第二十八話 「俊足の女剣士」
俺は一人で放課後の教室へとやってきた。
理由はそう、メンバー補充だ。
先程ソーマ君からやむを得ない理由でチームメンバー脱退を告げられた。
このままでは俺とアルフレッドの二人で審査試合に出ることになり、高確率で負け無事退学といった事になってしまう。
そんなのは無謀中の無謀だ。
もう誰でも構わないので戦力として新たに加入してくれないか頼みにきた訳だが……。
「なあ、そこの君」
「ん? 何だ……って、お前か。何か用か?」
「その、審査試合の出場メンバーが足りなくなってしまったんだ。臨時で入る事って出来――」
「すまん、その話なら無理だ。他をあたってくれ、それじゃあな」
ずっとこの調子である。
アルフレッドにあんなキメ顔して言って来たのになんてざまなんだろう。
「ダメだ、全然捕まらない…」
教室の自分の席に座り、一旦落ち着こうと休む。
かれこれ十数人の同じクラスメイトに誘っているが、全員答えはノー。
俺達、こんなに人望なかったのか。
どうする?
いっそ二人でなんとか……いや流石に無理だな。
殆どが三人から五人構成のはず。
二人で挑むなんて無茶がありすぎる。
「はあ、もうどうすればいいか分からねえな。俺の有り金を積めば何とかなるか……?」
とうとうそんな考えしか浮かばなくなってきた。
武器を数本売って人材を買収するか?
途方に暮れていると、突如誰かが教室の扉を開けて俺の方に歩いてきた。
何だよ、もしかして情けない俺をアルフレッドが冷やかしに来たのか?
もう思い切り笑ってくれた方が気が楽になるかも……。
「――あの、もし良ければですが、私が加入しましょうか?」
「…………………!?」
俺は待ち望んでいた言葉、きっとそんな事はないだろうと考えていた言葉を聞いて後ろに勢いよく振り返った。
そこには1ーBクラスの生徒ではない人物が振り返った俺を見て少し困ったような表情を浮かべて立っていた。
誰だ? この美少女は。
綺麗な顔立ちに小柄な身体。
銀色の光沢を持つ美しい髪が特徴の少女だ。
優しい雰囲気を纏い、性格は見ただけで大人しそうだと感じさせるほどの素晴らしい困った表情。
強気なユナと対極な人間かもしれない。
「今、何て言いました?」
「え? ですから、私がチームに……」
どうやら幻聴ではなかったらしい。
俺は椅子から立ち上がり、興奮気味でもう一度確認してみる。
「本当に! 審査試合の! 俺達のチームに! 入ってくれるのか!?」
「は、はいそうです! 私で良ければ!」
ま、マジか!!
最悪ソーマの代わりが補充できないかと思っていたが、ここに神様が降臨なされた。
自分からお荷物組のメンバーに加入したいと来てくれる人がいたなんて思いもしなかったな。
それもおそらく1ーAクラスの生徒だ。
二つのクラスしかないので同じクラスメイトでないならそうだ。
「失礼かもしれないけど、誰だっけ?」
「リーチ・ノーレッジです。よろしくお願いしますね」
「リーチね、よろしく。……あの、何でオッケーなのか聞いていいか?」
だが油断してはならない。
一見人が良さそうでも、エウリアのような悪女な性格を隠しているだけかもしれないからだ。
隙を狙って俺達を何かに嵌めようと……。
「さっき廊下で大声で叫んでいましたよね?『誰でもいいから助けてくれ!!』って」
……ああ、確かに叫んだな。
五人目に断られた時に悲しさで嘆いていたな。
それを聞いて、来てくれたのか?
「困っているんですよね? 審査試合は怖いけど、少しでも助けになれたら良いなって……」
――良い人すぎるだろ。
疑ってすまなかった。
君はやはり神様だった。
「でも、知ってるのか? 俺達はお荷物組って言われる集まりなんだが」
「勿論知ってます。アル君もいるんですよね?」
アル君?
もしかしてアルフレッドの親しい仲か?
