第四十話 「任務決行」

「大丈夫? 行ける?」


「はい、問題ありません。特に……疲れとかは無くなりました」


「そう、良かった〜。つい力入れすぎちゃったから心配だったんだ。ーーじゃあ、行こうか」


「……はい」


 翌日の朝。


 俺は昨日、負のスキルボードを用いてルカに立ち向かってみた。


 見事に、完敗したけどな。


 あの後気を失ったが、寝て起きて異常も見られず元気なので、そのまま今日の任務に参加する事となった。


 聖騎士の任務、【異空の使徒討伐作戦】に。



**



 森林へは馬で向かう。

 今は集合場所で待機中。


 任務には総勢三十人の聖騎士達と+俺で組まれる。


「……完全に場違いな気がするんだけど」


 皆さんが鎧を装備する中、俺だけ青色学園の制服姿だ。


 ひ、人目が刺さる…。


 俺がこの任務に参加することは当然普通ではない。


 タリアや騎士団長に無理矢理この件を通したと聞いている。


「はあ。ていうか、中々の規模の任務じゃないか? 俺が本当についていっても大丈夫なのか…?


 異空の使徒。

 一般市民の生活を脅かす、第三の敵。


 一体、どんな奴らと会えるのやら……。


 ちなみに、俺は騎乗なんて体験したことがないので、ルカの後ろに付く事となった。


 しばらくして、ルカが何か道具を持ってこちらにやってきた。


「じゃあ、渡せるものは今渡しておくよ。まず、これは聖紋と魔除けのブレスレット。絶対外さないでおいてね」


 そう言って俺に見慣れた聖紋と見慣れない腕輪をくれた。


 学園じゃなくても大活躍なのか聖紋。


 こっちのブレスレットは、魔除け?

 無駄な魔物との戦闘は控えるという事だろうか。


「じゃあ、馬を連れてくるよ。……後ろに乗せてあげるけど、変な所触らないでよ?」


「流石にそんな勇気ないですわ」


 その冗談は、なんというか怖いです。

 これ以上信頼度を下げたくない…。


「……鎧、か。そういえば、防具はまだ作ったことがないな。今度試しに作ってみるか」


「ーーほう、お前も参加するとは。こいつは驚いたな」


 不意に横から話しかけられた。


 声が聞こえた方を見てみると、そこには巨漢が腕を組みながら立っていた。


「おお、カルロスさんじゃないですか」


 トウギの教育監督である聖騎士、カルロスだ。

 ここ三日ほど会っていなかったな。


「カルロスさんも参加するんですね。……トウギは大丈夫でしたか?」


「トウギなら今は特に問題ないな。課題も順調にこなしてるし、そっちも負けないで頑張れよ!」


 あのトウギが大人しく課題。


 イライラしながらやってるに違いないなあ…。


「それに俺が参加するのは当然だろ?なんたって、なんだからな」


「……え?」


「岩の聖騎士、カルロス・バンフォードとは俺の事さ!!」


「さ、最上位聖騎士!?」


 カルロスが、一番上に君臨する最強の聖騎士なのか……?


「幸運に思ってくれよ? 俺達、最上位聖騎士が教育監督に就くことなんてそうないからな。この経験を決して忘れないでくれ」


「………………お、俺達?」


「なんだ、聞いていないのか? の奴も同じ最上位の聖騎士だぞ?」


 ーーま、マジで?


「おーい! お待たせ〜……って、何やってるの?」


「いいや? ちょっと話しかけただけだ。それじゃあなエバン・ベイカー! お互い死なないように頑張ろうぜ」


 ……………。


「さ、森に向かおう。早く後ろに乗りなよ」


 馬に乗ってきたルカが無言の俺にそう言う。


 ……き、急にルカさんが怖くなってきてしまった。



**



「く、くすぐったいよ。もっと力強く捕まっててくれないかな?」


「………………」


 聖騎士のランク。

 それは二つに分けられる。


 最上位と呼ばれる、実力が極めて優れている者がなれる聖騎士。


 と、その他大勢となる。


 実に分かりやすい上下関係だ。


 最上位聖騎士さいじょういせいきしには、属性の名が与えられる。

 例を挙げれば、『風の聖騎士』や『岩の聖騎士』みたいなやつだ。


 シンプルな称号だが、その属性を制したという意味がある。

 いわばそれは、冠位かんいとも呼べる最高権力の証。


 頂点に登った者達だけが名乗ることの許されるのだ。


「その、最強の聖騎士が……………」


「い、一体さっきからどうしたの?」


「……いや、もうなんでもないです」


 ルカが、クラウスと同じ立場の人間……。

 世界トップクラスの実力者……。


 タリアが何故ルカとカルロスを教育監督にしたのかがようやく分かった気がする。

 

