第二十話 「技披露」
「まずい、完全に見失ってしまった」
あれから約五分くらいが経過し、現在誰もいない森の道を迷いながら歩いている。
俺って本当に方向音痴だったのか?
二人の後ろについて行ったはずなんだが……。
「「ホーーーー!!」」
突然、木の上から何やら甲高い鳥達の鳴き声が聞こえる。
「な、何だ? どうした?」
「エバン・ベイカー代表『Ⅰ』チーム、アルフレッド・タイファー、ソーマ・ハディッド両名共に脱落!」
「エウリア・コルデー代表『Ⅰ』チームに二人分のポイント、四ポイントが加算!」
「両チーム残り人数を報告。エバン・ベイカー代表チーム一名、エウリア・コルデー代表チーム六名!」
なるほど、こうやって試合状況を伝えるの……ね……。
「え?」
もうあと俺だけじゃね?
……マジかよ、二人ともやられちゃったのか?
試合の展開が早すぎる。
もう作戦も何も関係ないように見える。
そして、まだ相手のチームは誰一人欠けていない。
袋叩きにされて終わりの未来が浮かんできた。
「……ほ、本当に何にも策無しで突撃した訳ではないよな? アイツらなりに頑張って戦おうとしていたに違いない、うん」
さて、これからどうしようか。
相手チームに大人しく首を出すのも考えてもいいが、なるべくポイントは手放したくない。
撃破したポイントが高ければ高いほど授業の評価が上がる単純なシステムだ。
こちらは一人二ポイント、あちらは一人一ポイント。人数の問題でこの点数に調整された。
エリートチームが勝利すれば三ポイント、『お荷物組』が勝利した場合には五ポイントが加算される。
一見公平に見えるが、かなりエリートチームが有利なポイントルールだ。
試合の制限時間は二十五分、何とかして逃げ切りたい。
もう残りは俺一人、勝ち筋は無いと言っていい。
「もっと森の奥深くまで行ってみるか?いや、ここはあえてここに身を潜めて……?」
あれ?
人工森林の奥深くに誰かがいる。
遠くて正確には見えないが、学生服は着ていない。
教員だろうか、あんな所で何をしてるんだ?
森林の管理でもしてんのかな。
「っと、そんな事より試合に集中を……!?」
後ろを振り返った瞬間、矢を構える人物が目に入った。
あれは、エリートチームのメンバーだ。
どうやら奥の人物に気を取られいる間に俺を見つけ、ポイントを取りに来ていたらしい。
弓から矢が放たれる。
あと数秒で矢が飛んでくるだろう。
だが、その一瞬の攻撃を回避する方法がある。
「………っ!」
異次元武器庫。
それは思うだけで一秒も経たない内に武器を取り出すことが出来る、『便利すぎる』スキル。
俺はそのスキルで片手用の鉄製の盾を取り出し、飛んできた矢を到達する寸前で弾く。
「!? 何だそれ!!」
弓使いが驚いた表情で言ってくる。
「ああ、その言葉が聞きたかったんだ!」
いかにも規格外っぽいヤツを見た反応で嬉しいよ。
俺はその隙を見逃してやらなかった。
点が取れるチャンスが訪れたのだ、やらない手は無い。
続いて武器庫から剣を取り出した。
『スナイプブレード』、人に向けるのは躊躇いがある威力を誇るお気に入りの作品。
力を解放し、剣を弓使いの方へ射出した。
「ぐあっ……!?」
弓使いの聖紋が反応し、光のバリアのようなものが展開される。
だが衝撃はあまり緩和されなかったらしく、後ろに吹き飛ばされる。
それを発動させた者は、疑似的な戦闘不能状態になる。
即ち、脱落する。
「ふぅ、良かった。発動してくれなかったらどうなるかと思ったよ」
俺は撃破したやつの安否を確認しようと近づく。
「……やっぱり、エウリアの言っていた事は本当だったか」
「ん? やっぱり? どういう事だそれ」
「『問題児』なんて呼んじゃいるが、何か変わった力を秘めているかもって話だ。推薦入学者だしな」
ふ〜ん、ちょっとは期待はしてくれてはいたんだ?
もし、俺が金か何かで入学したと思われる程度の実力だったらどうしてたんだろう。
まあいいか、取り敢えず運良く一ポイントはゲットできた。
早くこの場を……。
「今だっ!! アルラン!!」
「!?」
これは、また後ろか!!
勘で咄嗟に動いた体は再び後ろを振り返り、盾を構えることが出来た。
目の前に剣が確認できる。
振りかぶられる前になんとか盾を間に合わせる。
剣が盾に防がれガンッと言う音を立てた。
お、重い……!
「ちっ、おいベイカー。何故防げる? 今のは完全な不意打ちの筈だ」
「不意打ちじゃなかったってことじゃないか? 案外俺と戦闘力は大したことないかもな!」
みんなに言っていなかった事がある。
この盾には素人大歓喜のスキル『自動攻撃予測防御』が付与されている。
防げる範囲の重さ、速さにしか反応しないが、不意打ちであろうと間に合う攻撃は盾が防ぎに行ってくれるという代物だ。
ああ、作っておいて良かったと心の底から思う。
盾で剣を押し返し、相手の体勢を崩す。
敵は今一人だ、いける。
まだ手の内が明らかになっていない内に……!
