第二十二話 「強くなろうぜ?」

 

「と、いうわけでこれから巻き込まれた被害者の集まり、『お荷物組』による楽しい親睦会を始めたいと思いま〜す!」


「いえーーい!!」


「……………」



 放課後、俺たちはお互いの仲をより深める為に親睦会を開くことにした。


 きっとこれからも長い付き合いになるだろうからもっと仲良くなっておこうという事で、俺が提案させてもらったのだ。


 場所は青色学園の食堂でやろうということになり、今こうしておやつタイムを挟みながら開催されている。


「じゃあまず改めて自己紹介からしようか。元気いっぱいのフレッド君、お願いしてもいいかな?」


「おう! 俺はアルフレッド・タイファーだ。地属性の大剣使いで盾役担当。『役立たず』なんて呼ばれちゃいるが、頼りにしてくれていいぜ?」


「ありがとう、頼もしい限りで何よりだ! では次、ソーマ君」


「……ソーマ・ハディッドです。水属性の剣士です。基本以外の技が使えず、成長出来ないことから『無能』が来ているらしいです」


「これからの伸び代はまだまだあるさ、アタッカーとして頑張ってほしい! 最後に俺だな」


 ――ああ。


「俺はエバン・ベイカー、色んな武器を駆使して戦うオールラウンダーな鍛治師だ。成績は最底辺で魔法が使えないから皆んなからは『問題児』って呼ばれてるんだが、まあ気にするな。一緒に審査試合、善戦目指して頑張ろー!」



 ――これはあまりに無茶で無謀で無駄な挑戦だ。



 俺たちは落ちこぼれ、相手はほぼの確率で強敵。


 このままでは、エウリア達に俺が入学できたのは本当は金でも積んで来たのだろうと本気で思わせてしまうことになる。


 そして、終いには全員が俺を偽者扱いを………。


「なあ、二人のステータスプレートを見せてくれないか?」


「どうしてだ?」


「今後一緒に戦っていくんだ。お互いの事は知っておかなきゃだろ? 俺のと交換してやるからさ」


「俺は別に構わないが……」


「僕も大丈夫だよ、大して面白くない実力だけどね」


 ステータスプレートをポケットから取り出し、二人の物と交換して見合う。


 まずフレッドのやつから見てみるか。

 えっと、地属性魔法適正に剣術C、魔法は初級と中級一つ。


 ……特に秀でたものはないな。勢いと気合だけでこの学園に入ってきたのだろうか。


 特にコメントすることも無いので、次にソーマのステータスを拝見。


 水属性の剣士、剣術はBの腕前で受け身C、魔法は中級を二つ、か。


 あれなんかみんなスキルの数とか少なくないか?


 俺は魔法の適正は無いが、スキルの数は多い。

 これくらいが普通かと思っていたのだがそれなりに優遇されていたのかもしれない。


「え、エバン! なんだよこのステータス、鍛治師になる為に与えられたみたいなスキルだらけじゃねえか!」


「スキルが七つも……。魔法が使えないとは言え、類稀なる優秀な生成スキルにユニークスキルが三つ、校長先生が推薦した理由もわかったかもしれないよ。緑色に君を渡したくなかったんじゃないかな?」


 褒めるなよ、調子に乗っちゃうだろ?