「実はアル君、アルフレッド・タイファー君とは幼馴染なんです」
**
リーチと共にアルフレッドの元へ帰ってきた。
まさかこんな短時間で代わりが見つかるとはついている。
それもAクラスの生徒だ。
実力も自分のクラスメイトよりも期待できる。
そして、
「げっ!!」
「げっとは何ですかアル君? 折角助っ人としてやってきたんです。もっと喜んで下さい」
アルフレッドの幼馴染でもあった。
これは早い時間で打ち解けそうだ。
「こ、こいつを入れるのか!? いやまあ、別に悪いとは言わねえけど……」
「何ですかその反応は! 良いじゃないですか、クラスが別々になってから全然会ってないのに!」
「お前、いい加減に俺離れしやがれ!」
おいこらイチャイチャすんな。
アルフレッドにもこんなに可愛い幼馴染がいたとは驚きだ。
てっきり男だらけの生活だと勝手にイメージで思ってしまっていたよ。
「取り敢えず、ソーマの代わりにリーチが審査試合に出てくれる事になった。これは感謝しかない、フレッドの組み手相手も空く事も無くなったしな。後で先生に出場選手臨時代理として申請しておくがいいか?」
「はい、問題ありません」
人数は変わらず三人だが、とにかく一つの問題は早い段階で解決できた。
あとはアルフレッドを鍛えるのみ……の筈だ。
「組み手かー。なあエバン、一回だけリーチとやってくれねえか?」
「ん? 何で俺がやるんだ? フレッドの剣の慣れの特訓だぞ」
「リーチと相手するのは、ちと大変でな」
いやだから何で俺が組み手すんだよ。
今日知り合った女の子といきなり戦えって言ってるのか?
「戦ってみてくれ! それでこいつがどれだけ俺の手に余る奴か分かるから!」
? いいじゃないか。
強いコーチ的な存在であればそれだけアルフレッドの成長が早くなるって事だろ。
「……まあ別に構わないけど、まずリーチは大丈夫だったか? 勝手に組み手の相手を頼んでるけど」
「ええ、大丈夫ですよ? いくらでも相手をしてあげます!」
すでにやる気十分なようで腰に提げて持ってきたショートソードを引き抜いた。
展開早すぎではないか?
……結局俺がやるのかよ。
Aクラスのランキング上位者なんだろ?
最下位と張り合ってどうしやがる。
「安心して下さい、手加減はしますので。しかし、勝負は勝負。ある程度の力は出します!」
組み手だっつってんだろ。
まあ実力を知る機会でもあるか。
アルフレッドがあんなに言うんだ、さぞさし才能がお有りに違いない。
俺がするのはどうかと思うけどね?
別に怖がってるわけじゃないけど。
異次元武器庫から剣を呼び出し、肩に乗せる。
諦めてリーチとの組み手に挑む事にした。
「お手柔らかに頼むぜ? 今年のAクラスは特に化け物揃いって聞いた。強ければ強いほどいいが、俺も怪我したくないからな」
「分かりました。私の実力を見せればいいんですね?では、手加減はやめにしましょう。アル君もいますし、カッコイイ所を披露してあげます」
……人の話聞いてたか?
しかもこの子は今なんて言った?
手加減やめ?
