第十九話 「衝突」
私はエウリア・コルデー。
この戦闘訓練での代表者になった。
みんなが私を選んでくれたのは光栄だった。
それだけで私の心は満たされるから。
「コルデー、この配置で行くが、問題はないか?」
「ええ、大丈夫です。この陣形なら崩れることのない戦いをする事ができます。相手チームが勝手に終わるのを待つのみです」
「でもさ……どうせならこっちから攻めて点取りたいよねえ。あっちは三人なんでしょ? なら簡単だよ」
「そうだな。自滅を待つのもいいが、守りよりも攻めの作戦を実戦に向けてやる方が経験値が多い」
私たちは彼らをクラスに貢献しない『お荷物組』呼ばわりしている。
考えない『役立たず』。
基本しか出来ない『無能』。
そして、最底辺の推薦者『問題児』。
あまりこういうのは良くない事だけど、足手まといなのは確かなのだ。
彼らは私たちが優秀のまま卒業する事を拒む者だ。
私は、そんな邪魔者達を取り除きかなければならない。
「では、開始の合図があるまで役割分担をしましょう。守りに徹して迎え撃つのではなく、相手の陣地に踏み入り確実に落とす作戦に変更。よろしいですね?」
私の意見に皆が頷いてくれる。
戦いの陣地は二つに分かれており、試合が開始した後すぐに相手を探す行動に出なければならない。
先に相手を見つけた方が有利に状況を運ぶことができるのだ。
私達は迅速に動き、場を支配して勝つ。
――『お荷物組』の皆さん。
本当は足手まとい、無能ではないという事を証明できると、少しだけ期待しておきます。
……特に、エバン・ベイカー君。
**
「なあ、始まる前にお前達の戦闘スタイルとか聞いておきたいんだが……」
これは予期せぬ事態だ。
よりにもよって、エウリア委員長のチームと当たるとは。
エウリア・コルデーは貴族の育ちで、大変真面目で不良者を嫌う性格だと聞いた。
正統派令嬢なのか悪役令嬢なのかわからないな。
不良者を嫌う。
ということは、絶対とは言い切れないが、彼女のチームには平均以下の能力の生徒は居ないという事。
対してこっちは皆んなから省かれた者の集まりだ。
正直真正面から戦っても返り討ちに遭いそうな気がしてならない。
そうならない為にも、相手の意表を突く作戦を立てなければならない。
まずは、こちらの戦力の確認から行くとしよう。
「俺は地属性の両手剣使いだ。どんな状況でも突き進んで、お前らを守る盾になってやんよ!」
ほう、地属性。
確か岩や泥を造り出したり、地形を変形させて攻撃する事が可能な臨機応変のできる魔法属性だったかな。
そして両手剣とな。
見た目通りの脳筋かもしれないな。
「ソーマは?」
「僕は、水属性魔法やオウハ流の剣術で戦うよ。剣士らしく、それなりに頑張るよ。他には………何も出来ないかな」
「? おう、それなりに頑張ってくれ。っと、オウハ流っては何だっけ?」
「えっと、剣の技を編み出したそれぞれの国から取った流派の名前だよ。『アルセルダ流剣術』、『オウハ流剣術』、『ロマルア流剣術』の三つが有名かな」
この世界にも剣術に種類があるのか。
アルセルダ王国、オウハ聖教国、ロマルア帝国の名前から来た剣術か。
なんだかみんな強そうな名前してるね。
「オウハ流はあまり使っている人は見た事はないかな、人気があるのはアルセルダ流とロマルア流だよ……」
「い、いや、教えてくれなくてもいいぞ……?」
ちょっと聞きたくなかった情報を出してきた。
ソーマ、大丈夫だ。
プラス思考で行こう、プラス思考で。
「じゃあ最後に、俺の事なんだが……」
「安心しろ、俺たちが守ってやる。お前だけを死なせたりはしねぇさ」
「なるべく攻撃はこっちに回すようにしてみせるよ」
「お、おい! 俺まだ何も言ってないぞ! 何も俺の事知らないだろ? いくら何でも舐めすぎ――」
俺が何も出来ないという考えを撤廃させようと二人に説明をしようとしたその時。
上空から突然大きな爆発音が鳴り響いた。
火属性の魔法か何かを打ち上げたのか?
「よっしゃあ! 行くぜお前ら、敵を見つけ次第ぶっ潰す!」
「………」
「え? おい! どこ行くんだ!?」
咄嗟に引き止めようとしたが、その声は届かない。
「もしかして今のが開始の合図だったのか? まだなんにも作戦立ててないだが……」
二人は試合が開始してすぐに敵陣地の方へと駆け出していく。
そして、そのまま遠くに消えて行ってしまった。
おいおい、相手は六人構成の手練れチームなんだぞ?
