第三十一話 「バーサスタイラント・①」

「エバン君もさ、ハードな道を行くよね」


 決闘試合の始まる前、タリア校長と教員達が今回の争いについて話し合っていた。


「あのリンベ君の目の前で文句を言って反感を買うなんて、エバン君くらいしかいないんじゃないかな?」


「それよりも校長先生、何故こんな危険な決闘を見過ごすのかお答えしていただきたい」


 エバンの担任であるテイラーがこの一方的に終わると考えられる決闘、それも絶聖決闘という禁止事項を何故許可する判断をくだしたのか、タリアに真意を問う。


「そんなの興味本位に決まっているだろう? エバン君も何かを意図して決闘に応じたに違いない。大丈夫、君の生徒はきっと面白いものを見せてくれる」


「……無謀すぎます。エバンは私のクラス、いえ、学年一の成績不良者です。対してトウギ・リンベは素行のせいで落とされていますが、を争う程の才能の持ち主。もし、何か良からぬ事が起きれば……」


「……大丈夫さ、その為に私が来たんだ。予想外の事態に陥った時は任せてほしい」


「ですがーー」


「それにね、私は今感動しているんだよ」


「感動、ですか?」


 タリアは階段から上がってきたエバンを見て話す。


「四色学園の下の下、すなわち最下位に座らされた戦士ではない鍛治師の少年」


 エバンとトウギの決闘がまもなく始まる。


 そんな中、タリアは一つの可能性を信じていた。


「そんな弱者である少年が不利な戦場に立ち、生まれながらの強者に挑む。ーー良いじゃないか! 彼は、強者だけが生き残るルールの世界をぶち壊しにきた救世主イレギュラーになろうとしているんだ!」


「は、はあ……?」


 テイラーは理解できない。

 聖騎士と一般教師では考え方が根本的に違うのかと、疑ってしまうほどに。


「要約してあげよう。何が言いたいかと言うとね、逆境の中でエバン・ベイカーが勝つ事があれば、この学園の全てがひっくり返ると言う事だよ。他の生徒も自身がそれなりに付くんじゃないかな?」


 語り終えたタリアは舞台で睨み合う両者に視線を向け、どうなるのかをしかと見届ける体勢に入る。


「例年、学生序列の上位者が学園を支配していた。それでは皆がもっと上を目指して強くなれない。エバン君にはそのきっかけになってほしいんだ」


 審判が決闘の始まりを告げる動作に入った。


 武器を構え、闘技場に集まっている全ての生徒が今か今かと待っている。



「諸君、これは今までにない決闘になるだろう。中々に、見ものだぞ?」


 校長の言葉と共に、前代未聞の対決が今始まった。


 武術に優れた暴剣士対、変幻自在の異質な鍛治師。


 突出した優秀な部分が異なる者同士のぶつかり合い。

 タリアはその結末を目に焼き付ける事にしたのであった。



**



 決闘が始まってすぐ、トウギが先手を仕掛けた。

 大きく一歩を踏み出してこう叫ぶ。


「ーー『魔強・剣光』っ!!」


 剣先が淡く光り始め、やがて全身を覆い尽くす。


 これは、ソーマが使っていたやつの光属性バージョンか。

 確か剣の強度などを魔法で上げて戦い易くする技だったな。


 だがよく見てみると、トウギが使用している魔強は一味違う気がする。


 薄いのだ。


 ソーマのものに比べると二段階ほど厚くないのが確認できた。

 にも関わらず、魔法で編まれた魔力強度が弱まる事はなかった。

 非常に繊細に剣に纏わせている証拠、それを一瞬で行う技術の高さ。


 それだけ相手が強敵だという事を改めて理解した。

 

 体を前に出し、もう一度踏み出す動作をしようおしている。


「来るか?」


 まずはトウギの出方を見ようか。

 反撃できるなら可能な限りーー?


