第五話 「ファーストモンスター」

 鉱山に入ってから約二時間が経過した。


 新たに追加されたスキル、鉱物探知がビンビン反応している。


 俺は手に入れられる限りの鉄鉱石を持ち帰るため、それ以外の鉱石やよくわからない光っていた鉱石をすべて無視し、ただひたすら一つのものを求めて掘り続けた。


 その結果、かなりの量の鉄鉱石を集めることに成功した。


 鉱物探知のおかげなのか、俺が見つけたいという鉱石がたくさん引っかかっている。流石スキル様々だな。闇雲に探すより本当に効率が良い。


 それと同時に、この世界はマジでスキルが大事だと言うことを思い知らされた気がする。


「ふぅ……まあこのくらいでやめとくか」


 しばらく運動していなかったせいか、前世の体よりも重く感じた。このまま動き続けたら明日筋肉痛になるかもな。

 

 それにそろそろツルハシにかけた魔法の効果もきれる、光がなくなる前に早くここから脱出しなければ。


 ほら、そう言った側から光が段々と消えて……。


「……おい、勘弁してくれ!」


 効果時間を見誤ったか? 確かに二時間半程度持続するスクロールを買ったはずだが、物によって出来栄えが違うのか?


 光がなければもしかしたら暗闇の魔物が活動し始めるかもしれない。


「まずい、とにかくここから早く出ないと……」


 大丈夫、来た道を戻っていけばいい話――。



 ドスッ


 

 ……俺はフラグを立てるのが得意らしい。


 俺の背後から何か地面に響く音が聞こえた。その響きは鳴り止まず、直感的に生き物の足音だと理解することができた。


 そしてその足音とは別に、何かを引きずるようながりがりとした金属音が同時に聞こえてくる。


 俺は恐る恐るその原因を確かめるべく、ゆっくりと

後ろに振り返った。


 

 ――そこには錆びれた大剣を引きずり、蜥蜴の頭を持つぎょろぎょろ目ん玉の怪人がいた。


 リザードマンというやつだろうか。


 だがそれは少なくとも俺の知っているアニメなどで見た獣人では、……決してなかった。

 


「ぎゃああああああああああああ!!?」


「シャアアアアアアアアアアアア!!!」


 俺と洞窟のリザードマンは悲鳴と咆哮を上げた。


「い、いい、いいいや、落ち着け! 俺には武器がある!」


 俺は軽く震えながらも異次元武器庫から剣を取り出し、戦闘態勢に入る。


 ……まあ戦闘経験ないけどね!?


 なけなしの筋力増強の効果を発動させ、そいつの動向を伺う。


 ……コイツ、戦い慣れてる気がするな。


 異常に発達された筋肉と隙のない強者の気配。獲物を逃さんとばかりに開かれた眼差し。素人の俺でもわかる手慣れた剣の構え。


 ……少なくとも絶対に、それも駆け出しの鍛治師が戦うべきじゃない魔物だわこれ!


「せめてゴブリンとか底辺の魔物にでてきてほしかったよ、こんな雑魚装備でどう立ち向かえと!?」


 この状況、軽く詰みではないだろか。


 いやでももしこのリザードマンを倒すことができれば、鍛治師でも魔物と戦えることが証明され――。


 ずしゅんッ!!!


「ふわあッ?」


 気を緩めた瞬間、俺の顔の数センチ左にリザードマンの大剣が凄まじい勢いと速さで壁に突き刺さった。


 俺はその規格外の動きについて来られるはずもなく、ただ奴の眼を見つめることしかできなかった。


 ……少しでも勝てると思った数秒前の自分を殴りたい。


 俺は二、三歩後ずさるって転んでしまい、剣を落としながら地面に座ってしまった。


 ああ、捕食される。そう覚悟した。


 ……しかし、リザードマンはその場から動かない。


「……あれ? どうしたんですか?」


 どうやら勢いをつけすぎて大剣を奥深くまで刺してしまい、抜こうにも抜けないらしい。コイツ、知能はそんなに高くないのか?


 ……よし、今のうちに逃げよう。今すぐに逃げないと死ぬ。


 俺は立ち上がって、剣を拾う。リザードマンに一撃を喰らわせたい気持ちを何とか抑える。

 そいつの反対方向である俺が来た道に向かって全速力で駆け出そうと、



「……いや、やっぱ一撃くらい喰らわしたるわ!」



 するのはやっぱりやめて、一矢報いるため筋力増強の剣をリザードマンの腰あたりに突き刺すが、


 カンッ!


 逆に俺の剣が弾かれてしまった。



 ……………………こいつ肌硬すぎだろ。



「ジャアアアアアアアアアア!!!」


 怒った! ごめんなさいぃぃぃ!!



 結局。


 身動きもしていない相手にダメージを与えることはできずに怒号のような雄叫びを聞き、俺は恐怖を覚えながら地上へと不格好にも逃げ出した。



**



 20分ほど全力で走り続け、鉱山の入り口へと帰還することに成功した。


「そのまま、武器を、捨てて、はあ、はあ、追いかけて、こなくて、本当に、良かった……」


 息が思うように落ち着かない。


 アイツの知能が高かったら、俺はこの鉱山から出ることはできなかっただろう。


 しばらくして、ようやく呼吸が整う。


「でも、当初の目標は達成できた。これで少なくとも二、三ヶ月は武器生成の練習ができるかな?」


 そうだ。何はともあれ、鉄鉱石をできるだけたくさん持ち帰るというミッションは無事成功した。


 もうそれだけでいいんだ、アイツのことはもう心の奥底に沈めておこう。


 ……さて、村に帰ろう。


 そしたら今日はもう休むことに徹底してやる。そう心に誓ってイーリッツ村へと向かった。



 ――魔王軍がまさに今その村に襲撃しに来ているとも知らずに。


 この日、俺の第二の人生は急変した。

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