第二話 「ワクワクの儀式」

 俺はラバンと共にイーリッチに建てられている教会へとやってきた。


 そこには白い正装を着た信徒が数人と、俺と同様に儀式を受けるらしい子供2人とその親がいた。


「前世でも教会なんて入ったことなかったな……」


 教会には立派な礼拝堂があり、外面は丈夫な石造りとなっている。

 この小さな村にしてはまあまあな大きさと言ってもいい。


 机と椅子が並んでおり、通路の奥には祭壇がある。

 何やら見慣れない道具まで並んでいるな。


 あれらは儀式に使うものだろうか。


 儀式について、昨日の夜にラバンから話を詳しく聞いた。


 名はそのまま『神授の儀』と呼ばれるもの。


 祝福の神様メリディウスから、この過酷な世界で生きるために今後の人生に役に立つ力を授けてもらおうってことで始められた儀式らしい。


 なお、この儀式を受けないと加護やスキルが貰えないと言うわけではない。


 他にもこの世界で崇拝されている神様がおり、それぞれの方法が存在する。


 稀有な場合には、精霊や悪魔などからも貰えることがあるとかなんとか。


 ……どうしてそんなに力を与えてくれるのかはわからない。

 貰えるものは貰っておこうという精神を貫いた方がいいと思う。


『神授の儀』は12歳になった年に、1回だけ受けることが可能なようだ。


 メリディウス様は寛大で、心が善良なら何の代償も要らずに力を授けてくれるらしい。


 なんて太っ腹なのだろう。


「さて、『神授の儀』を受ける者はこちらにきてもらいます。今年は……3人ですね。順番にやりますので、他の者たちは私が呼ぶまで外でしばしお待ちを」


 この教会の神父らしい人物は優しい声色でそう言った。


「いいかエバン!! 心の中でしっかりお願いすれば神様を応えてくださるかもしれない!! 祈れ!! 伝説の鍛治師スキルをもらって人生を楽しく鋼と生きよう!!」


 ……俺は一言でも鍛治師になりたいと言ったことがあっただろうか。


 あと。一応教会にいるのだからもう少し声量を下げてほしい。


 どうやら俺の儀式の順番は最後のようだ。まあ、儀式と言ってもただ水晶に手を置くだけだけどね。


 待っている間は教会の外で待機させられた。早く早くと、俺とラバンはそわそわとしてしまう。


 15分ほど待った後、ついに俺の番が回ってきた。


「あなたが授かった力は火属性の魔術師に適しているようですね、おめでとうございます。これからもメリディウス様のご加護があらんことを。では次の者、入ってきなさい」


 神父に呼ばれ教会に再び入り、俺は水晶の前に立つ。


「これより神授の儀式を開始します。まず初めにあなたへ3つの問いをかけます。あなたの心の器が善良であるかどうか見定めるので、何も偽りなく答えるように」


 一応試練のようなものがあるのか。


 見定めることができるスキルか何かを使うのだろうか。

 そう思った瞬間、神父の右眼が淡く光りだした。


「では、……あなたは今まで他人を貶めるようなことをしましたか?」


「してません」


「即答ですか、嘘はついていないようですね。良い人格をお持ちのようでなによりです。では次の問いに移ります」


 これだけでいいらしい。


 神父の右眼はやはり嘘を見抜く力があるのかもな。


 まあ、俺は嘘をついてなんかはいない。


 あくまでこの世界に来てからの話だ、文句は受け付けない。

 俺は良い人格だったようで、少し安心した。


「……あなたはメリディウス様のことを信用していますか?」


 ……いやなんだその問いは。


 え? 信用もなにもどんな神様かはまだ知らないんだが。


 こうした場合は何て答えるべきか?


「もう一度問います。あなたはメリディウス様のことを信用していますか?」


「えっと……し、信用してます!!」


「……まあ良いでしょう。では、最後の問いにいきましょう」


 どういうことだったんだよ。あれで良かったの?