 と考えていた途端、視界にトウギが消えた。


 そして次の瞬間に、また視界に現れる。



 ーー俺のすぐ目の前に、剣を振りかぶった状態で。



「まあそう来ると思ってたぜ!」


 予想はしていた。


 速いやつって俺みたいな弱そうなやつ相手だと大体真正面から速攻で仕掛けてくるんじゃ? と。

 リーチの時もそうだったからな。

 様子見って事もあるかもしれない。

 

 俺は予め準備したクイックチェンジで盾を呼び出し攻撃を受け止めようとする。


 こっちだって学習してんだ。

 盾で弾いた後、すぐにカウンターを……。


「うおっ! お、おもっ……!!」


 繰り出そうとしたがそれは失敗に終わった。


 ガンッ! という音を立ててガードする事には成功したが、想像したいたよりも遥かに威力が違った。


 何故なら、


 防御するのに手一杯で弾く事が出来ない。

 こちらは片手のシールド。

 長く保つ事なんて不可能だ。


「へえ? やるじゃねえか。これで一撃でノックアウトにしてやろうと思ったんだがな」


 トウギの力は信じられないほどに上昇していく。


 あれ? ちょ、ちょっと待ってくれ。

 マジで弾く事も押し返す事もできないんだが!


「お、おいおい。一撃でなんて倒れるわけがないだろ? あんまり舐めてもらっちゃ痛い目見るぜ…?」


 精一杯の見栄を張って平然を保つ。

 だが、片腕の限界を保つ事ができない状態になってしまう。

 どうやらトウギは盾ごと破壊してそのまま剣撃を入れようとしてようだ。


 盾がみしみしと音を立て始めた。


「嘘だろ!? 鉄製の盾だぞ!」


 魔法の剣は容易に叩き割ろうとしている。

 このままでは盾は真っ二つに割れ、俺の腕が持っていかれるだろう。


 本格的にまずい……!

 とにかくこの体勢から脱出しなければ。


 俺は細剣を使うのをやめて、細剣から奇杖に持ち替える。


「『イダテン!!』」


 ライト・ジェネラルの能力を引き出し、機動力を跳ね上げる。

 そのまま後ろ走りで後退を図る。

 だが……、


「マジか!?」


 大きく後ずさったと同時に、トウギが同じ速度で追いかけてきた。

 一旦落ち着く事もままならない。

 

 トウギの剣が俺の頭から振り落とされた。

 轟音を立てて砂埃が舞う。


 闘技場の観客席からはどうなったか上手く捉えた者は数少ないだろう。


 やがて砂の霧が晴れ、二人の姿が確認できた。

 エバンの聖紋が発動するかと思われたがそんな様子は無く、両者ともに再び距離を取り相手の動きを伺う体勢になっている。


 どうやら何とかその剣撃を護剣の『自動攻撃予測防御』で受け流したらしい。


「本当に危なかった……」


 この武器が無ければ俺はとっくにゲームオーバーだった。


「これが、第八位……!」


 力とスピードがトップクラス。

 リーチで慣れたつもりだったがやはり格上。

 隙がない動きに暴れ者に相応しい怪力だ。



「………う、」


「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 闘技場が大熱狂で埋め尽くされる。

 今の僅かな戦いでこんなに沸き上がるのか。


「おいおい、あれが最下位だって誰が言ってたんだ!?」


「あのトウギ先輩相手にまだ立っていられるなんて……」


「あいつ鍛治師って自称してたよな? あんな速い動きどうやってやってんだよ!!」


「ベイカー! その調子でそのまま倒しちまえよー!」


 まさかの大絶賛に笑みが溢れてしまう。

 おいおい、そんな事言われたらますます負ける気が無くなってくるよなあ?


 まあ、ほとんど武器のおかげなんですけども。


「ちっ、煩え観客だなおい。今ので大抵の奴は倒れている筈なんだが……これは少し甘く見過ぎたか?」


「今更気付いたのか? でももう遅いぜ、まだまだ披露していない武器が山ほどあるんだ。じっくり堪能してくれよ」


「はっ、じゃあその全部をへし折れば、テメェの泣きっ面を拝めるわけだなっ!」


 トウギがさらに魔力を込め始める。


 身体能力を一段階上げる気か。

 これ以上相手のペースに持ち込ませるわけにはいかない。


「……よし、仕掛けるか」


 上手くいけば一太刀で終わらせる事が可能なお得意の初見技を。


 再度細剣を取り出して能力を引き出す。

 トウギが強化している今がチャンスだ。

 邪魔者はいない。


 ……これなら俺は、相手が動き出す前に先に武器の特殊能力を発動させられる自信がある。



 ほら、もう完成した。

 