アルフレッドの方を見てみると、明後日の方向を眺めてこちらに意識を向けないようにしていた。
図ったな、アイツ。
リーチがこんなに解釈が下手だったなんて。
「……では、――行きます」
そうリーチが言った瞬間、一気に空気が張り詰めた。
先程の優しい雰囲気はどこへやら、纏っていた大人しさは消え、顔は真剣な、冷たそうな表情に切り替わった。
驚いた、流石は学生序列の強者と言ったところか。
訓練の時の奴らの比じゃない緊張感を与えてくる。
俺はリーチの放つ威圧感に思わず息を呑んでしまう。
両者剣を構え、相手の動きを窺う。
ふぅ、そろそろ仕掛けるか。
「――ふっ!!」
先行は俺が行動に出た。
初見殺し、スナイプブレード。
不意打ちとして最も可能性がある遠距離攻撃。
ずるいと思わないでほしい、こうでもしないと相手にならない気がするのだ。
最初に持ったノーマルの剣はフェイク。
気を逸らす為に出したものだった。
彼女はまだこれを見ていないはず、対応するのは至難の技だ。
安心してくれ、人に危害を与えることのない素材と出力に抑えてある。
まあ、痛いと感じるぐらいの威力はあるだろうが。
風を纏い、一気に解放。
剣がリーチに向かって一直線に射出する。
よし、快調に稼働してくれた。
あとは鎖の大盾で………。
「――あれ、どこ行った?」
リーチの姿がない。
スナイプブレードがリーチがいたとされた後ろの木に突き刺さる。
突如、全身から危険信号が送られたのが感じられた。
「――っ!?」
いつの間にか俺の横に移動していたリーチが、剣を横に振る動作で構えていた。
速い、なんてものじゃない。
この前初披露したライト・ジェネラルをも軽く凌駕する速さで動いていたのだ。
不意を突こうと考えていた俺の方が驚かされてしまった。
「不味いっ!!」
慌てて思考をフル回転させ、盾を出すのはやめて自動防御の短剣ウォッチを装備した。
リーチは的確に俺の腰目掛けて一撃を繰り出している。
それに護剣が反応したのか、間一髪で防御に成功するが……、
「ぐっ!!」
想像していた以上の威力を誇る剣撃が襲い掛かり、俺の身体を吹き飛ばした。
受け身を取りながら地面に転がる。
これは、慢心していた。
女の子といえど剣士は剣士、当然ソーマやアルフレッドよりも強い事は分かってはいたが……。
またリーチの姿が消え、恐ろしい速さで突っ込んでくる。
どうやら本当に手加減していないらしい。
何故なら顔が怖いからだ。
急いで体を起こし、防御体勢に入る。
「……ふっ!」
「はあっ!!」
初めに呼び出した剣でなんとか攻撃を受け止め、ギリギリと競り合う。
考えが甘かったようだ。
あんな小細工な剣が通用する相手ではなかったらしい。
この実力を持つ者が、Aクラスにあと十一人も存在していると?
学生序列の全校ランキングの頂点に君臨する者達の実力が計り知れない。
格差がありすぎるのではないだろうか?
彼女の込める力が段々と強くなっていく。
負のスキルボードで上がっている筈の筋力が、彼女の細腕に押し負けようとしている。
ああ、クソッ! 後で恨むぞフレッド!
こういう事は早く具体的に言ってくれ!
「ぐっ……。俺相手にもこんなに油断しないとは、流石はAクラスだ。……一応順位の方を聞いていいか?」
「学年順位は七位、全校では三十八位です。エバン君の戦い方は聞き及んでいます。これで最下位とは信じられませんね!」
な、七位!?
本当に上位ランカーじゃないか。
どうりで受け止めるのも精一杯な訳だ!
それに聞き及んでいるだと?
もう既に広まってしまっているのか?
それではもうすぐに対応されてしまうではないか。
スナイプソードなどの情報も出回っていたという事か?
……これは参ったな。
「リーチ、降参だ」
「……え?」
「だから、俺の負けだよ。剣を下ろしてくれ」
俺は潔く敗北を宣言した。
アルフレッドが言うのも分かったからもう十分だ。
これ以上無様を晒す必要はないだろう。
新たに武器を呼び出して全力を出しても、きっと勝つ事は出来ない。
俺とリーチは同時に力を緩め、剣を収める。
武器庫に仕舞い、鞘に戻す。
「本当に頼もしい仲間が増えたな。正直実力の差が悲しくて悔しいけど、味方側なら文句も無い」
「それは、ありがとうございます。ごめんさい、勝負だからと言って吹き飛ばしてしまって……」
「全然大丈夫だ、まあ本当に手加減無しだったかもしれないのが残るけど」
アルフレッドには悪いが、リーチ相手に猛特訓してもらう事にしよう。
アイツずっと静かにしやがって。
厳しく指導させるように頼もう。
…これでようやく審査試合への準備が進められる。
リーチでこの強さならトウギ・リンベはさらに上を行くと予想される。
時間が無いのは変わらない。
問題はまだ残るが、リーチを加えてさらに対策を練らなければ。
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