 やばい、初めてこんな風に言われて嬉しいのか顔に出てしまっている気がする。


「そうか? まあ多いに越したことはないよな。お前達も…………………」


「……僕達のステータス見て、本当に大したものじゃないなとか思ってたでしょ」


「そ、そんなことは無いさ」


 心読まれてるな。


 ソーマは他人の心情を深く理解している気がするんだよな。


「……ん? なんだよ、ソーマもユニークスキル持ってんじゃん。『反撃者』? カウンター技的な?」


「そのスキルは……あんまり役に立たないよ」


「どういうスキルなんだ?」


「……………教えたくない」


 え、何でだよすごい気になるんですけど。

 何か良くないスキルなのだろうか。


「まあ、いいや。取り敢えず、俺が二人のステータスプレートを見た感想を直接言わせてもらおう。正直、このままではこの学園に居続ける事も出来ないと思う」


「それはどうしてだ?」


「成長しきれないままでいると、周りの奴らの実力との差がどんどん離れていく。俺は、まあ何とかして生き残れるが二人は伸び悩んでるんだろ?」


 俺は武器の恩恵借りてるからな。

 別に強くならなくてもいい。


「「…………」」


「このままでは、ダメなんだ」


 そう、これでは俺の扱いも酷くなっていくかもしれないからだ。

 この審査試合のチーム戦は個人ではなく全体を評価するからな。

 手っ取り早いのは、仲間のパワーアップ。


 俺は机をバンッと叩き、席を立つ。

 驚いた表情の二人を交互に見て言った。


「二人ともついてきてくれ、人工森林に向かう。そこで戦力アップを図ろうと思う」


「え、エバン? そこに行って何をするの?」


「特訓だよ。俺にいい案が浮かんだからさ。取り敢えず何も言わずについて来い」


「お、おう」


 アルフレッドは初めて俺の本気マジ、とても真剣な顔を見て少し元気が無くなってしまった。

 ソーマはこれから一体何をするのだろうと困惑している様子だ。


 俺たちは食堂を離れて先日戦闘訓練を行った人工森林へと向かった。



**



 先生の許可を得て再び森林へやって来た。


「よし、お前ら両手を前に出してくれ」


「「?」」


 二人は俺に言われるまま両手を前に出す。


「「……!?」」


 俺は二人の両手に武器庫から取り出した剣を落としてやった。


 その剣は重剣と言い、通常の剣よりも遥かに重い質量に調節した鉄剣だ。


 大剣と片手剣のサイズの俺の失敗作。


 突然尋常じゃない重さの剣を手にした二人は慌ててキャッチしたが、流石に耐えられないのか重剣を地面に倒しながら置く。


「こ、これは?」


「重剣だ。今日からお前達にはここでこれを使って組み手をしてもらいたい」


 審査試合まで残り二ヶ月。


 それまでに二人にはクラスの連中、いやそれ以上の強さに引き上げなければ勝つことも、この先生き残ることも出来なくなるだろう。


 特訓内容はシンプル、組み手だ。

 お互いに欠点を補い合うのにぴったりだと思った。


 この特訓の肝はその組み手を重剣で行うことだ。


 ほら、よく言うだろ? 重い物を身に付けて修行すれば、外した時に体が軽くなってるっていうあれ。


 剣術の訓練はどういうものか知らないが、この重さの剣を簡単に扱える筋力になってほしいのだ。


 まずそれが出来るようにならないと、困る。


「組み手、ね。そんなんで強くなれたら苦労はしないんだがな」


「まあまあ、組み手なんて言ってはいるが、俺の目的はその剣を『重いと感じなくなる』ことだ。ついでに熟練度も上がっててほしいなっていうだけだよ」


「持つだけでも大変なのに、これを振れるようになれと君は言っているのかい?」


「それは俺が作った重いだけの剣だが、試合当日は違うものをお前らに贈呈するつもりだ。そんな失敗作じゃなくて、お前らが、俺たちが成り上がる為の武器をな。その重さに耐えることが出来なければ、扱えないような剣なんだよ」


 そう、そしてそれを使ってエウリアに言ってやるのだ。


「俺たちは『お荷物』なんかじゃない、ってな」


 能力? そんなもん武器で補えばいいだろうが。


 それを作れる技術があるのだから。


「というわけで、見返してやる為に頑張ろうぜ?」


「…………」


「ま、どうせやる事も無かったしな。暇つぶし程度には取り組んでみるわ」


 ……せめてやる気は、出してほしいかな。


「なあ、その間エバンはどうしてるんだ? お前こそ鍛えなきゃいけないんじゃないのか?」


「戦う以前の問題で俺は鍛治師なんだ。なら武器を作ってなんぼだろう、鍛冶場で鍛錬でもして待ってるさ。じゃ今日から始めてくれ、あまり時間が残されてるわけじゃないからな。二ヶ月で何とかしてもらうからな」


 じゃないと俺のみんなからの学園存在許可が……。


「「…………」」


 ――今思えばかなり横暴だったかもしれない。


 自分の思ったままの考えを知らない間に二人に押し付けてしまっていた。

 俺は戦えないけどお前らは一生懸命練習してねと言っているようなものだったかな。


 同じ弱い者同士なのに、この特訓がどれだけ地味でやりたくないものだという事が分かっていなかった。


 ……気づけば二人は無言で俺に背を向けて、走り出していたんだ。



「と、逃亡しやがった!!」


 楽しい鬼ごっこが突如として開始された。

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