「来い、ベイカー。そのことごとくをねじ伏せてやる」


『ーーああ、もう来ているよ』


 ザシュッ。


 トウギはそんな音を聞いた。

 それは自分が幾度となく出してきたの音に酷似している。


 一体どうやって近づいてきたのか分からない。


 エバンが目の前で屈みながら剣を振り終わったようなポーズをしている。


「こ、れは、一体どうなっていや、がる……?」


 理解が追いつかない。


 トウギはこの予想外の出来事に初めて焦りを露わにした。


 先程までの一方的な攻めは何処へやら、何が起こったか分からない状況に生徒達は声も出ない。


 ただ一つだけ分かる事があるとすれば、



 という事だけだった。



**――トウギ視点



 ーー何が起きた?


 トウギはこの緊急事態が理解出来ないでいる。

 自分の体が斬られ、血が止まらないでいた。

 エバン・ベイカーを侮っていた故に、信じられない事が起きてしまったのだ。


 こんな事はあり得ない、絶対に。


 何故なら俺はアイツより強いからだ。

 それ以外に説明しようがない。


 だから、こんな事は起きようがない。


 何かカラクリがあるはずだ。

 トウギは

 その考えを意識した瞬間、おかしな事に気が付き始める。


 まずエバン・ベイカーの実力について。


 さっきまで鈍い動きで俺の攻撃を防ぐのに精一杯だったはずなのに、あの速さの急変は異常だ。


 あんなに動けるのなら開幕で決着をつけられたはずだが、何故かそれをしなかった。

 俺を舐めてかかっただけの可能性もあるが。


 次に、聖紋が発動していないという事。


 聖紋は持ち主が致命傷となり得る攻撃を瞬時に反応し、防御障壁を展開するように作られている。


 たとえどんなに強力で破られようとも必ず防ごうと働くはずなのだが、何故か機能しなかった。

 不良品なんてない筈だが。


 そして、最後の不可解。

 それはだ。


 俺は凡人とは違うが人間ではある。

 これだけ血が溢れるほどの斬撃を食らえば只では済まない。


 それなのに、何も痛覚は感じられない。

 これが他の二つをさらにおかしいと引き立てる原因とも言えるだろう。


 実際に起こり得ない出来事がこんなにも一度に重なってしまう事などあってはならない。


 であれば、辿り着く答えは一つ。


 

 



 これは完全なる、トウギの勘。

 この答えは普通の者には容易に考えられる事ではないだろう。


 しかし、彼の本能スキルが告げているのだ。

 今すぐ夢から目覚めなければ自分の身体に危険が降りかかる、と。


 ――一刻も早くこの状況から脱する為、トウギは咆哮を上げる。


 


**



「よし、引っかかった!」


 俺は能力が発動した事を確認して安堵する。


 トウギは魔力を溜める事を途中で止め、そのままの格好で動かなくなってしまった。


 俺以外の闘技場にいる全員がその状態だ。

 アルフレッド達やエウリア達も目は開いているが、話したり動いたりする事が出来なくなっている。

 よく見てみれば先生方も同様だ。


 細剣の剣先を地面から離し、トウギの元に歩いて近づく。

 俺の足音だけがこの場に鳴り響く様は、この決闘において相応しくないものであった。


「おお、本当に皆んな固まってる。初めて使うもんだから不安だったが、やっぱり俺の武器はちゃんと機能はするようだな」


 さて、今俺がした事を説明してあげよう。


 言うまでもないが、これはが作り出した空間だ。


 自信作と胸を張って言う事ができる数少ない強武器。その名も、魔剣ホロウ・ナイトメア。


 名前の通りの能力が付与された武器だ。

 これが恐ろしい程の力を秘めている。


 それは範囲内の対象にとっての悪夢を見せて行動不能にするというもの。

 最も嫌だと思わせる出来事をしばらくの間見せ続けさせる事ができるという、俺が食らえば発狂しそうな武器。

 悪夢を見せる対象は一人、対象が見ている夢をその他の者に写して見せる。

 

 トウギなら……俺が超強くなって反撃してくるとかそんな感じの夢かもしれない。


 効果範囲内であれば全員に受けさせる事が可能で、まとめて行動できなくする事も出来るのだ。


 ランクはA+であり、完成度は何と驚異の89%

 一日一回しか使えないが、かなり強力なバインドアタックとなり得るのだ。


 俺の武器は癖の強いものが多いが、この剣はかなりの高性能の武器となる。

 