「クソッ、待ちやがれ考えなしども!」
俺は追いかけるように二人が消えていった方向へと走り出した。
**
「……! 始まりの合図です、では行きましょう。ハルバ君、お願いします」
「了解だ、リーダー。『追い風』を使うぞ」
補助を得意とするハルバがチーム全員に足が身軽になり、追い風が吹くスキルを付与してくれる。
身体が軽くなったのを確認して相手陣地へと走って向かう。
「サーチもお願いできますか? 一応念の為ですが……」
「構わないが、こんなに早く発動させておくか? 心配しすぎじゃないか?」
「……そうかもしれません。しかし、相手が格下だとしても何が起こるかは分かりません。彼らも何も策なしでは来ないでしょう。これは適応力を鍛える訓練でもあります。同時に使わせるのは悪いとは思いますが、お願いできますか?」
「――分かった、何事にも保険は必要だしな。『魔力索敵』を発動させる」
「ありがとうございます」
ハルバは『追い風』と同時に『
すると、前から魔力を持った者がこちらに向かってくるのをハルバはすぐに感じ取った。
「サーチに引っかかったぞ。真正面から突っ込んでくる馬鹿がいるな」
全員がその馬鹿と呼ばれる者を確認しようとし、戦闘態勢に入る。
前から来ていたのは、
「いた! よーし、いっちょ暴れてやるぜ!」
『お荷物組』の盾役と思われる、アルフレッド・タイファーだ。
猛スピードでこちら目掛けて走ってきていた。
「何? 本当に突っ込んできてるじゃん。もしかして自暴自棄になってんの? いくら何でも考えなさすぎでしょ」
「おりゃあああああああああ!!」
目の前まで来たアルフレッドは大剣を振りかざし、勢いよく私達へその鉄の塊を落としてきた。
『追い風』の恩恵を利用し、それを素早く交わす。
大剣は大きな音を立てて地面に叩きつけられた。
その隙にアルフレッドを包囲するように動き、攻撃に移ろうと……。
「『グラウンドディフォメーション』!!」
「「「!?」」」
アルフレッドの周囲の地面が突然変形し、私たちと彼の間を割って目の前に複数の土の壁が出来上がった。
地属性中級魔法、グラウンドディフォメーション。
「まさか、あの彼が会得していたとは」
……やはり少しは成長しているということでしょうか。
ですが、この程度ではまだ足手まといですよ。
「少し驚いたが、その程度か? この後は、どうするんだろうな? タイファー」
魔法担当の二人がアルフレッドに向けて魔法を放とうとする。
「いいや?俺はもう一人じゃないんだ、もっと驚く事があるかもだぜ?」
「――!? リーダー、上だ!!」
私はその声が聞こえた途端、咄嗟に上を見上げて剣を構える。
――突然、木の上から何者かが降りてきた。
木剣の攻撃が降り注ぎ、立て続けに蹴りが繰り出される。
なんとか防御は間に合い、その衝撃を緩和させた。
襲撃者と私はすぐに距離を取って体勢を整える。
「……そう上手くはいかないか」
――ソーマ・ハディッド。
襲撃者は敵チームのもう一人の剣士だった。
「皆さん! エバン・ベイカーもどこかに潜んでいるかもしれません、警戒してください!」
危なかった、もう少し反応が遅ければ重い木剣が直撃し、そのまま蹴りをもろに食らっていたかもしれない。
サーチに直前まで引っ掛からなかったということは、『気配遮断』のスキル。
「……そうでした。忘れてはいけない」
いかに自分達に能力が劣っていようとも、彼らはこの青色学園に合格した者達だと言う事を。
でも、やはり違いますね。
「私を落としにきましたか。悪くはない手でしたが、もう終わりでしょうか? 中等部の頃よりは強くなったようですね、ハディッド君」
「……委員長は変わらないですね、強くなり続けている。ここで主力を削って一点は取るつもりだったけど、まだまだ僕は落ちこぼれの弱者らしい。少し、悔しいですよ」
彼はそう言って木剣を構え、魔力を集中させる。
「相変わらず木剣ですか。私達を舐めているのでしょうか……。それとも、相手を傷付けたくない甘い精神でしょうか?」
私はそれに対抗するように、同じく魔力を剣に集め、彼と同じタイミングで魔法を剣に発動させた。
「「『魔強・剣水』」」
武器の刃部分に魔法を付与し、強度、鋭さ、軽さを上げる技術。
それが『魔強』。
「同じ『魔強』でも、威力は段違いなのは分かっていますよね?」
「…………」
二人は見つめ合う。
空気が張り詰め、どちらが先に動くか様子を伺う。
呼吸が徐々に薄くなっていく。
「あっちは失敗したか、でも悪くは無かった筈だ。これで少しは考えを改めてくれるか?」
「そんな訳が無いだろう。お前達はどうあろうとも『お荷物組』だ」
「はっ、そうかよ! どうやっても元の関係には戻せないらしいな。やっぱり叩き潰せば万事解決ってわけだなあああああ!!」
そんな雄叫びが引き金となって、二人の若い剣士は勢いよく踏み出し、激しくぶつかり合った。
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