第三十六話 「一時休戦」

 ーー俺は目が覚めた。


 どれくらい眠っていたのだろう。

 知ってるような、知らないような天井が見える。


「……いっつ、頭痛いな」


 ここは、ベッドの上だろうか。

 背中全体に布の感覚がある。


 体が重い。

 俺はそこから上手く起き上がれないでいた。


「気が付いたかい?」


 隣を見てみると、クラウスが椅子に座ってこちらを見ていた。

 リンゴらしき果実の皮を剥いている。


「クラウス……。俺、どれくらいここに?」


「ん〜? 四時間くらいじゃないかな」


 あ、そんなに時間は経ってないんだ。


 てっきりめちゃくちゃ昏睡状態だったと思ったのだが、案外平気らしい。


「全くびっくりしたよ。君があの第二の悪と対峙していたんだからね。本当に、よく無事でいられたものだよ」


 俺に賞賛なのか心配なのか分からない言葉をかけてくれる。


 実際のところ、


 麻痺の状態異常にかかった後、なんか声がしたんだよな。 


 それで、その後どうなったんだっけ?

 マジで記憶が曖昧だ。


「なあ、あの後大丈夫だったのか?」


「ああ、みんな無事だよ。リンベ君と君しか負傷者は出ていないね、これは奇跡に近い事だ。」


「奇跡?」


「そりゃそうさ、世界共大悪と戦ってが出ていないなんてそうない事なんだ」


「そ、そんなに……?」


 流石最悪の指名手配犯だな。

 そんな風に言われるのはなかなかないぞ…。


「あの二人組が去った後、闘技場にいた人達の状態はすぐに回復した。かなり強力な魔法だったようで、タリアも悔しがってたよ。『何も出来なかった、不甲斐ない』って」


 それは、そうだろうな。


 タリアはこの学園の校長であり統率者だ。

 その場にいたのに何も出来なかった、なんてレッテルは非常に無念だと思う。


「ーーちょいちょい、胸を抉るような話はしないでおくれよ」


 タリアが扉を開けてやってきた。

 どうやら話をちょっと聞いていたようだ。

 クラウスの後ろから俺の方へ歩いてくる。


「はあ、こっちは気分だだ下がりだよ〜。まさか世界共大悪が直接乗り込んでくるなんて思わないじゃないか。せっかく久しぶりの決闘を楽しんでいたって言うのに」


「本当ですよ。この国の警備どうなってんすか」


「彼ら、突然現れる習性があるんだよ。それでいて何を考えてるのか分からないんだから、厄介極まりないよね」


「突然、って本当に突然?」


「まあ第二の悪は事前にこの国にいるかも? って言う情報はあったんだけど、これがなかなか見つからない。やっと姿を現したと思ったらすぐにどこかへ行ってしまったという事さ」


 へぇ〜。


 ……………おっと?


「え? 前からこの国にいたの? アイツら」


「え? 知らなかったのかい? 一ヶ月前に関連した事件があったんだけど…」


 知らないですー。


 なんで毎回毎回俺は何も情報が入ってこないのだろう……。

 この世界の人達は、常に危険と隣り合わせの中暮らしているのが本当に屈強だ。


「あ、そうだった! それよりも君に伝えなければならない事があったんだった」


 伝えたい事?

 何だ?


「エバン君、良い話と悪い話があるんだけど、どっちから聞きたい?」


「何ですかそのよくある流れ」


 明らかに怪しい。

 良い話はいいとして、悪い話が怖い。


「じゃあ……良い話からーー」


「あ、悪い話からできれば聞いてほしいかな」


 じゃあ聞くなや。

 何なんだよこの人。


「……悪い話からで」


「了解。じゃあ悪い話を発表しよう」


 一体、何の話だろう。

 最近は変な事はしていないはずだが……。



「ーーエバン君とトウギ君はこの学園から追放することが決まった」


「へぇー? 追ほ………………………………え?」


 聞き間違いだろうか?

 いや、きっと聞き間違いだ。


「すみません、もう一回言ってもらってもいいですかね?」


「エバン君とトウギ君はこの学園から追放することが決まった」


 ガタン。


 クラウスが剥いていた果実を床に落としてしまっている。

 俺とおそらく同じ顔をしているのが見えた。


「「はい?」」


 同時によく分からないと言った声を出す。


「ど、どういう事だいタリア!?」


「どういう事も何もないよ? だって、二人は通常の決闘ではなく絶聖決闘をしたんだから。当たり前の事だと思うけどね」


 クラウスがマジで? と言っているような顔をこちらに向けてくる。

 俺は今大量の汗が出てきそうなくらい暑い。


「絶聖決闘はいかなる理由があろうとも決して行ってはいけない決闘。最初は普通の決闘だろうと私達は思っていたんだが、エバンの勝利報酬とやらを聞いてね」


「え、エバン……? 絶聖決闘は断ったはずじゃあ……」


「………………………………」


 そういえばクラウスには伝えてなかったな。

 普通の決闘をしていると思っていたのだろうか。


「トウギ君は言わずもがな、禁止事項を行った二人にはこの学園にいる事は許さず、追放の形にするとついさっき会議で決まってしまったんだ」


 ーー終わった……。


 俺、もう学生することは許されないのか?

