第三話 「主人公交代?」

 

 10日後、俺はイーリッチ村の付近にある森に来ていた。何をしにきたのかというと、俺が初めて作った武器の試し斬りだ。


 俺はラバンに武器作りの基礎を教えてもらって、ショートソードを作ってみた。


 せっかく神様から能力もらったし、一回製造してみようっていう気持ちになったのだ。


 ラバンは俺が教えてほしいと頼むと心底嬉しそうな顔をしていた。その顔をちょっとだけ殴りたくなった俺は、もうちょっと気を楽にして生活した方がいいのかもしれない。


 武器を作るには相当苦労するものだと思ったが、あまり苦ではなかった。作業工程は難しいが、逆に少し楽しさを感じたような気がする。

 

 俺が初めて作ったにしてはまあまあな出来だと、ラバンは褒めてくれた。


 なんでも、武器に能力が付与されていたらしい。


 それは珍しいことで、ラバンが作っても付与されることは滅多にないとのこと。俺のスキル、武器生成技術B−と能力付与E+が補正してくれたおかげだろうが。


 鍛冶師として不覚にも優れているのかな。


 この武器能力を使ってみたいが為に、森へとわざわざ出向いていたのだ。


 俺は少し開けた場所に出ると、ショートソードを異次元武器庫から取り出すイメージを描いた。


 すると、約1秒で俺の右手に剣が出現する。


「手ぶらで移動できるのは便利だよなぁ」


 割とこの能力はゲームでよくあるストレージに似ている。ランクはまだDなので、小さめの物置ほどの広さだが。


 凡人にとってはこのスキルはチートスキルだと思う。ちなみに、今は最大3本まで同時に取り出すことができる。でも俺が求めていたチートの方向性が違うよな。


 それはさておき、さっそく使ってみるか。


 この剣には『風刃』という武器能力がある。名前の通りならば、風を刃にして前方に飛ばせることができるが……!


「ふっ…!」


 俺は剣を思いっきり斜めに振った。


 その瞬間、剣の刃が薄い緑色に光り、目の前の木に風刃が繰り出された。


 ……ものすごく弱めの。


「……思ったより威力無さすぎないか? 木の表面が少し削れただけかよ。これなら直接剣で斬りつけたほうがいいじゃん」


 武器能力付与E+ならこんなものなのか? これなら俺もワンチャンあると期待してた俺がバカだったかもな。


 EからSまで上り詰めるにはどれだけ鍛錬すれば良いのだろうか。


 きっと膨大な労力と時間がいる。


 何回か振ってみたが、武器能力の上限はないらしい。ただ武器が壊れるまで能力は働き続けるようだ。



**



 俺は剣を気づけば1時間ほど振り続けていた。


「ふぅ……流石に疲れたな、試し斬りはここまでにしよう」


「ーーあなた、こんなところで何やってるの?」


 俺が立ち去ろうとした時、不意に後ろから声がかけられた。


「えっと……ヨナ?」


「ユナよ!! もう3回目でしょ!? いい加減覚えなさいよ!! それともわざとなの?」


 ……ああ、そうだった。


 こいつは村の村長の娘のユナ・ラムレイ。神授の儀式で俺の前にいたやつだ。


 まだ幼いのに凛々しさを感じさせる顔立ち、将来は絶対美人になると思わせる村人少女。


 ただ……。


「ユナこそ何で森に……」


「何で鍛治師見習いなのに剣なんて振ってるの? 剣術の練習なんてしても無駄よ! どうせあたしの方が才能あるんだからその剣寄越しなさい!!」


 態度がとてもデカい。


 なんだこのガキ、素直に貸してって頼めねえのか?

 先に質問にも答えなさいよ。

 

 そういえば、俺が鍛治師になるかもって言ったとき一気に下に見るようになったっけ。

 

「ただ自分の作った武器を試しに使ってただけだよ、練習してなんかしちゃいない。……俺に剣術の才能はないからな」


 そうだ。俺はもう見習いの鍛治師。武器まで作ってしまったのだから、今更冒険少年には戻れまい。


「剣が欲しいなら自分のお小遣いから引っ張り出して買うんだな」


「え〜? いいじゃない、いっぱい作れるんでしょ? だったら一本くらいくれたって問題ないわ!」


「問題ある。材料はそんなにたくさんは用意されてないんだよ、俺みたいな駆け出しが思う存分鍛錬できる量の鉄はこの村にはない。」


「ラバンのおじさんに作ってもらえばいいじゃない」


「お前じゃ使えないと思うぞ」


 ラバンが持つ武器生成技術の熟練度はA+、扱うには、武術系スキルのA相当は欲しいところだな。


「そもそもユナは魔術師向きじゃないか、剣より杖じゃないか?」


「剣術もできればカッコイイじゃない!!」


 そんな理由かよ。


 まあわからんでもない、俺もちょっと前までは魔法剣士にも憧れてたわけだし。


「でも、いいのか? ユナ。お前16歳になったら王国の魔法学園に入学する気なんだろ? 魔法の稽古なんて怠ってたら…」


「大丈夫よ、あたしを誰だと思ってるの?森に来たのは魔法の威力の確認、正真正銘の天才ユナ・ラムレイよ?もうこのくらいには成長できたわ!!」


 彼女は手を俺が斬りつけた木に向かって手を突き出し、


『ーーファイアボールッ!』


 と言って手のひらに球体の炎を生成した。


「おい! 流石に魔法だからって森に火は……?」


 魔法の成分は基本的に実物とは違うので、燃え広がることはないだろうが……。


 火属性初級魔法、ファイアボール。それは、異世界に大抵存在するテンプレ魔法。


 ……なのだが?


 そのファイアボールらしきものはキュィイイイインという甲高い音と共に高速で放たれた。


 そして、次の瞬間には目の前の木々を豪快にバキバキに焼き払ってみせた。


「どう? エバン!? 私ほんとうに天才かもしれないわ!!」


 ……うん、いや紛れもなく天才だよ。


 あれ、初級魔法だよね? ファイアボールって確かに言ってたよな? 威力が明らかに知ってるものと違う。



 ……主人公は俺なんかではなく。


 目の前に自慢げに佇む彼女なのかもしれない。

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