第二十九話 「ノープランで突っ走ろう」
リーチを仲間に引き入れてから、約一ヶ月後。
俺達は審査試合で勝ち残るべく、二人は特訓、俺は武器の製作に励んでいた。
怒涛の理不尽ラッシュのせいか、一ヶ月でも本当に長いと感じてしまうようになってしまった。
今はお昼休み。
食事の運動と言って現在アルフレッドとリーチが特訓の組み手中だ。
リーチが特訓に加わって、ダラダラとしたアルフレッドの様子は急変し真面目に行うようになってくれるようになる。
リーチは大変厳しく組み手をしてくれるので、アルフレッドは自然と姿勢が良くなったのだ。
……それはもう凄かった。
あれ? フレッド死なないかなって言うくらい凄かった。
アルフレッドの大柄な図体を吹き飛ばし、とんでもない速さで剣撃を与える。
これが毎日繰り返される。
重剣を使っている事なんて気にしない、幼馴染には一切力を抜かず指導するリーチ。
初めの印象が嘘のようにひっくり返った。
強い美少女って何でみんな怖く感じちゃうんだろうね。
あんなに俺にやめてくれと懇願していたのがようやく理解できた気がする。
だがその甲斐あって重剣を振れる程には成長していた。
最初は持つのも精一杯な様子だったが、大振りするくらいには扱えるようだ。
あともう少し、素早くなれれば上出来。
タンク兼アタッカーに昇進できるかも。
俺はというと、当然武器製作。
武器の完成度は現段階ではまずまずと言っていい。
完成度は時間をかければかけるほど比例していき、より良いものへと性能が上がる。
どれだけ慎重に、精錬するかによって扱いやすさや耐久度なども段違いなのだ。
三本分の鉄を打つだけでも相当な労力が要る。
なにせ
一日を有効に使い合間を縫っては鉄を打つ。
焔を身で感じ、甲高い金属音を出す日々。
慣れてきたつもりだったが、流石にランクが上がると一気に難易度が高くなる。
両手が動かなくなってしまう事もあった。
一ヶ月費やして出来たのが一つだけ。
これは、休み無しルートに進むかもしれない。
昼休みも特にやる事も無く暇なので、二人の前で異次元鍛冶場を展開し製作中。
「ふぅ……。これくらいで中断するか。こんな事なら、大剣から取り掛かればよかったな」
実はソーマの剣から先に作り、既に完成させてしまったのだ。
想像していたよりもそれはもう良い出来で、なんとランクはまさかの、S。
なぜかと言うと、大前提にソーマがいない。
トウギチームに移転してしまったからな。
アルフレッドの大剣から始めればよかったと今になって後悔する。
そしておそらくこの武器はソーマには扱えないという事。
聖剣クラスと思われるこの規格外。
この世界の人々の大体は魔法とスキルで戦う。
武器は二の次とされ、重要視されなかった為にここまでの剣を作り上げた者は数少ないだろう。
鍛治師として誇らしい限りだが、これでは役に立たないのだ。
武器能力理解S−を持つ俺でも、剣の制限が掛かり能力を発動できず振る事もままならない。
使えるとしたら……クラウスなら行けるかどうかの偶然の産物。
まあ要するに宝の持ち腐れという訳だ。
完成度は申し分ないが、失敗作に終わった。
アルフレッドに合う大剣は、……四割と言ったところだな。
推定でも休まずやってあと三週間はかかるだろう。
大剣は難しい。
今まで作った事の無いタイプの武器。
精密に行わないと、簡単に折れる。
「おい、そろそろ教室に……って大丈夫かー?」
異次元鍛冶場の展開を終了させ、黒い箱の扉から出る。
アルフレッドがリーチにぶっ飛ばされている光景が目に入ってきた。
異次元鍛冶場と言えば、以前よりも大きさが拡大したせいか存在感が増した気がする。
あの時と比べたら、なんだか泣けてくるような変化を遂げたな。
中は快適、工具は充実な、黒い鍛冶場。
意識して展開すればオーグナー邸の鍛冶場に似た設備に変身する事が分かったのだ。
そして極め付けは、この鍛冶場で製作すると出来が良くなるというもの。
最初はどこで役に立つんだと思っていたがここで役に立った。
ああ、神様に感謝。
そんな事を考えながら二人に近づく。
「どうだフレッド、順調か?」
「これが順調に見えるか?……まあ順調だが」
横たわりながら疲れ気味に答えてくれた。
どうやら順調らしい。
「リーチから見てどうだ?」
「ええ、アル君は確実に成長していますよ? まだ攻撃速度は遅いですが、毎日少しずつ重剣に慣れてきています。なんだかこちらまで嬉しくなってしまいますね」
……リーチの動きが恐ろしく速い為か説得力があまり感じられないが、強くはなっているのだろう。
あと一ヶ月、武器も熟練度も間に合えばいいが。
「ていうかよ、エバンは特訓しなくていいのか!? 一人だけやらないなんてずるいぜ!!」
「お前……俺はもう剣の扱いは出来るからいいんだよ。前にも言っただろうに、忘れたのか? それに、俺は鍛治師だって言ってるだろ。武器の製作に忙しいんだよ」
「そうですよアル君。エバン君もエバン君でやるべき事があると説明してくれました。私達も負けずに頑張りましょう? 私達の組み手を見ていませんでしたか?」
「も、もう既に頑張ってるんだが……はあ」
「リーチは毎日付き合ってくれてるだろ、それに応えてやれ」
そう、このアル君ぞっこん娘は、毎日のように組み手の相手をしてくれているのだ。
一体どんな体力をしているんだよ。
「おっと、もう時間だぞ。午後の授業が始まる、急いで教室に戻ろう。……おい、立て。美少女幼馴染と特訓出来ただけ感謝するべきなんだからな?」
「……確かに見てくれは良いが、俺より強いからなあ」
「何ですかそれ? アル君より強い女の子なんていっぱいいるじゃないですか。エバン君の言う通りです、もっと感謝して下さいね!」
お荷物ペアとランキング七位の組み合わせははっきり言って異色だが、誰がどう見ても『仲間』と呼べるほどには仲が深まったと言えるだろう。
リーチも俺をチームメイトとして見てくれているおかげだ。
三人はいつも通りの楽しげな会話をしながら教室へ向かった。
**
「あのー、そこどいてくれないですかね?」
「どくと思うか? クソ野郎。お前に用があるからわざわざ来てやったんだぜ?」
……はあ、最近は気分が良いなと思い始めた矢先にこれか。
授業が始まる二分前、突然道を塞ぐように彼らは現れた。
トウギ・リンベだ。
トウギとその取り巻き達が俺達三人を囲むように配置についている。
リーダーが一歩踏み出して俺のちょっと前まで進む。
何だ何の用だ?
