第三章 見習い聖騎士(仮)編
第三十七話 「聖騎士からの課題」
俺はエバン・ベイカー。
鍛治師として転生した元地球生まれ元日本人だ。
昨日の事件、『第二悪襲撃』は世界にあっという間に広まったらしい。
青色学園の生徒二人が立ち向かい、退けたってな。
俺とトウギの名前は公表されなかった。
絶聖決闘をしていたんだ。
許される行為ではなく、そんな奴が救ったのかという批判をさせない為らしい。
そして、俺は追放をタリア校長に伝えられたが一ヶ月の停学だけというありがたい処置。
寛大な心に感謝しなければ。
そんな校長は俺達をもっとより良い生徒に仕上げる為、ある所に依頼したらしい。
それが俺の目の前にそびえ立つ一際大きい建物。
アルセルダ聖騎士団、その本部だ。
「おお〜ここが聖騎士団の根元か。……ちょっとボロいかもな」
もっも神聖なイメージがあったのだが、まあ、うん、問題ないよ別に。
「さて、着いたらお出迎えがあるって聞いたけど…」
誰も、いないな。
もしかして歓迎されていない……ってそりゃそうだわ。
俺は不良に成り下がってしまったからな。
タリアから中に入る為に案内をしてくれる人が待機してくれていると話を聞いたのだが、それらしき人は見当たらない。
「ーーおい!もう一度言ってみやがれ!」
………………。
「もう、帰りたくなってきたな」
入り口で一人で突っ立っていると、中から何やら争う声が聞こえてきた。
早速ですか?
もうちょっと間っていうものを考えよう?
恐る恐る聖騎士団本部の扉に手をかけ、ゆっくりと開けて中の様子を見てみる。
そこには予想通り、先ほどの大声の持ち主であるトウギがいた。また怒った顔をしている。
それに対峙している大柄の男が一人腕を組んで佇んでいた。
「何度も言わせるな、お前は最底辺だと言ったんだ。お前がここに来た理由を忘れるな」
「はっ! 俺より弱い奴がいるってのが分からねえのか? 俺はそいつより強い、俺は最底辺じゃねえ!」
「お前とそいつは同じくらい低いという事だ」
おっと?
そいつというのはもしや俺の事ではあるまいな?
「おい……テメェ何をそこで見てやがる?」
「げっ」
そっと扉を閉めようとする前にトウギに見つかってしまった。
「エバン・ベイカー、テメェからもコイツに言え! 俺がお前よりも遥かに優れてるって事をよお!」
「なんだとこらふざけんな」
そこまでストレートに言われると腹が立つな。
やるか? 戦争かおい。
「む、君がもう一人の“追放者”だな? こっちは比較的トウギ・リンベより大人しそうだ」
「あ、どうも。エバン・ベイカーです」
俺は軽くその男に挨拶をした。
それよりこの人は誰だ?
「ああ、俺はカルロス。聖騎士だ。今日からトウギ・リンベの教育監督を務める事になっている」
カルロスは自分の自己紹介をしてくれる。
このマッチョも聖騎士か。
実力さえあれば誰でも聖騎士になれるのかもしれない。
教育監督とは何だ?
専属の先生みたいなものだろうか。
「お前の教育監督はどうした? 入り口に待機していなかったか?」
「いえ……いませんでしたけど」
「……はあ、またか。あれだけ待ってろと言ったのに」
何か小声で言ってるな。
上手く聞き取れなかったが……。
「ちょっと待っていてくれ、すぐに戻ってくるだろう。アイツは気まぐれな奴でな」
「は、はあ…?」
俺はその気まぐれな奴という奴をしばらく待つ事にした。
**
「ま、まだ来ない!」
あれから二時間くらいだろうか。
それでも俺の教育監督はやってこなかった。
トウギとカルロスはどこかへ行ってしまい、俺は一人入り口の側のソファーで座っている。
「何かトラブルでもあったのか? いくら何でも遅すぎやしないか……?」
他の聖騎士の人にも聞いたが、どこに行ったのかは分からないらしい。
口々に言われたのが、『いつか来るから待て』。
みんな半笑いしていたな。
「……武器でも作って待ってるか」
流石に暇なので、異次元鍛冶場を作って武器の製作に入ろうと思う。
ちょっと変わったアイデアも浮かんだし、試しに作ってみようかなとーー。
「ただいまー!」
突然扉がバンッ! と勢いよく開かれ、そんな言葉が耳に聞こえてきた。
スキルを使うのをやめてそちらを見てみる。
「いやあ、疲れたでしょルシェ? さっさとシャワー浴びて私と稽古の続きをしよう!」
「今日はやめとくよお姉ちゃん……もうちょっと体を休ませないと」
二人の女性が会話をしながら入ってきた。
一人は聖騎士の服装を見に纏い、一人はうちの学園の制服を着ていた。
「ん? ……あーーー!!」
「な、何だ!?」
聖騎士らしき女性が俺を見た瞬間突然声を上げた。
そして俺の方に向かって歩いてくる。
しっかしすごい顔だなおい。
まるで何か大切な事を思い出したような……。
まさか……。
「き、君、エバン・ベイカー君だよね?」
「まあ、はい。そうですが」
「……ご、ごめん。忘れてたよ」
……もしかしなくてもこの人が俺の教育監督だな。
忘れてた? 俺を?