「そろそろ近くまで到着するよ。準備は大丈夫かな?」


「はい。……まあ俺がするのは補助だけですけど」


「それだけでも大事な仕事さ、一緒に頑張ろう。さ、降りようか。ここからは徒歩で行くよ」


 俺とルカは馬から地面に降り立つ。


 それに連鎖するように、後ろの聖騎士達も馬から降りる。


「割れ目の難易度はいつも不明なんだ。簡単な時もあるし、災害級なものの可能性もある」


「ラ、ランダム…」


「今回のは魔力波長が少し高いだけだよ。万が一を備えてこの大人数ってわけ」


 なるほど……。


「私が君を極力守ってあげるから、君は自分の出来る事を探すんだ」


 俺がこうして参加できるのも、ルカやカルロス達が同行するからなんだな。


 皆さんと一緒のいると安心感がある。

 よし、俺も最大限の努力をするとしよう。


「じゃあみんな、歩こう。目標はーー異空の使徒討伐。標的は必ず出現し、見た人間を攻撃する。怪我人は出しても死者は決して出すことのないよう、心してかかろう!」


「「「了解」」」


 ……どちらかと言うと、軍隊の作戦のようにも見えるな。


 統率はしっかり取れている。

 場を乱す者も誰もいないし、流石は聖騎士団と名乗る事だけはあるな。


「ーー作戦開始」


 皆が一斉に歩き出した。


 ついに、始まるらしい。


 森林の中を周囲を注意しながら進む。


 して、空間の割れ目というのはどれなんだろう。


 見た目を聞くの忘れたな……。


「……って、もしかしてあれか?」


 森林の開けた場所。


 その中心に、不自然な裂け目が存在していた。


 太陽の光を浴びて、より禍々しそうなオーラがテラテラと輝いているのが分かる。


「そうだ、あれが割れ目だ。あそこから毎回何かしらが出てくる」


 カルロスが隣に来て説明してくれる。


「人型、獣型、はたまた異形のやつまで。その種類は様々だ。いくら可愛らしい猫のような姿でも、。それは、絶対に俺達に敵対してくる」


「……分かりました」


 先行してルカとカルロスが前に出て割れ目に近づく。


 俺と聖騎士達がそれに続いていく。


 剣、盾、槍、弓、杖。


 それぞれの持つ武器を構えて警戒心を高める。


「さあ、これだけ近づいたんだ。さっさと出てきやがれ……


 カルロスが空間の割れ目に向かって大きな声で話しかける。


 すると……、


『ーーーーーー』


「「「!?」」」


 言葉、なのだろうか。


 突然何かを喋っているような音が聞こえてきた。


 だが、それはまるで理解できない。

 何を言っているのかが、理解できない。


 少なくともこちらの世界にはないようなだった。


 そして、


『ーーわーーはーー」


 段々と、この世界の言葉に変換されていくような。


 “それ”が発する声の意味が分かるようになってきた。


 聖騎士の皆んなも俺と同じように、戸惑うような顔色になっている。

 

 そして、そいつは空間の割れ目を破って出てきたんだ。


 そいつはあやしいオーラを纏いながら、こう言った気がした。


『ーー私が…罪人を罰し、罪人を地獄へいざなう。恐れ、ひざまずけ』


 正気とも言えない言動を放つ。


 その姿は………。


「「「なっ!?」」」


『ーーそれを邪魔する者も、また同じ、罪人である』



 ーー何も衣類を纏っていない、裸の女性だ。



 白髪の、美しいとも言える幻想的な容姿。


 そんな美女が、こちらを申し分程度に大事な所を隠しながら睨んでくる。


 い、いやいやいやいや――。


「………た」


「「「戦いにくいわっ!!」」」



 ……皆が赤面しながら同じ意見を口にした。


 こ、これが共感性差恥というものなのか!!

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