第二十三話 「勝負!」
時刻は放課後の夕方前。
俺は今、ソーマとアルフレッドの背中を全速力で追いかけていた。
約五分間程度か? ずっと走り続けている気がする。
まさかいきなり逃げ出すとは思ってもいなかった。
「何で逃げる!? 強くなりたくないのか!!」
「なりたいさ! でもその方法は無茶だし、別に無理してならなくてもいい! 十kgもありそうな剣を振り続けるなんて! それも二ヶ月? 忘れてもらっては困る。僕達は魔法もスキルも優れてない落ちこぼれだ!」
「エバンには悪いけどよ、人には出来ない事もある。それに本当に強くなれる保証も無いからな!」
お前、暇だからいいよって言ってたじゃねえか。
ただよく考えてみて面倒くさくなっただけだろ!
「大丈夫だ! 俺だってこの剣を振れる! 俺に出来たんだからお前らにだって……」
「それは『負のスキルボード』があったからだ! 腕の筋力も同時に経験値を分け与えられたんだ!」
……そうなのか。
ソーマのやつ、こんな時だけハキハキ喋りやがって。
「は、速い……! やはりこの学園に見合う運動神経は持ち合わせているということか、戦うことを学ぶ場所にいるんだそりゃそうだったわ!」
下半身を鍛えてなかったからか思うように動けかいな。
クソッ! 俺前世サッカー部だったのに!
「はぁ、はあ、っ……。ちょ、ちょっと待ってくれないか? そっちが逃げるならこっちも実力行使に出るぞ!」
追いつかないと判断し二人に向かって叫ぶ。
足を止めるような言葉で何とか走らせるのをやめさせたい。
「やれるものならやってみるんだな! もし俺たちを捕まえることが出来たら考えるくらいはしてやるぜ!」
「言ったな? 俺自体は凄くはないが、こういう状況の為に腐るほど武器は作ってあるんだ。それでもいいんだな?」
「………抵抗はさせてもらうよ」
二人は足を止めて自分の剣を腰、背中から引き抜いて俺の方に構える。
……俺をねじ伏せてから逃げる作戦に変更したか。
好都合な方に傾いてくれたな。
これで直接俺の武器を見せてどれだけ凄いか分からせてやれる。
そうすれば俺を頼り、特訓にも出てくれるはず。
「同じ『お荷物組』でも、差は出るぜ?」
「なら、証明してくれ『問題児』。俺たちがお前に頼ってもいい奴かどうかを」
戦友になれたと思って甘く見過ぎだな。
まだ『信用』というものを全く示せていなかったらしい。
まあ当然か。
いきなり知らん奴に特訓押し付けられたら俺でも逃げる。
気持ちは分かるが、今は時間が本当にないのだ。
今からでも始めるやる気を出させてやらなければ。
「ああ、いいぜ。
――実力は最下位でも、武器だけは一品だと自負してるからな!」
俺は武器庫から杖を取り出し、地面に突き立てた。
それが戦いの合図になり、親睦会だったはずが喧嘩のような形になってしまった。
その動作をきっかけに二人は動き出す。
「――『イダテン』」
杖の付与された能力を発動させる。
杖だからといって武器は武器。
魔法は使えないが、それに秘められた武器スキルは使用可能だ。
『武器能力理解』の補正により、俺は製作した武器の全ての付与能力を引き出せる。
何故今まで使わなかったのかというと、単に熟練度が足りなかったからであり、ランクA−以上の武器は使い物にならなかった。
だが先日『武器能力理解』はA+からS−にアップ。
そのおかげで幅が広がり、A+までの武器の能力を理解し引き出せるようになった。
俺の身体は一瞬にして強化され、ソーマの前に向かって駆け出す。
――ソーマが気づいた時には、俺はすでに真正面に移動していた。
「!?」
杖と剣が強く激突し、お互いの力が強くなる。
……これに初見で反応できるとは、全然『無能』じゃないじゃないか。
俺は杖を一旦仕舞い、右手に短剣を持って素早く攻撃しようとする。
ソーマは俺の変幻自在の戦い方にまだ慣れていない。
たとえ武術の技術が無くとも刃は刃。
素人が振っても当たればそれは脅威となり得る。
「『グラウンドディフォメーション』!!」
「おおっ!?」
が、俺の短剣は届くことはなく、俺とソーマの間に地面から岩が突き出し攻撃を阻む。
おそらくアルフレッドの地属性魔法だろう。
強い魔法ではなかったが妨害の力は充分に発揮しており、ソーマの体勢を整える形となってしまった。
「これが魔法か!」
地味に初めて見たな。いや、規格外のファイアボールを昔見たっけか。
クラウスの屋敷で暮らしてきたが、魔法はほとんど見たことがなかった。
ヤバい、異世界で興奮する。
「……っと、危ない。今は目の前を見ろ」
ソーマとアルフレッドは連携を意識しているな。
前にエウリアの奴に何か言われていたのは知っているが、それを改めて見直すことにしたのか?