 聖騎士の資格はどうなる?

 怒りに任せて受けた時点で人生詰んでいたのか?

 魔王軍への復讐はどうなる?


 ああ、終わった……。


「まあそんな絶望した顔せずに、次の良い話を聞きたまえよ」


 ……今更そんな話聞いたってーー。


「ただし、追放は一ヶ月の期間に限る」


「「……………え!?」」


 聞き間違いだろうか。

 いや、聞き間違いであってほしくない。


「い、一ヶ月……だけ?」


「今回それだけの事をしたってことさ。君とトウギ君は仮にも世界共大悪を退けた、誰も犠牲者を出さずにね。その功績に免じて今回は、ね」


 ま、マジか!!


「やったよクラウス! 一ヶ月の停学だけで済むってさ!」


「良かったねエバン! じゃないよ! どうして何も言ってくれなかったんだ!?」


「い、いや〜昨日決まっちゃった事だし……クラウス仕事でいなかったし…」


 何はともあれ俺はまだこの学園にいられるっていう事だよな?

 一ヶ月は行けないけど……。


 ……審査試合どうしよ。


「ああ、それと一ヶ月の期間。君達二人はある所に預けられる事になるから、泊まる用意をしておくように」


「え? ある所?」


 ずっと家にいろって言う事ではないらしい。

 俺達は一応禁止事項を冒した生徒。

 どこかに行って良い奴に生まれ変わらされるのだろうか?


「それは、一体……」


「ーー聖騎士団本部だよ」


 ほう、聖騎士団ほーー。



 …………ふぁ??????



**



「ーーと、言うわけなんだよ」


「……マジか。まあそうなるか〜」


「まだ軽い方だと思った方が良いかもしれませんね」


 翌日。

 俺はアルフレッド、ソーマ、リーチの三人に事情を話した。


 自分達が眠っている間に何が起きたのか。

 俺とトウギの絶聖決闘での処分の有無。

 俺がその一ヶ月の停学中どこへ行くのか。

 あとは、その他諸々の感想くらいだな。


「元々は僕の無力のせいなのに…エバンが受けるのは……」


「いいんだよ、俺が勝手にやった事なんだ。退学されないだけありがたいもんだぜ」


「エバン…」


「それに、お前はもう傷つかないで済む。借金はどうにもできないけど…取り敢えず俺がムカつく事態にはならないだろう」


 別に正義の味方ぶってる訳じゃない。

 そんなのに到底なれるとは思ってないしな。


 ただ自分と同じ、それ以下の状況になっていたのが悔しくて、何故か俺を動かした。

 それだけに過ぎないんだ。


「まあ、それが俺に降り掛からなければもっと嬉しいんだが」


 これから俺はトウギと共に聖騎士団の元へ足を踏み入れる。

 トウギは……な、仲良くできればいいなあ。


「…それでなんだけどさ。俺、ソーマにお願いしたい事があるんだよね」


「お願い?……僕に出来る事ならやるよ。君は僕の救世主みたいなものなんだから」


「そりゃ助かるな、じゃあ遠慮なく…。俺の代わりに、審査試合に出て欲しいんだよ」


 そう、審査試合だ。

 四争祭の選手を決めるチーム対抗戦。


 俺は一ヶ月ここにいないんだ。

 当然席に空きができてしまう。

 リーチのように、俺の代理としてソーマに出て欲しいという事だ。


 選手変更はいつでも認められている。

 あとはソーマがオーケーしてくれるだけだ。


「そ、そんな事でいいのかい? てっきり僕を奴隷のように扱うかと……」


「俺をなんだと思ってんの!? そんな癖無いから!!」


「そんなの、勿論大丈夫だよ。戦力になるかは不安だけど、少しでも役に立てたらと思う」


「本当か!」


 やった!!

 これでまだ平気になる!!


 俺はトウギに勝った形になったが、学生序列の変動はどうやら認められなかったらしい。

 よって、まだ最下位にいたままだ。


 俺がいないにしろ、このままだったら最下位のままでどっちにしろ退学にさせられるかもしれなかったのだ。


「どうにかして役に立ってくれ。負ければおじゃんだからな。一ヶ月前に言った特訓を忘れるなよ!!」


「じ、重剣か〜…なるべく努力はしてみるよ」


 これで俺を除いたチームが新たに完成された。

 ソーマ、アルフレッド、リーチの三人。


 みんなが勝ち上がってくれて俺が途中参加できるとしたら…時間的に最後の試合になるな。


 それまでに、武器を鍛えよう。

 俺は鍛治師なんだからな。

 作ることが本職だ。


 完成した武器を二人に渡すのが楽しみだ。

 大きく、『お荷物組』の力が上がる事だろう。


 ーーさて。


 そろそろみんなにしばらくのお別れを言うとしよう。


 そして、俺はこれから聖騎士団本部へと向かう。

 確か隣の第三地区のホワイトにあるんだったか。


 ……どうか、厄介事が訪れませんように。


 俺は、まだこの世界に負ける訳にはいかないのだから。

 


*****


 これにて第二章終了です!

 如何でしたでしょうか?私にとっては…な、長かった。

 約二ヶ月でこれとは大変だな〜……。


 まだまだ続くと思うので、ぜひご覧になってください。

 次は、第三章です。


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