夢中だ。
俺みたいな小物に、目をくれるはずもない。
「行くぜっ! 『スパイラルドライブ』ッ!!」
必殺技、のような能力名を叫びながら、ヤマテンに向けて蹴り飛ばした。
そう、
俺は前世でサッカー部に所属していたんだ。
不思議とその武器とも相性が良――
『むっ?』
ボールは俺が蹴ったとは思えないほどのスピードで向かっていく。
能力は『スパイラルドライブ』。
そのまんまだ。
強風に乗り、
敵に向かって凄まじい威力で放たれる。
シンプルだが、当たればひとたまりのない。
一風変わった武器なんだが……。
『…………』
――片手ではたき落とされてしまった。
「え、えぇ? ……ショボッ!」
……そういえば、俺サッカーの試合でシュートした事ねえや。
『まだ、動ける者がいたか。先にこちらを処理するとしよう……待て、サッカーボールだと?」.
ルカから目線を外し、俺の方へ……。
「や、やっべ」
「――させるかよ」
俺の前にカルロスが
手に持っているのは…
「『グラウンドディフォメーション』」
斧を前に掲げ、
魔法を高速で
ヤマテンを中心にして、
地面が急激に盛り上がっていく。
巨大な壁に変形され、敵と味方を分けるように形成された。
「…おおっ! フレッドと比べ物にならないな」
これほどの高い
「行くよ、使徒。アルセルダ流……」
壁の向こう側が、再び激しい光を放つ。
な、何が起こっているのか分からない。
もうほとんど最上位聖騎士の二人だけが戦闘している。
先程の
原因解明の為、
他の聖騎士達が現在
今、動けるのはルカとカルロス。
そして、
「……俺だけかよ」
壁の横から顔を出し、向こう側を見てみる。
「はあっ!」
『惜しいな、だが届かぬ』
ルカと異空の使徒が
だが
黄金の光と
世界が彩られる。
間髪入れずに次の一手がルカから出され、
それを
俺が付け入る暇もない。
二人の戦いは、どこにも隙が無いのだ。
「じゃあ……ペース上げていこうかなっ!」
『――むっ』
ルカの剣速がギアを上げた。
課題の時には絶対に見た事がないであろう圧倒的な
それを見れば、どれほど自分が手加減されていたかが
「アルセルダ流…
より強大な、より神々しい光が
「す、すごすぎる……」
使い手の各属性によって変化するのがこの世界の剣術だ。
ルカの剣技、それも最上位の技。
「もう、これで決めるよ!」
『………!』
「はあああっ!!」
雷の剣がヤマテンへと斬り込まれる。
加速、加速、また加速する。
止まる事はもう考えられないほどの神速を、ルカは連続で叩き込む。
恐ろしい速さの進撃が殺到し、
だが、負けじと敵も応戦する。
信じられない反応速度で、その連続攻撃を押し返している。
王国最強クラスの聖騎士と、正体不明の侵略者。
両者一歩も譲らない。
「な、何か出来る事……」
「やめとけ、あそこに割り込んだりしたら死ぬぞ」
いつの間に背後に来たのか、カルロスが俺の判断を止めるように言う。
確かに、あれは流石に死ぬな。
今は…勝敗を見守るしかない。
「ていうか、アイツ強すぎないか?」
ルカ相手に全ての攻撃を防いでいる。
毎回、あんなのが出てきているのか?
いやまあ、そういうわけではないと思うが…。
「やあああっ!」
『……やるではないか』
「これで……終わりだああっ!」
強い気迫を放ち、ルカが
神速の連撃を終え、最後の一撃を繰り出そうとする。
――が、
『――もう、終わりだと?』
「!?」
ガギギィン! と
ルカが放った一撃は、ヤマテンの右手に受け止められていたのだ。
よく見てみると剣は、手のひらに当たる寸前、禍々しいオーラによって作られた障壁に防がれていた。
『……はあ、やはり罪人。正義である私に敵うはずもなかったな』
「な、何で……!?」
ルカが力を精一杯込めて剣を押すが、ピクリとも前に動く事は無かった。
『様子見は、これまでとする。――これより最後の
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