儀式
「じゃ、ぼちぼち始めよか」と先輩は台所からガリガリくんを持ってきた。周りのさくさくした部分を器用に剥がしていく。「はよやらんと溶けるぞ」と言うが、ガリガリくんは俺の手をすり抜ける。
「ええか? 氷の部分だけを口に入れたら、もうなんも喋ったらあかんで」
先輩はこちらを見ないようにしているようだった。さっきから視線が合わない。「ちなみに南南西はあっち」と指差す先に、燃えさかる鳥居形が見えた。まだまだ火の勢いは衰えそうにない。
先輩は氷の棒をくわえると目を閉じてしまった。話しかけることもできずに、ただ机の上のガリガリくんを眺める。袋の表面に水滴が浮かぶ。
「もうええぞ」と言ってから、先輩は窓を開け放した。山が暗い。赤々と燃えているはずの鳥居形がどこにも見当たらない。あれってさっきの儀式と関係あるんですか、と尋ねると、先輩は「さあな」と楽しそうに笑った。
氷でまじない 多聞 @tada_13
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