第二十一話 「ハードルート」
「これで試合形式での戦闘訓練の授業を終了とする。訓練を通して、各々が様々な事を学べたと見受けられるな。今後の君達の成長を楽しみにするとしよう。では、解散! しっかり休息を取るといい」
あれから約二時間後。
全ての試合が終わり、授業は終わりを迎えた。
皆が支度を整えて教室のある棟へと歩いて向かう。
試合はかなり善戦したとは思うが、俺の周りの評価はあまり変化は無かった。
「クソッ! 実際に見てないから、二点取れたのは偶然、何かアクシデントが起きた、とかほざけるのだ」
だがそれもそのはず、俺たちより低い、同じ点数を取ったチームはいない。
取得している魔法の数は多く、武術の心得がある者は皆十六歳の子供とは思えないほどの熟練度だった。
驚くだろ? これでBクラスなのだから。
俺たちより少し成績のランクが高いクラスであるAクラス。
入学試験でより優秀な結果を残した者たちの十二人の少人数で構成されたクラスだ。
まず『学生序列』について説明した方がいいか。
試合後にソーマに教えてもらった情報をそのまま話そう。
『学生序列』、それは生徒のスクールカーストの順位を並べたようなもの。
入学試験での成績を数値化し、それを順位として残す。
そのランキングで将来の進路や聖騎士団に入れるかどうか、未来の分岐ルートを決めるのだ。
学年順位と全校順位、二つのランキングで三年間皆んなで争う。
Aクラスはその学年順位十二位以上の実力が集結した化け物集団だ。
きっとスキルや魔法の熟練度が平均より遥かに高いんだろうな。
エウリアでさえBクラスにいるのだ。
それだけでとんでもない事だけは分かる。
成り上がる。
それはあまりにもハードな目標。
この世界の少年少女はレベルが高すぎる気がするんだが。
この世界は……異世界転生者にぜんっぜん優しくない。
「さて、もう戻るか」
午後の授業を受けたら、早く帰ってもっと強い武器の製作を……。
「ベイカー君、ちょっとよろしいでしょうか?」
エウリアが帰る準備を済ませてこの場を去ろうとしていた俺に話しかけてきた。
「いや、よろしくないです」
「そうですか。ではこちらに来てください」
話聞けや。
ボコボコにしたチームの代表に一体何の用だ?
皮肉でも言いに来たのだろうか。
「どうした、俺に何か用か? それともあの二人みたいに俺にも長ったらしい敗因を説明してくれるのか?」
女の子にお声を掛けてもらえるのは嬉しいが、やる気を削ぐような解説は聞きたくない。
「あなたの戦闘、脱落した二人に聞きました。剣術はお粗末なのに剣を振り、不思議なスキルで翻弄する。やはり、聞いていた情報はあまり鵜呑みにするべきではありませんね」
……どういう情報が流れているのだろうか。
「私はまだあなたを認めていません。今でも足手まといだと思っていますし、今日の試合は少し驚かされましたが、あの二人と未だ評価は変わりません」
「ま、そうだろうな。で? 俺に言いたいことは何だ」
「二ヶ月後に『四争祭』のメインの種目である『武の聖戦』の出場選手を決める審査試合がありますよね?それに出てください」
「………………………ん?」
ちょっと言っている意味が分からないな。
その話にどうやって行き着いたんだ?
「あの、もう一回言ってもらってもよろしいですか?」
「二ヶ月後に『四争祭』のメインの種目である『武の戦』の出場選手を決める審査試合があります。それに出てください」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
「何で? 俺が? それに参加しろと?」
「理由は、あなたが王国最上位聖騎士の一人であるクラウス・オーグナー様に認められている子供だということ」
「クラウス?」
「クラウス様は王国最強の一角と言われている程の実力の持ち主です。認められているのでしょう? なら、それを私に証明しなさい。あなたがあのお方に選ばれる理由となり得る力を。でないと私の気が収まりません」
何を言い出すのかと思えば。
こいつ俺がダメだって事承知じゃないのか?