もう一度杖を呼び出して移動する。
「『イダテン』」
奇杖ライト・ジェネラル。
それがこの杖のウェポンネームであり、A+の武器だ。
能力は、二秒間自分の素早さを強大に上げるというもの。
効果は一瞬で、再使用は一五秒間のクールタイムを必要とするが、シンプルにして相手にとって厄介な杖だ。
今度はアルフレッドに向かって走り、その勢いを使って蹴りをお見舞いする。
「失礼……!」
「お゛ぶ……っ!!」
アルフレッドは苦しい声を上げて後ろに倒れ込む。
だが、まだ立ち上がる。
それなりに強く蹴ったつもりだが、顔が険しくなっただけのようだ。
大剣を力強く持ち、勢いよく上に振りかざしながら向かってくる。
俺はまた武器庫から杖と両手剣を交換。
瞬間的に、戦闘スタイルが切り替わる。
「はぁっ!!」
「ふっ……!!」
アルフレッドの大剣を迎え撃ち、同時に火花を散らす。
横で受け止める形になってしまうが問題ない。
押し負けずに勢いを殺すことに成功した。
「なんで、何で鍛治師のお前がこんなに出来るんだ? おかしい。お前は俺たちと『同じ』のはずだ…!」
「だから言ってんだろうが。俺がすごいんじゃない、作った武器が優れているだけだ。特訓すれば、お前らにも持たせてやるんだがな?」
「……それは、己が成長出来ないままになってしまうんじゃないか? 武器に頼りきりになっていざという時はどうするんだ?」
「その時はその時だ。また考えればいい、抗う方法を。俺はこの世界は生き残る事が最も重要だと思い知らされた。
――たとえ惨めでも、『勝てば何の問題もない』」
「……それでも僕は、『敗者』のままでなければならないんだ。『魔強・剣水』!」
ソーマが攻防している俺に向かって駆け出して来た。
剣に魔法を纏い、さっきよりも速さを増して剣を突き付けようとする。
他の奴らには通用しないだろうが、素人の俺なら当たれば一撃でノックダウンかもな。
「お前らの事はまだ何も知らない。でも、『お荷物組』と呼ばれた仲だ。もう少し、仲良くなろうぜ?」
俺は転生してきて男友達のような存在に出会えていなかった。
だからかお前らのような同じ境遇、『弱者』と罵られた同年代の奴と話せて嬉しかった。
まだ出会って間もないが、親近感が湧いたのだ。
この世界に、歓迎されなかった者として。
――なら、一緒に『イレギュラー』になろう。
大剣を弾き、両手剣を仕舞う。
アルフレッドは少しよろめくが、すぐに剣を頭上で踏ん張って止め、そのまま斜めに斬りかかろうとする。
同時にソーマの剣が迫る。
このままでは二つの衝撃が襲いかかるが、
「――『敗者』? はっ、やめとけ! 今だけにしておくべきだ」
何もない空間から二つの短剣が出現する。
その剣の名は共に、護剣ウォッチ。
青色の柄の双剣が宙に舞い、俺はそれを両手でキャッチした。
俺の身体は双剣の力によって回転する。
ソーマとアルフレッドの剣を受け流すように動き、見事なまでに回避して見せる。
剣の能力は、『自動防御』
ありがちで有能な付与能力だ。
武器生成の際に発動する能力付与のスキルはランダムで付けられる。
S−、その力は本物だ。今では完成する武器はどれも強力なものばかりになっていた。
四つの剣が交差し、二人の攻撃は無に変換された。
更なる力に驚愕した二人は硬直してしまう。
だがまだ終わりではない。
エバン・ベイカー。
その者はとても鍛治師とは思えないほどの機転が利く。
それは前世の記憶が連結しているのかは分からないが、判断力は少年期の頃に『もう誤りはしない』という強い意志が、変化をもたらしたのかもしれない。
『クイックチェンジ』の連続使用、スキルの連発はあまりに疲労が溜まるものだが、エバンは気にはしない。
続けて銀と黒が彩られた大盾を装備した。
あまりに重い為地面に叩きつけながら取り出すが、能力はすぐに発動する。
「『繋ぎ止めろ』」
そう言い放ち、盾の中心にある宝玉が光りだす。
その瞬間、銀色の鎖が現れ、二人目掛け射出。
咄嗟に避けることが叶わなかったソーマとアルフレッドは縛り付けられて身動きを封じられた。
「……俺はアイテム頼りの臆病者かもしれないが、二人はそうならなくてもいい。ただ今の二人じゃ俺の武器を扱うことも出来ずに負けるかもしれないんだ」
捕まえる事に成功した俺は大盾を踏ん張って持ちながら言う。
無力化された二人は無言で俺の話を聞いている。
「だから、特訓に来てほしい。何も出来ずにやられるのは御免なんだよ」
言いたい事が二人に伝わったかはわからない。
だが、エバンは来てくれる事を信じて待つ事にした。
過去も、どういう人間だったかも知らないけど。
出会ってまだ間もないけど。
……同じ嫌われ者として。
「あ、ヤバい」
『異次元武器庫』の高速使用の反動が――。
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