こちとら二時間以上待たされてんだけど。
「いや〜ごめんね〜? ルシェのお迎えに行っちゃってさ。すっかり教育監督なのほったらかしちゃったよ〜」
「ルシェ?」
あの困ったような顔を浮かべている女の子がこちらの様子を窺っている。
どことなくこの人と似ている…姉妹だろうか。
俺も迎えられる側なんですけど。
後回しにされたんだな。
「あ、自己紹介しなきゃ! 私はルカだよ、聖騎士やつまてまーす。で〜こっちが妹のルシェ。可愛いでしょ?」
「……ルシェです。早速お姉ちゃんがやらかしちゃったみたいですね、ごめんなさい……」
ルシェがルカに肩を引っ張られてこちらにやってきた。
「えっと、君はその、悪くないから謝らなくてもいいよ」
こっちが申し訳ない気持ちになるから…。
「もう学校に来なくていいからね、お姉ちゃん。私もう何回も言ってる筈だよ? こうやって困る人が増えていくんだから」
「え〜、だって暇なんだもん」
おい、あんた暇じゃないだろ。
俺の存在を無かった事にしないでくれ。
「エバン・ベイカーです。今日からここに通う事になっているので、一ヶ月の間ですがよろしくお願いします」
「礼儀がいいのは良い事だね。とても絶聖決闘をした子には見えないけどな〜」
そりゃそうだろう。
こんな所で学園のように振る舞ったら白い目で見られそうだからな。
何とか感情を抑えて表に出さないようにしよう。
「さて、じゃあ私が教える事を先に伝えておこうかな」
俺はタリアからこう聞いた。
『君は明日から仮の聖騎士見習いになってもらう。本物の聖騎士から直接教えを請う事が出来る。このチャンスを決して無駄にしないように!』とのこと。
そして、どうやらその聖騎士に課題が課されるらしいのだ。
それをクリアすれば晴れて合格という形になり、学園へ舞い戻れるという。
一ヶ月の期間という話だが、早い段階クリアできればその場で即停学解除なのだ。
なんて豪快な事だろう。
「ではまず、自分の武器を持ってグラウンドへレッツゴー!」
グラウンド……確かこの建物の裏に校庭みたいな練習場があったんだっけか。
そう指示されたので、俺は手ぶらで外へ出ようとする。
「あ、あれ? エバン武器は?」
「お構いなく。いつでも取り出せるので」
「??」
よく分からないと言った顔をされるが、いつもの事なので無視してグラウンドへ向かう。
「ルシェは? ちょっと見ていく?」
「……ちょっとだけ見学させてもらおうかな。リンベ先輩と渡り合ったっていう話を聞いたから、どんな人なのか気になるし……」
「よし、じゃあ一緒に行こう!」
**
俺達は広大なグラウンドへとやってきた。
長く使われているのか、所々の整備が古い。
ここで、みんな鍛えてるのかな?
「私から出す課題はたった一つだけだよ。案外簡単かもしれないからすぐに終わっちゃうかも?」
ほう簡単とな。
でも、信用できないんだよなぁ……。
ほらこの世界ってあれじゃん?
簡単とか言ってるけど本人だけが簡単なのであって、俺達弱者には厳しいっていうのが成り立つ世界じゃん?
さあ、一体どんなものなんでしょうね!
「いたってシンプル!
「一本? それって……」
「うん、
組み手。
ソーマやアルフレッドにしっかり真面目にやれと言ってきた特訓科目。
まさか、俺が聖騎士とやる事になるとは…。
「でも、これはいけるんじゃないか?」
だってイダテンとか使えばいい話だもんな。
ホロウ・ナイトメアを使ったら即終了な気がするのだが……。
ま、いっか。
取り敢えず、相手より速く動いて一撃を食らわせる。
それだけなら、まだ大変でもなんでもない。
「もう始めてもよろしいですかー?」
「うん! いつでもいいよー!」
俺とルカは一定の距離を離して向かい合う。
よし、やろう。
俺は右手に筋力増強の剣、左手にライト・ジェネラルを取り出す。
一気に筋力と俊敏性を上げ、走り出す体勢に入る。
思い切り地面を踏み込んで、俺は二秒間トップスピードの状態になった。
トウギとの決闘よりも身体能力が上がっているのが自分の中で確認できた。
やはり、クラウスが言っていた『銀眼』になっていた時の影響だろうか。
よく分からないが、強くなっているのならば儲けものだ。
いつもより一段階速い動きで走れるようになっていた。
距離を縮め、ルカの元へ迫る。
あっという間に目の前まで到着。
俺は、筋力を最大限に引き上げながら剣を下ろーー
「あー! ダメだよズルしちゃ!」
「え?」
そんな言葉を聞いた時にはもう剣は振り落とされていた。
カキンッ! と金属音が鳴り響く。
俺はルカの方を見るが正面にはいなかった。
振り返って見ると、いつの間にか俺の少し斜め後ろにいるのがわかった。
何が起きたのか咄嗟に判断できない。
少し考えて、俺は剣が少し軽くなっているのにやっと気がついた。
しゅんしゅんしゅん、ずさっ。
何かが降ってきて落ちた音がした。
それが何なのか前を見てみると、俺の剣の刃だったのだ。
俺が持っていたのは既に剣ではないただの
「事前に言ってなかった! いやあごめんね〜、私忘れっぽいからさ。
ーー前言撤回だ。
彼女が聖騎士だと言う事を忘れていた。
俺やトウギなんかより経験がある先輩なのだ。
強いのは当たり前だ。
ただ、能力付きの武器は使用禁止?
「……俺を殺す気なのか?」
今更この課題が俺にとって地獄のようなハードミッションだという事に気がつくのであった。
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