「……つまり俺が校長から推薦されて入学できた理由を知りたいと?」
「まあ簡潔に言えばそうです。あなたみたいな半端者がどうやってこの学園に入れたのか知りたいのです」
「半端者とは失礼な。今日お前のチームメイト二人倒してやったんだが?」
「偶然でしょう、何か姑息な手でも使ったのではないですか?」
「こ、こいつ……!」
「私はこれでも血の滲むような努力でここに入学しました。あなたのような落ちこぼれを見ていると…腹が立つので」
確かに俺は試験に落ちたのにこの学園に入学することが出来た。
これもクラウスの援助が大きいはずだ。
エウリアはきっと、何の努力もせずに推薦で入学してきた俺に何か思う事があるのだろう。
いやまあ努力はしているんだが。
そんな俺がどうしても理解する事が出来ないので、大会で推薦されるほどの実力を見せてほしいと言っているのだコイツは。
「今の学生序列の何位ですか?」
「……どっちも最下位だけど」
「そうですか、なら今からでも特訓した方がいいですよ? 出場する選手は皆、大物揃いらしいので」
いや、無理だろ。
無理がすぎるわ舐めてんのか。
過酷な道を辿ってきた俺ならわかる、これはいくら何でもどうにもならない。
そんな勝手な理由で出ると思ったら大間違いだぜ。
実際、武器が無ければ俺は超弱いからな。
「大丈夫です、クラウス様に選ばれたのですから。きっと素晴らしい結果を残す事が出来るでしょう」
……コイツもしかして、今日の試合、案外気にしてんのか?
エリートチームと呼ばれた自分達の内の二人が、成績最底辺の奴に撃破されたこと。
その腹いせに俺を不適合者としてこの学園から追放しようとしてないか?
「私からの話は以上です。では、楽しみにしています。エバン・ベイカー君」
「…………」
話はこれで終わりらしく、エウリアはこの場から立ち去ろうとする。
なんか言っていたが、エントリーはしない。
この話は無視していいだろう。
変な反感を買うかもしれないがそれでもいい。
そこに行ったら目をつけられて囲まれてボコられるに違いないからな。
「ところで気になっていたのですが、あなたは何のバトルクラスなのでしょう? やはり剣士ですか?」
「言ってなかったか? 俺は鍛治師だよ。剣士なんて真似事は出来そうにないんだよ」
「……………か、鍛治師?」
おい、そんな微妙な顔すんな。
さっさと帰ってくれ。
**
三日後の昼。
「審査試合にあなたの名前がエントリーされていなかったので、私が代わりに書いておきましたよ。忘れていたのですか?締め切りに間に合わないかと思いました」
「――何してくれとんねん」
え? 何で勝手に書いてんの?
それ本人じゃなくても受理されるのか?
「私は出ませんので安心してください。観客席で応援くらいはしてあげます」
ああ、この女。
俺を確実に潰しに来ている。
もし本当に最底辺だった場合を考えて一人でも『お荷物組』を減らそうとしているな。
「あ、簡単に取り消しは出来ませんよ? 皆真剣に取り組んでいるので。今更辞めますなんて戯言は聞いてくれませんからね」
「まあ、別にいいけどな。まだ審査の試合なんだろ? 一回戦でどうせ負けるだろうしな」
そうだ、これはまだあくまで審査。
適当に負ければいいだけの話だ。
変に目立つより最速でいなくなったほうがいい。
甘かったなエウリア・コルデー。
そう簡単に評価下げてたまるか――
「この試合もチーム戦です。その勝利したチームの代表者が『武の聖戦』への出場権利を得ることが出来ます。『お荷物組』代表として恥じぬ戦いを期待していますね」
……え?
俺はソーマとアルフレッドの方を見る。
二人の顔は驚いた表情をしていた。
まるで初めて聞いたかのような…………。
「『お荷物組』がこれ以上評価を下げてしまったら、この学園に居づらくなってしまうのではないでしょうか?」
……この正統派に見せかけた悪役令嬢は、
出来損ないの三人まとめて競技に軽率な気持ちで挑んだ者たちとして、表舞台から引きずり下ろしたいらしい。
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