俺はもう片方の手に剣を呼び出し、横薙ぎの一撃を繰り出す。
折角二本腕があるんだ、使わないと勿体ない。
相手も体勢を整い直し、攻撃は剣で防御される。
単純な力勝負、だがそれははこちらが劣っていた。
が、それを補うように剣の能力である『筋力増強・中』を発動させる。
それに驚いたのか、相手を後ろに後退させることに成功した。
(急に押す力が増した、剣に付与された能力か?一人では倒せない可能性が出てきたな。エウリアに来てもらうために、ここは一度退却して仕切り直しを……)
ザシュッ。
「がっ……!!」
アルランは何が起きたのかまだわからない。
それもそのはず、突然斬られる痛みが走ったのだから。
最もその原因を引き起こしたとされる可能性が高い人物の俺、エバン・ベイカーの方を見た。
俺の両手には今
一つは『筋力増強』の剣、もう一つは……。
「――『風刃』。少し痛むけど、我慢してくれ」
『風刃』、それは風で刃を作り出し前方に飛ばす事が出来る能力。
盾を持っていた筈の手にはいつ持ち替えたのか二本目の剣が存在していたのだ。
これは俺が編み出した『異次元武器庫』のもう一つの応用技。
『クイックチェンジ』
武器を瞬時に入れ替える事が可能な技だ。
これにより盾を剣に持ち替え、相手が認知不可能の一撃を出すことが可能となったのだ。
相手が痛みで倒れて悶絶する。
その顔の前に剣を突き出してやる。
「どうする、続けるか?」
「…………………………降参する。俺の、負けだ」
おぅ、だいぶ溜めたな。
……『戦う鍛治師』、それに今日近づけた気がした。
正直、二人を僅かな時間で仕留めることが出来たのは相手が初見だからのもあるだろうが。
相手に特に何もさせることも無く、俺は二ポイント目を獲得。
さて、次はどうするか。
時間はもうあまり無い。
もう一点欲しいところだが………。
**
「あなた達は、自分達が何故負けたのか理解していますか?」
「わからねえな、途中まで上手く行ってた気がするんだがな」
「………」
「敗北した理由、それは仲間との連携です。ベイカー君は何故か姿を見せず、タイファー君は自ら自分の居場所を伝え、ハディッド君はそれを見過ごし、実力差のある私に一人で挑んできた。たとえ人数が少なくてもある程度の作戦を立てるべきでしたね」
エウリアは襲撃が何故成功しなかったのか敵チームに説明してやる。
実際、その考えは合っていた。
作戦は立てず、無策にも敵に突っ込み、そして負けたのだ。
チームを組んだとしても、お互いに知ろうとはしなかった事が一ポイントも取れない結果となってしまった。
「だから、『お荷物組』なんて不名誉な名前を付けられるのです」
「「…………」」
「あなた達が今やるべき事は、残りの仲間であるエバン・ベイカー君を応援してやることですね」
「あ、そう言えばエバンは何処に行っちゃったんだろうな? 確かについて来てたと思うんだが……」
「………」
彼らはずっとエバンが後ろにいると勘違いをしていた。
だがそれに気づきもせずに戦いに出てしまった。
ソーマとアルフレッドは目の前の敵の点を奪うのに必死で何も考えれなくなっていたのかもしれない。
「…おかしいですね。ベイカー君を偵察を頼んだ二人が帰ってこない。皆さん、確認しに行きましょう。何かあったのかもーー」
「「ホーーーー!!」」
エウリア達が戻ってこない二人の仲間を探しに行こうとした所で、二匹の状況報告の鳥が声を上げた。
「エウリア・コルデー代表『Ⅰ』チーム、アルラン・ウォン、タキ・ホールド両名共に脱落!」
「「「!!?」」」
その場にいた全員がその情報に驚く。
それは何かの誤りではないかと疑ってしまう。
何故ならそれが本当なら成績最底辺のやつに二人とも倒されたということになる。
ざっ、ざっ、ざっ。
誰かが歩いてくる。
「エバン・ベイカー代表『Ⅰ』チームに二人分のポイント、二ポイントが加算!」
「両チーム残り人数を報告。エバン・ベイカー代表チーム一名、エウリア・コルデー代表チーム四名!」
――エバン・ベイカー。
『問題児』と呼ばれる成績最底辺であるとされる男が傷一つ無くそこに立っていた。
空間が静寂に包まれ、エウリアとエバンは睨み合う。
お互いに自分の武器に手をかけーー。
「「終了ーーーー!!」」
「「「!!!」」」
「第一試合の制限時間が経過。よって、多くのポイントを勝ち取ったチームの勝利とする!」
「勝者チーム、エウリア・コルデー代表チーム! エウリア・コルデー代表チームゥゥゥ!」
「お、終わっちゃった……」
こうして、エリートチーム対『お荷物組』の戦いは、幕を閉じた。
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