 だが、この魔剣にも弱点は当然存在する。


 その一、悪夢を見終わってしまう事。

 制限時間は限られており、魔剣が能力発動の活動限界まで行くと自動的に解除される。

 

 そのニ、相手の心が強い場合。

 心が頑丈であればあるほどに魔剣の能力は薄れるとの事。

 心が澄み切った人や強靭な精神力を持った人には僅かな時間で解除されてしまう。

 逆に不安である状態や何か不都合な事を考えている人にはより長く悪夢が続く。

 

 まあそれだけだけどな。

 どんな奴でも最短でも一分は掛かってくれるだろう。

 トウギは何かとプライドが高い性格だ。


「予想だと……あと3分ちょいか?」


 余裕を持った俺は調子に乗って歩いて向かう。


「トウギ先輩よ、これはズルじゃないぜ?だから後でいちゃもんとか付けないでくれよ」


 細剣を持つもう片方の腕に筋力増強の剣を装備する。

 剣を頭の上に振りかざす体勢に入る。


「よし、じゃあ聖紋発動させて終わらせよう。無抵抗の相手を斬り伏せるのは気が引けるけど、……勝負は勝負、だよな?」


 や、やりずらい。


 でもやらないとな。

 これで俺の、勝ちだっ!!


 俺は勢いよくトウギに向けて剣を振り落とした。

 この決闘はこうして呆気なく幕を閉じーー。




「『ーーお゛』」



「……………あら?」



「『お゛、お゛お゛お゛お゛お゛お゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!!!!!!』」



 突如、トウギが凄まじい気迫を纏う叫び声が闘技場全体に響き渡るように発せられた。


 衝撃波が流れるように襲い掛かり、咄嗟に防御するように腕を交差させて顔の前を覆う。

 だがその抵抗は虚しく、衝撃が俺の体を大きく後ろに吹き飛ばす。


「ぐおっ!!?」


 トウギとの距離は一気に遠くなり、俺はそのまま地面に叩きつけられた。


 幸いにもあまり落下ダメージは少なかったが、そんな事よりも突然の異変に警戒するように素早く体を起こして膝を突く形になる。


「おいおい、どうなってんだ!?」


 トウギがいきなり叫んだと思ったらすごい突風のようなものが吹いたんだが!?


 悪夢にうなされた影響か?

 いや、さっきまで普通だったじゃないか。

 それに悪夢で相手をうなさせるなんて事はこの武器では起こせない筈だ。


 じゃあ一体何が…………?


「……あれ? さっきまでトウギ斬られてたよな?」


「どうなってるの?」


「なんか、訳わからない事ばっかり起こるんですけど……」


 闘技場の観戦席の皆んなの意識が覚醒している。


 という事は、トウギの奴もう目覚めたのか!?

 まだ一分くらいしか経っていない筈だ!


 トウギが荒い息を吐いてこちらのほうを見ている。


 これはまずいなぁ。


 こんなに早く能力が解けるなんて想像もしていなかった。

 あと二分は動かないと思っていたのに。


 一体どうやって……。


「……はあ、はあ、さっきの馬鹿げた光景はテメェの仕業か?」


「……なあ、どうやってこんなに早く目覚めたんだ?」


「ーー俺には、。やってくれたなクソ野郎! ぜってえぶちのめすっ!!」


 あー激おこ状態だわ。


 ていうか、じょ、状態異常無効化ってありかよ!

 完成度89%なのに!


 俺の顔が見なくとも青ざめていくのがわかってしまう。

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 早く次の手を考えろ!!

 

「その力を何度も使わせる事は許さねえ、発動させる前に叩いて叩いてぶっ叩く。……もうテメェを軽く見るのはやめだ、想像以上の厄介者として見ることにするぜ。今から

 

 そう言ってトウギは先程までのではなく、さらに隙を減らした剣術の構えに変える。


 ……何かやってくるな。


 ホロウ・ナイトメアの力も一日一回限りだ。

 もう動きを封じる事は出来ない。


「ーーアルセルダ流剣術」


 トウギが真っ直ぐこちらに突っ込んできた。


「ぼ、防御!!」


 俺は細剣を引っ込めて再び護剣に持ち替えた。

 今さら自動防御の剣でないと防ぐ事なんて無理な気がしてきたのだ。


 そうして俺はトウギの剣撃をまた受け流そうとーー

 

 バキンッッ!!


