第十八話 「負け組、集う」
「これより、人工森林での戦闘訓練を行う。どんな状況でも対応できる能力を鍛えることを目的とした訓練となる。魔人との戦闘は死力を尽くすものになり、いつどこで戦うことになるかは誰にもわからない。まず大切なのは――」
一週間後、今日は対人戦闘訓練の授業がある。
魔法で作られた森林のエリアに連れてこられ、今は訓練の詳細についての説明を受けている。
四色の学園の敷地はとても広い。
こんな訓練用の場所は当然のように設備されているのだ。
この日のために武器の手入れや新しい武器の製作をしておいた。
この戦闘訓練は言わなくても分かるだろうが、成績に関わってくる割と大事な授業だ。
なんとしてもここで汚名を返上しなければ、今後の学園生活がさらに危うくなってしまう。
鍛治師が戦闘訓練を受けるのかという疑問が残るが、俺は『戦う鍛治師』希望なので気にしなくてもいい。
「まず、グループを作ってもらう。三人から六人で組んでもらい、次の集合までにそれぞれの準備を済ませておくように。では、始めてくれ」
……え?
早速大きな壁が立ちはだかった。
周りのみんなは続々とグループを作って、その場を離れていく。
ヤバイ、これって一人になってしまったらどうなるんだ?
もしかして強制見学?
おい、エウリア委員長。
こっちをそんな哀れみを含んだ目で見るんじゃねぇ。
「マジか、俺って結構ぼっち属性が高かったのか?」
「――いーや? そんなことは無いかもしれないぜ?」
後ろからそんな声が掛けられた。
誰だ? 俺に好意的に話かけるとは中々の強者だ。
「なあ、ベイカー。俺たちとチーム組まねえか? お前も余ったんだろ? 悪い話じゃねぇと思うが」
「えっと、誰だっけ」
「俺はアルフレッド、アルフレッド・タイファーだ。フレッドって呼んでくれていいぜ!」
そうアルフレッドが気さくに自己紹介をしてくれた。
俺よりも大きな体躯に鍛えられた体を持つ逞しそうな男だ。
いやそんなことより、俺と同じグループになってくれる、のか!?
「で、どうだ? 組まねえか?」
「お、おう! 俺から頼みたいくらいだ。いやあ、助かったわ。このまま一人でどうしようって考えてた所でさ」
「安心しろ、俺たちもだからな。誰も組んでくれないなら、同じ境遇の奴と手を組めばいいってこいつが言ってくれてよ」
「こいつ?」
アルフレッドが親指で指した先には、俺が学園に来て初めて会話を交わした気弱そうな男のソーマがいた。
それに気付いたのか、ソーマは俺たちの方に近づいてくる。
「よろしくね。………えーっと〜」
「……エバンだ。この前紹介したじゃないかソーマ。まだ名前覚えてもらってなかったのか」
「ご、ごめんね! エバン君!」
「エバンでいい、会話も少なかったしまあ仕方ないか」
ソーマはあまり人馴れしていないのだろうか?
話すたびに緊張している感じがある。
俺は前世よりも明るくなったかな。
メアリとの毎日の会話がもたらした成果かもしれない。
「っと、ちょっと待て。同じ境遇てのは?お前たちも省かれてしまったのか?」
「ん? 知らないのか? 俺たちは『お荷物組』として扱われてるんだ」
「お、お荷物?」
何だそれ初耳だ。お荷物組って……。
学校始まって一週間でそんな不名誉な……。
俺はともかく、二人も何か悪い所とかあるのか?
クラスでの評価基準は優秀かどうか。
それだけで決まってしまう厳しい世界なのだ。
魔法が使えない、スキルがイマイチなどのしょうがない理由で友達もろくに作れなくなってしまう。
「1ーBクラスの『無能』、『役立たず』、『問題児』って呼ばれてんだよ。総称して『お荷物組』。本当に、優しさのかけらも感じられないような非情で素晴らしい呼び名だよな!」
「非情すぎるわ」
俺の前世だと、それはもうイジメって呼ばれてるぞ。
そっか、俺が一人でいる間にそんな要らない二つ名が付けられていたとは。
本当に悲しいよ僕は。
「して、どれが俺の素晴らしい呼び名なんだ?」
「『問題児』がエバンだな。一番最速で付けられた呼び名だぜ」
「本当にひでぇな」
遅刻しただけでそんなに響くもんなのか?
