鳥居形
「点いた」
畏れと興奮が交じったような呟きで、俺は目が覚めた。先輩は電気もつけず、窓の外を眺めている。その視線の先には、燃え上がる鳥居が見えた。
今日は大文字焼きか、と呟くと、先輩がニヤッと笑った。
「ちゃうちゃう、五山の送り火や。大文字焼きなんて言うたら、その辺の京都人に殺されるで」
本当だろうか。少し驚きながら聞き返すと、先輩は真剣な顔で語り出した。
「あれは何年前やったかなぁ。町中で不用意に『大文字焼き』って言った奴が、路地に引きずり込まれるんを見たことがあってな」
いつから京都はそんな野蛮な都市になったのだろう。俺の怯えを感じ取ったのだろうか、先輩は安心させるように口を開いた。
「まぁ、俺は心の広い京都人やからな。そんなことはせえへんよ。ただ、市内で口に出さへん方がいいことは確かやな。送り火過激派の京都人が襲ってくるかもしれへんし」
先輩が過激派じゃなくてよかった。機嫌良さそうに話を続ける。
「そもそも、大文字焼きと送り火のどっちが正しいかなんて、誰にも分からんやろ。京都人が送り火送り火言うてんのは、今それが正しいことになってるからや。大体、五山の送り火ってどういう意味があるか知ってるか?」
祖先の御霊を送るため、とテレビか何かで見たことがある。
「せやけどな、帰ってきた人は、あの世に戻ることに納得してるんやろか。強制ってことやろ?俺やったら意地でもこの世に留まってたいな」
お前やったらどうや、という言葉に何も言えずにいると、先輩は諦めたように笑った。
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