「……あなたは力を授かった時、その力をどのように使いますか?」


 最後は案外普通の問いが来たな。


 そんなの決まってる。


「……自分の大切な者を守り、世の中に役立つよう使いたいと思います」


「……良い答えです。いいでしょう、あなたはこの儀式を受けるに値する者だと判断しました。今から神授の宝玉を起動させますので、少しお待ちください」


 我ながら善良な主人公っぽいことをよく言えたな。

 どうやらこれで完全に受けられるようだ。


 ようやく俺のもとに異世界能力が…!!


「よくやったぞ!! エバン!! さすが俺の息子だ!! ほとんどの奴は第三の問いにつまずいてしまうことが多いが…即答だったな!! 何も心配は無用だったようだな!! これでようやく俺の継承者が誕生するぜ!!」


 ラバンがいつの間にか俺の横に駆け寄ってきていた。


 当然だ。俺の精神年齢は27歳くらいだが、それを感じさせないくらい純粋だからな、これくらい突破するのはたやすいぜ。


 ……継承しないっつってんだろうが!


「ゴホン! では、エバン・ベイカー、この水晶に手を置いてください。すぐにプレートに詳細が記されます」


 プレート?


 ああ、なんか水晶の少し下に薄い板が敷かれてあるな。

 これに俺の力が記されるわけか。


 よし、佐山優斗兼エバン・ベイカーよ。

 心に念じろ。


 夢の最強異世界生活への一歩を踏み出せ。



(魔法は炎適正が欲しいな贅沢はなるべく言わないから強力な魔法に耐えられる体にしてほしい。スキルは多めに頼みます!! 俺はあなたからもらった力で魔法学園を制覇し、王国の聖騎士になって異世界無双英雄譚をこの世界に広めたいんだ!! 将来は豪邸に住んで美女に囲まれながらハーレム生活を送りたい!! だから、どうか!! 俺に大いなる力を与えたまえ!!!!)



 俺は水晶に手を置いた。


 その時、


「ーーそなた、私が思っていたよりも私利私欲が強かったようじゃな…」


 どこからかそんな声が聞こえた気がした。



**



  俺が手を置いた瞬間、神々しく見惚れてしまうほどの魔法陣が水晶から展開される。 


 この世界の文字が円を描くように綺麗に並んでいく。

 やがて文字が魔法陣から離れ、プレートにその光る一文字一文字が刻まれていった。


「……おお」


 それと同時に、俺の手の先から何かが伝っている気がした。


 これは…今神様から力を貰っているのか?


 約30秒ほど経過したとき、魔法陣が突然一層輝かしさを増し、徐々に光を失っていった。


 ……終わったのか?


「神授の儀式、全ての工程が終了しました。プレートにあなたのステータスの詳細が記されています。では、ご確認を」


 俺は今少々興奮気味だ。


 何気にこの世界に来て、魔法なんて初めてみたぜ。


 よし、では確認しよう。

 一体どんな代物を貰ったのか……!!


 その詳細を知るために、俺はプレートを手に取ろうと――。


「お! 終わったか!!! よし、俺に見せてみろ!!」


 ……したら横からラバンが、奪い取った。


 いや、お前いい大人なんだからじっとしていてくれよ!!


「……………おいおい、マジかよ!! やったぜエバン!!!!!!! お前は今日から俺の意志を継ぐ鍛冶師だーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



「ーーえ?」


 ………は!?


 そう言ってラバンが俺の顔の前に出してきたプレートのスキル欄には……。


「…武器生成技術B? ははっ、何かの間違いかな。もう一回儀式できます?」


 ……鍛治職人御用達の基本スキルやらなんやらがいっぱい並んでいるように見えた。

 

 あれ? 俺の異世界無双英雄譚は?


 魔法使えないの?


 直前にあんな頼み方したから?


 それともメリディウス様、調子悪かったのかな?