「上級剣技、ーー『心臓砕き』」


 して、護剣を刃の根元からぽっきりと折られた。


「!!??」


 短剣であるにも関わらず、ぶつかると同時にトウギは恐るべき剣の技量で破壊した。

 それは素人の俺から見ても本当に見事なまでの完壁な技。

 そんな恐ろしい様を、俺は目の当たりにしてしまった。


 そして、まだトウギの剣が止まる様子は無い。


「ーーっ!!」


 俺に休む暇など与えないと言わんばかりに連続して攻撃してきた。


 悪夢を見せる前の強気で余裕の態度は消える。

 敵を確実に仕留めようとする目だ。


 その目を見た途端、俺の中の全細胞が『守りを固めろ』と全力で訴えかけてきた。


 壊れてしまった剣を捨て新たに自動防御が付いたショートソードをクイックチェンジする。


「はあっ!!!!」


 トウギの武器破壊と思われる技に迎え撃つが、またも根元から綺麗におられる。


 俺の防御、攻撃に合わせて絶妙な力加減と速さ、打ち所を調節しているのだろう。


 トウギの連続して繰り出される強力な剣技を、俺は武器庫から高速で取っては出しを繰り返してその進行を阻止する。


 少しでも手を抜けば、ーー俺の負けが決まる。


 激しい攻防。


 相手は魔強をしていない、筈なのにこの強さ。

 これまでの決闘相手には本当に手加減をしていたらしい。


 武器庫の奥に保存していた数多くの自動防御、回避の能力武器で防ぎまくる。


 一ヶ月前とは違いクイックチェンジも成長を遂げいるのだ。

 まだ疲れは来ない、なんとかここは防ぎきってみせなければ!


 ただそれは相手も同じ、まだ勢いが弱まる事はない。

 状況を無理矢理変えないと勝ち目はない!


 静まり返っていた闘技場は再び歓声の渦へと再生した。

 俺とトウギの凄まじい剣撃を熱狂しながら観戦する。


「はあっ、はあっ! クッソ、キリがない!」


 15、16、17本目。

 次々と破壊されるが、対抗するように出し続ける。


 心臓砕き、って言ったか?

 BからAまでの武器で防御しているのだが、それを一、二撃で使用不可にされてしまう。

 

 本当にキリがないな!

 なら、形の違う武器を出して少しでも動揺を…!


 俺は武器の種類を変える事にし、今度は槍を取り出してみた。


 この槍は珍しく『自動戦闘』という能力が付いている。

 攻撃、防御を自動的に動いてくれるが、一連の行動が終わるまで自分の意思で体を操作する事が出来なくなってしまうというもの。


 武器を剣から槍に変えて相手の動向を伺う事にする。


 剣撃を間一髪で受け流し、この攻防で初めて攻撃する事に成功した。


 だがその変則的な攻撃にもトウギは対応してくる。


 斜めにステップし槍を華麗に躱され、俺の初撃は空回りする。


「そんな柔い攻撃、当たるわけねえだろ!」


 トウギはさらにまた一歩踏み出して下段斬りをかましてきた。

 

 その動きに再び槍は反応し、自動で戦闘体勢に入る。

 最近は気にしてなかったけど、やっぱり勝手に体が動くって変な感じがするな!


 今までした事がない槍術の構え、一体どこから情報を読み込んだのか不明の攻撃でその斬撃を迎え撃つ。


 そこで、俺はある事に気がついた。



 事に。



 ……今までずっと剣で防御していたのが悪かったのか?


 心臓砕きは剣を中心に編まれた技なのかもしれないと俺は考える。

 きっと間違いない。

 武器能力理解で見てもまだ半壊にも至っていないのだ。


 そうだった。


 俺の戦い方はユニークな戦い方だったはずだ。

 ならば、自動なんちゃらばっか使ってなんていられない。


 この流れを変えよう。

 必ずトウギにもつけこむは隙はあるはず!

 俺は初見技が得意だっただろうがっ!!


「ーーそうだ。俺は鍛治師だ、剣士なんかじゃない」


 忘れてはいけない長所を俺は今になってようやく思い出した。

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