列車の中に

 列車の入口に入った直後、階段が見えた。右の奥に、いくつの女騎士は席に座っている。


「ねぇ、あの子、千愛ちあきさまに似てない?」

「あ、そういえば、そうですね……いやいやいや、本人じゃないですか!」

「そうだけど……ちっちゃい。千愛ちあきさまの子供?」

「手錠かけてるんですけど……」


 騎士の数が多い、この列車は旅客用じゃないのか?

 列車の中身は想像以上に広がった。清潔な印象を残した席が並んでいる、席と席の間隔は広い。いくつの席がベッドに変わった、騎士がその上で仰向けで寝ている。


千愛ちあきさま。こちらです」


 金髪の隊長さんに連れられて、二階に上がった。


「この部屋を好きに使ってください。なにかあったら、そこの電話でお呼びください。では、私は仕事があるので、失礼いたします」

「失礼いたします!」


 二人の騎士は牢屋を出ていた。そして、わたしは賓客用の牢屋に閉じ込められた。


 牢屋を回ってみたが、二人で寝れるベッド、外の景色をはっきり見える透明なガラスと一緒にセットされたカーテン。バストイレ別の二つ室はあった。トイレは温水洗浄便座付きだった、お風呂にはきれいな浴槽があった。


 列車ホテルか? ここは……。


 ベッドの隣にある全身鏡で自分を眺める。

 魔法少女の姿のままだった。アステルライブラを出してポーズを取ってみた。なんで魔法少女を名乗ったんだろう? 思えば、栗色の騎士はニヤニヤしていた気が……急に顔が熱くなて来た。



 ※



 眠い、カフェイン効果が消えたか、それとも眠気が強かったか、やることがないと、眠い。


「ふふっ、寝よう、寝たら忘れるはず」


 ガラス外の景色が流れ始まった。わたしはベッドの上で、夢の世界へダイブした……。


「やばっり邪魔」


 手錠を外して……。


 ぽい~


 そして、わたしは夢の世界へ旅立ちした。



 ※



「なにしてる?」

「人間観察してるんです」


 目を覚ましたら、青い目に見つめられていることを気ついた。微笑が口角に浮かんで、ぼーっとした顔でわたしの隣に横たわっている。


「誰?」

「忘れたのです~? 千愛ちあきさま」

「魔族……ピンク色髪のメイド」


 彼女の頭にヒツジのようなぐるぐるしている角があった。それとメイド服……。


「正解~、名前覚えないのですか? ラフィー・カルティエですよ~」


 教会に預けられたとき、おじいちゃんがわたしに附き添わせたメイドだった。なぜここに?


「よっと……マウラさんを呼んできますね~」


 身長はわたしとそう変わらない、背中までにあるふわふわなピンク髪が舞い上がって、するりとベッドから離れて部屋を出ていた。

 マウラさんって誰? まぁいいか。


 変身したから、視角の左上に青いバーがあった、魔力と五万って書いてある、どうやら魔力は五万もあるらしい。

 先、列車にぶつけたときは三桁くらい減った、魔法を使ったとき桁一つしか減らなかった。今、魔力のバーはもう全快した。

 思えば魔法を使ったとき、違和感があったのはこれのせいだ、わたし自身の魔力が使っていない、魂に繋がっている世界樹からの魔力を使ったらしい。


 なんてことだ……変身したら世界樹から魔力供給受けるなんて、これで変身を解けられなくなるじゃないか……。

 世界樹は魔力が欲しいじゃないのか? やばっりなにがしたいが分からない。


 ポーンと着信音が鳴った、ティラミスからスマホを取り出して見た、お姉ちゃんだった。


『アキちゃん。今どこ! 転移失敗ってどういうこと?』


 お姉ちゃんならもっと早く返信すると思ったが、慌てて過ぎてスマホを見ていなかったかな?


『北方の森だよ、今は列車で王城に向かってる。簡単に言うと、転移魔法を遊んだら、ずれてしまった』


 軌跡きせきのずれ具合で推測すいそくすると、わたしは王城の北方にいる。


『え? アキちゃん。転移魔法使えるの?』

『使えるようになった』

『凄い! じゃあ、王城に転移できる?』

『できるけど、急いでるわけじゃないし』

『じゃあ、お姉ちゃんが迎えに行くから、待っててね』


 せっかく家族に会えたのに、お姉ちゃんはもっとゆっくりしてほしいものだ。


『久しぶりにおじさんたちに会えたのに、大丈夫?』

『お父さんたちこっちにいないよ、聖宮の方にいるみたい。アキちゃんは道が分からないだよね?』


 聖宮は王都の西にある海の向こうだ。この前、聖宮は魔族たちに占領されていた、お姉ちゃんに会えた礼拝堂は聖宮の中だ。

 おじさんたちいないのか。


『騎士たちに聞くから大丈夫』

『一人で大丈夫?』

『余裕』

『本当に大丈夫?』

『うん』

『なにかあったら、お姉ちゃんを呼んでね』

『分かった』


 ポーンと新しいメッセージが来た、お姉ちゃんからじゃない。


『お兄ちゃん?』


 クリス……明音あかねだった。これは千愛ちあきのスマホだけど。


明音あかねか? どうしてこの番号知ってる?』

『公式サイトでフレンド登録したでしょう。本当にお兄ちゃんなの?』


 どうしてここでゲームの話が出るのか? 連絡先にクリスの名前があった。


『そっちの世界にいるわたしが死んだのか?』

『うん』

『こっちのことが終わったら、そっちに行くよ』

『今はどこにいるの?』

『王都の北方にいる森だよ、今は王都に向かってる』

『ディーオウス教王国の王都だよね。じゃあ、王都で待ってる。着いたら教えてね』


 ディーオウス教王国……? うち国の名前だった。


明音あかねはこの世界にいるのか?』

『そうだけど? ここはゲームの世界だよ、お兄ちゃん。知らないの? 転生とか、生き返るとか思わないでね、現実にはそんなものいないんだから。今のお兄ちゃんはただのゲームシステムの一部に過ぎないだろうね。それじゃまたあとで』









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