女騎士団

「はぁ~……」


 今、わたし、手錠をかけられて、列車の部屋にいる。


「うぅ~……」


 なんで魔法少女を名乗ったんだろう、わたしは。頭のネジがぶっ飛んでるような……コーヒーのせいだ、そう、きっとコーヒーのせいだ。



 ※



「……魔法少女……? いや、そういうのじゃなくてですね、どこの国の人間なのかを聞きたいんです。あ、人間じゃなかったらすみません」


 今は人間だよ、わたしは。

 栗色の騎士さんが震えが止まった。

 わたしは怖くないことを気づいたんだろう、頬がニヤニヤしているけど。


「えっと、先ほど端末を取り出したことを見ていましたが、身分証明になるので、見せてもらってもいいでしょうか?」


 スマホのこと? 一人の女の子がこんな森にいるのは確かに尋常ではない。身分証明してほしいのは分かる。それでも……。


「その前に君たちが国の騎士であることを証明して」


 以前、いくつの偽物騎士を見つけたことがあるから、騎士の身分は確かめるべき。それに、騎士は自分の身分を証明する義務があるはず。


「はい、どうぞ」


 金髪の騎士さんは自分のスマホを見せてくれた。

 そういえば、この国、身分証明書はスマホの中にあったな、騎士の手帳もスマホの中に。


「第三女騎士団、五番隊隊長を務めている、ジリアン・スチュワートです」


 スマホの画面に表示されている情報と写真一致している。


「はい、これ」


 わたしはティラミスからスマホを取り出して、彼女に渡した。彼女はそのスマホを自分のスマホに載せた。


「……榊原さかきはら千愛ちあきさま……ですか」

「え?」

「ご協力ありがとうございます」


 金髪の騎士さんはしばらくわたしの顔を見つめていたあと、スマホ返してくれた。


「王城はどこ?」

「先の列車で……えっと、怪我はなさそうですね。先の列車で街に着くと、王都に着く列車を乗り換えて、王城に着きます」

「そう、怪我はないよ、わたしは乗ってもいいの?」

「ええ、先ほどマウラさまから許可をいただいてます、ケガ人を乗せてもいいと。だけど少し困ったことに、目の色は写真と違うのです、なにがありましたか?」


 起きたら、片目の色が変わった。理由は世界樹しか知らない、先の翼もそう、体が世界樹に弄られたかもしれない。


「知らない」

「そうでしたか、魔力指紋も登録してませんし、身分の証明としては不十分です。本当に申し訳ないのですが、列車に乗るとき、これをつけてもらいたい」

「手錠?」

「はい、これをつけば、魔法が使えなくなるのですが、いいでしょうか? 街に着くと、外すのでご安心を」


 この手錠、周りの魔力を吸い込んでいる。

 魔法少女になったから、空を飛んでいくのほうが早いが……列車を乗ってみたいし。それに、この手錠だけで、魔法が使えなくなるとは思えないし。


「いいよ」

「ご協力感謝します。街に着くあと、役所で身分証明書を更新してください」


 身分証明書の更新……時間かかりそうだ、行きたくないけど、仕方ない。


 他の騎士と白衣を着た人たちに合流した。


「えっと、負傷者は……その子?」

「そうですが、ケガはなさそうです」

「え?」


 金髪の隊長さんはしばらく状況を説明していた。


 肉ブロックになった狼、どうしようか?


「ねぇ、その狼食べられるの?」

「えっと……これは、ロックウルフですかね? おすすめできないですね、狼タイプの魔物はすごい味がするらしいから」


 白衣を着た女の人が教えてくれた。


「魔石はあるはずですが、よかったら私に譲ってもらえませんか? ちょうど私の友達が欲しがっているので」

「いいよ、空っぽになったけど」

「え……? 空っぽとしても頂きたい、ありがとうございます」


 わたしが持っていても意味ないし。


「……あの、お金を振り込みたいので、端末を出してもらえますか?」

「これ?」

「はい」


 お金もらうつもりはないが、まぁいいか。

 彼女は自分のスマホを持って、わたしのスマホと重ね合わせると、お金が振り込んだ。


「はい、ありがとうございます」

「うん」


 どうやらこの世界にも銀行があるらしい。

 スマホの画面に残金が表示されているが、これは多いなのか、少ないなのかは分からないけど、すごく大きいな数字だった。


 そのあと、列車が止まった場所に着いた。

 その列車は日本の電車よりニ倍大きいが、付随車の数が少ない。列車が通ったのせいで、後ろのレールの周りにあった草は刈られるようにいなくなった。


「あ、あの、千愛ちあきさまはどうして森にいるのですか?」

「ん?」


 先の栗色髪の騎士だった。


「転移魔法陣を使うときミスしちゃった」


 そもそも転移魔法陣を作った人は、どうして注意事項を書かないのか? 転移中、体を動かないでください、とか。


「えっ? 転移魔法って……」

「凄いですね、転移魔法まで使えるなんて。あっ、千愛ちあきさま。私のことは覚えないかもしれませんが、王城が魔族に侵攻されたときは、本当にありがとうございました。千愛ちあきさまがいなかったら、おそらく我らはとっくにこの世にいないかもしれません」


 金髪の騎士……見覚えがない。それに王城で……? そんなことあったっけ?


「そう、ついでだから、気にしないで」


 きっと、世界樹の任務を遂行したとき、彼女を助けたんだろう。


「しかし隊長。千愛ちあきさまは魔力がないじゃないですか? それに、魔族の侵攻って」

「ええ、確かにあのとき、モーリーさんはまだ騎士団にいませんでしたか。王城で魔王を討伐したのは千愛ちあきさまですよ、みんな信じないですけどね。あのときの千愛ちあきさまからも、魔力が感じませんよ」

「そうだったんですか……。あはは、そういえば、先のあれを見ったら、誰も信じますよ、きっと」


 栗色髪の騎士さんはわたしのこと知っていたような……もしかしてわたし、結構有名人? おじいちゃんが偉いだから?


 列車の入口に着いたあと、金髪の隊長さんは手錠を取り出した。


「では千愛ちあきさま。手を出してください」

「貸して」

「え?」

「自分でつけるから、貸して」

「あ、はい、どうぞ」


 手錠を取って、【サイコキネシス】で自分につけた。


「って! 魔法使えるじゃないですか! あれを触ったら魔法使えなくなるはずですよね! 大丈夫ですか、これ!」

「ま、まぁ、これは形式のようなものなので、きっと大丈夫……なはずです」

「それに、空間魔法じゃないですか!」


 そして、わたしは列車の中に入った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る