人を陥れるのは世界共通、変えられない現象なのだろうか……。
成績の事もあるだろうが、まだ俺の実力その目で確かめてないだろうに。
まあ、確かめてもあんまり評価変わらないか!
そんな自分がなんだか情けなく感じてきてしまった。
「だから見返す為に俺たちでグループを作ろうって話になったんだ。お互いベストを尽くそうぜ?」
おお、流石やる気が違うな。
それで、どっちが『無能』でどっちが『役立たず』なんだ?
「グループは作れたか? では駆け足で集合! 今から訓練についてのルールを説明する!」
聞き出そうとした所で集合が掛かってしまった。
いいか、別に聞きたいことでもないしな。
二人もあまり触れたくないだろうし。
「訓練と言ったが、これはチーム戦の試合だ。先に敵チームを討ち取り、勝利する。それだけだ」
ほう、試合か。
でも最低人数の三人チームは不利ではないか?
このクラスは三十三人の構成だ。
ばらつきがあってはバランスが崩れると思………。
あれ? 俺たち以外は全員六人で作ってるな。
「相手を戦闘不能の状態、降参させるなどで勝敗が決まる。魔法やスキルを駆使してこの森林を駆け回り、戦略を練って相手を落とす力を身に付けるのだ」
ゲームみたいな説明ありがとう。
というか普通に怖いな。
もし剣とか受け流したり出来なかった場合には、即治療院行きとなる場合があるじゃん。
「怪我は事前に上級治癒師を呼んであるから安心してくれ。だが、だからと言って大規模な魔法や殺傷させるような攻撃は控えるように」
用意周到なことで。
「戦闘の前にこの聖紋を装着してもらう。これは戦闘不能後、負った傷を徐々に癒してくれる力を持った魔道具だ。試合中は発動出来ないように設定してあるぞ。これぐれも外さないようにな」
俺は授業前に渡された星のマークが描かれた聖紋をポケットから取り出し確認する。
これ魔道具だったのか。
傷を癒してくれるなんて、これどこで売ってんのかな?
「最後に、クジで対戦するチームを決める。代表者は前に出てくるように」
「エバン、行ってくれるか?」
アルフレッドが俺に行くように言ってきた。
「え? まあ構わないけど、てっきりフレッドが自分から行くのかと思ってたよ」
「いや、俺は……ちょっと周りの目があって行きづらいんだ」
「……そうか、じゃあ俺が行くよ」
「悪いな、ありがとうエバン」
フレッドも『お荷物組』と呼ばれている身だったのを忘れていた。
何か思うことがあるのだろう。
若干押し付けな気がするが、一番恐れを知らない俺が行ってやるとしよう。
初日のあの視線に比べたらどうってこともない。
俺は他の十チームの代表者と一緒に前に出る。
どんな人が代表になったのかちょっと周りを見てみる。
そこには強そうな、確か優秀だったような奴らの顔が勢揃いしていた。
うん、場違い。
列の一番前に並んだ俺は、箱の中から番号の書かれた紙をピックアップしていく。
紙に書かれた数字が同じ対戦相手のチームと戦うことになるらしい。
俺が引き終わった後、それに続いて他の者も選んでいく。
「さて、俺の番号は……うわ、一番目?」
不運にも『I』と書かれた紙を引いてしまったようだ。
まあ、すぐに終わって休めるって考えたら良いかもしれないし気を落とすことはないか。
俺たちの対戦チームは一体どのチームだ?
そう考えていると、前から紙を持ったまるで敵を見るような顔をしたエウリアが俺の方に近付いて来る。
え、ちょっと待って。
俺の悪い事を察知する機能が故障していなければ、俺たちが戦う相手は………。
「悪いですけど、手加減はしないです」
そう言ってエウリアは『Ⅰ』と書かれた紙を俺の顔の前に突き出してきた。
優秀チームVSお荷物組、ってか?
ははっ、冗談はもう勘弁してくれよ……。
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