 魔法適正って高確率でもらえるとか言ってなかった?


 ――俺は、現実を見ないようにすることにした。



**



 儀式終了後、夕方。


 俺はラバンとベイカー家に帰宅した。


「お父さん、たとえスキルが無かったって努力で剣士とか騎士とかになれるよね?」


「無理だな!! 中堅クラスにはなれるだろうが、スキルがなければ圧倒的な差が生まれるぜ!!」


 厳しいっすね、今ショック状態なんすけど。


 俺のプレートの詳細はこの通りだ。


《エバン・ベイカー 10歳 

 イーリッチ村登録住民


 スキル 武器生成技術:B−

     武具生成技術:E+

     武器能力理解:C

     武器生成時能力付与:E+


 ユニークスキル 異次元鍛冶場作成

         異次元武器庫:D


 魔法適正 なし

 魔法   なし           》



 ……これが俺の基本的なステータスだ。


 本当に鍛治師向けのスキル構成ですね!


 魔法も使えないとかもう地球の中堅鍛治職人と変わらないのではないのだろうか。


 このBとかEとかはその能力の熟練度を表す。

 F−からS+まで存在し、今の俺の年齢でこのスキルの評価は結構高いらしい。


 なんか複雑な気持ちだよ。


 武器生成時能力付与ってのは何だ?

 頑張れば魔剣みたいなのも作れるよってことだろうか。


 唯一惹かれたのがこのユニークスキル、異次元鍛冶場作成だ。


 ユニークスキルというのは、その者しか持っていない極めてレアなスキルらしい。


 なんか凄そうだと思ったが簡単に言えば、持ち運びできる鍛冶場。


 文字通り異次元にまあまあの大きさの鍛冶場を作ることができ、いつでもそこに入れるというもの。


 異次元武器庫と言うものもおまけで備えつけてあった。

 そこから武器を瞬時に両手、周囲5m以内なら持ってくることができる。


 便利だ……それだけ。


 これでどうやって魔物相手に立ち向かえと?

 ひたすら武器庫から剣を引っ張り出して投げつければいいのだろうか。


 野外で武器作ることもあんまりないだろ。


 はぁ…。


 勇者っぽいことするの憧れてたんだけどなあ。


 もう今日は疲れた。

 夕飯食べたら適当に風呂入って、さっさと寝よう。


 俺は何の為に異世界にきたのだろう、そんなことをつい考えてしまった。


「エバン、そんなに悲観することはないと思うぞ!!」


 俺の心を読んだように、ラバンが話しかけてきた。


「いや、やりたかったことをもう実現できないってなると…、ちょっと凹むよ」


「そうか、じゃあ聞くが、それは本当にやらないと生きられないのか?」


 …どうした? いきなり真剣な顔して。


「ちょっと前から夢だったんだ。聖騎士みたいに強くなって、みんなを助けるていう妄想を何回もしてきたよ」


「それは残念だな。でもな、みんながみんななりたい者になれるわけじゃない。この世界はそうやってできている。自分に合った道を進んで行くしかない」


 知ってるさ、だから凹んでいるんだ。


「お前は、神様から力を授かった。たとえそれが望んでいなかったものだったとしても、それを十分に発揮するのが、礼儀というものだろう」


 ……。


「俺だってそうさ、俺の家系は元々は魔剣士の家系だからな!! お前の気持ちはものすごくわかる!! わかってしまう!!」


 ……え? そうだったの!?


「神様は力を授けて下さるありがたいお方だが、それと同時に残酷な現実を突きつけてくることがある。そして、それを払い除けることで強くなれる」


 ……?


  何が言いたいんだ?


「鍛冶師として強くなれば、お前は俺より強くなれる!! ユニークスキルを授かることもできたんだろう!!? 聖騎士のように強くなることだって、できるっていうことだ!!!!」


 いやどういうことだよ!?


 もう夕食の準備しよ……。

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