ちょっと心当たりありませんね。
「やっと俺の縛りが解除されたんだ……。今日は邪魔者もいねぇ。だったら、やる事は一つだよなぁ?」
……もしかして、まだ根に持ってました?
俺が暴言吐きまくったやつ。
「――お前に明日の十二時、決闘を申し込む。あの時のようには行かねえ。俺は狙った獲物は逃がさないって決めてんだよ。逃げられると思うなよ?」
結局こうなるのかよ勘弁してくれ!!
は? 解除?
たった一ヶ月で禁止令消えたのか?
それはいくら何でも早すぎる。
さては金を積んだのか?
「待ち遠しかったぜ。ようやく俺を舐め切った態度で挑発してきたお前を、殺せる時が来たんだ。すぐにでも決闘をしなきゃ気が済まねえんだよ」
どんだけ戦闘狂なんだよ。
ああ、生徒会長助けて……。
取り巻きにはソーマの姿も確認できた。
まだ傷だらけだが、以前よりは少なくなった方だ。
こちらを心配そうに見守っている。
「決闘って……俺達審査試合控えてますよね? 手の内を明かすようなものじゃ――」
「何言ってんだ?ただの決闘なわけねえだろ。やるのは、ーー『絶聖決闘』だ」
「……………………は?」
何を言っているんだ?
俺は理解出来ずに間抜けな声を出してしまう。
絶聖決闘、って言ったのか?
あれは禁じられてるって……、
「なーに、賭けてる事を教師連中に黙っていればいいだけの事だ。契約は絶対だ、誰にも告げ口なんて許さねえ。無能野郎にも飽きてきた所だ、お前で口直しと行こうじゃねえか」
…なるほど、こうやって今まで隠れてやってきた訳か。
表面は普通の決闘、その裏には闇の決闘が仕組まれている。
受ける必要はないが、断ったら断ったで後々とても面倒な嫌がらせを食らう的になり得ない。
契約とは、決闘などを始まる際に交わす絶対証明のようなもの。
これは決闘前に約束するもので、
それは、
契約はほぼ確実に成立されるだろう。
例えば、貴族の権利の悪用とかでな。
そして相手は実力者、無理矢理勝てない勝負に引き込み配下に加える。
この学園は強い者が優遇される、教師達の救助は期待出来ない。
「お前は特別だ。半分程度の力でねじ伏せてやるよ」
が、今回は単に俺を潰したいだけらしい。
全く本当に面倒な。
学生序列全校第八位の強者。
勝てる保証はどこにも無い、が。
「………一応聞くが何を賭けさせるつもりだ?」
「もちろん俺が望むのはお前の退学、生涯の服従だ」
……そんな事まで賭けれるとは。
早く取り締まった方がいい。
「お、おいエバン? まさか受けるつもりじゃないよな?」
アルフレッドの問いに答えないまま考える。
俺だって危険を冒したくはない。
一歩間違えれば転落だからな。
ーーだが、逆の発想をしてみるのはどうだ?
勝てば何でも命令できる。
そんな条件に目が眩む。
退学を賭けた決闘だ、それ相応の報酬を得る事が出来る。
そうだ、
断れば何をしてくるか分からない、クラウスにも面倒は掛けたくないし、何より今俺はムカついているからな。
また、
「ーー受けるぜ」
その言葉に周りがざわつく。
トウギ・リンベの手口はもう明らかになっている。
それを知ってなお諦めない奴がいるのか。
「もう我慢ならないからな、いい加減お前を見ていると腹が立ってくる。ここで叩き潰して、面倒事を一気に取っ払ってやるよっ!!」
……目の前の奴がチンピラにしか見えていなかったのだろうか。もう引き返せない状態にしてしまった。
こうして、考えていたようで何も考えられなかった俺は。
この学園の第八位、暴君トウギとの決闘に応じるという、怒涛の展開を生み出してしまったのであった。
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