アイテムボックス? 猫のぬいぐるみ? 違う、暴食の魔王だよ

 やはりそうだ、朝の風呂はいちばん頭が冴えてる。この時間で、考えことをするのは好きだ。

 こんなに気楽にお風呂に入れるのはなん年ぶりだろう……いや、三か月だけだったか。ほぼ毎日入るけど……あきのほう。

 メイドたちはわたしの髪を下ろした、銀髪は膝まで届いてる。


 わたしはなんだか気力がない。家に帰ったら、しばらく休もう。


 わたしのマンションが転移されたのか? 魂もこの体に入ったし、どう考えてもあの礼拝堂に起きたことがおかしい、いのりを見えたし、彼女も転移されたのか?


 自分がいのりを呼んだあのとき、あきの魂は既にこの体に入った。なにせ、自分がそのときあきとしての記憶があったから。あのとき、魂がまだ一つになってない。

 だけど、あの転移魔法陣をいじったのはどちらのわたしでもない……分からない。まぁいいか。


 こんな魔力が溢れてるのに、瘴気がない場所に連れてくれたし、家族も守ったし。ここまで助けてもらって、世界樹の目的はなに?

 世界樹はなにがしたいのか分からないが、言ってくれたら、手を貸しでもいいと思う。


『いりません』

『そう』


 本当に魔力だけでいいのか? 神剣中にある魔力は代償としてほぼ使え切ったけど、悪魔なら、それ以上の代償を求めるのに、なにがしたいのか分からないから、逆に不安だ。まぁいいか。

 それにしても、今のわたしはなんだか気分がいい……カフェインのせい……。


 ここは浴室と言いより大浴場を貸し切りにしてるのようだ。目の前に、曇りのないガラスの向こうに小さいな森が広がってる。


 大きいな大理石浴槽の縁に頭を載せて、白く透き通った細い手足を伸ばす。長い間に寝てたにも拘らず、二本の脚は健康そうにバランスよく肉が付いている。

 この前、確かめる暇はないが、自分の胸は前より少し大きくなった。

 手で確かめると、ちょうど手のひらの中に収める。

 ずっとこのままでいいのに……。


 お風呂を堪能したあと、体がメイドたちに静かに手入れされていた、ちょっと良い感じ。このあと、メイドたちは、この前、いや、だいぶ前にわたしが着てた着物を着付けてもらった。今は髪を弄られている。


千愛ちあきさま。これを」

「うん」


 わたしのスマホだ。王城を出る前に壊れたが、もう直ったぽい。

 ん? 榊原さかきはら舞依まいからのメッセージ……舞依まいからだ。


『わらわの連絡先入れておいたんじゃぞ』


 チャットからみんなのメッセージがたくさん来てた。


『もうすぐ帰るよ』と家族グループのチャットでポチっと送信。どうせすぐ返すわけがないだろうし、スマホをしまっとこう。


『えっ?』


 返した、知らない人だ、しかもびっくりしてる絵文字が付いていた。それほどの時間が過ぎたから、家族が増えたのか。


 髪がツーサイドアップにされた。


 そうだね、わたしは時代の濁流だくりゅうに流されていたに違いない、わたしはもうおばあちゃんになったのでは?


 そのとき突然、扉が開かれて、お姉ちゃんが開いた扉から飛び出した。


「ダメ! まだみんなに教えちゃダメ!」


 お姉ちゃんが素早くわたしからスマホを奪った。


「返して、チャットをしてるところだった」


 お姉ちゃんがスマホを両手で頭の上に挙げた。わたしが手を伸ばしても届かない。


「うん、まだセーフ。見たのはまだ一人だった。はい、アキちゃん」

「メッセージが削除された、なにしてる?」

「久しぶりに帰るから、みんなにサプライズをしたいの」


 そういえば、お姉ちゃんがそういうのは好きだった。


「そう、なら仕方ない」

「付き合いさせてごめんね、アキちゃん」

「いいや、いいけど」

「……アキちゃん! かわいい! 凄く似合ってるよ」

「うん」


 あとは、いのりはもちろん、スマホとノートパソコン、あとティラミスも連れて行かないと。


「お姉ちゃん、わたしはいったんマンションに戻るね」

「うん、私も行くよ、ほら乗って」


 お姉ちゃんが屈むと、わたしはその背中に乗った。

 別に歩くに行くでもいいけど、舞依まいが急いてるようだし。

 この前、わたしはお姉ちゃんの足が速いことを改めて思い知った。間違いなく人間ができるレベルを超えている、しかもわたしに気を使って、揺れないようにしていた。


「よーし、行くよ」



 ※



 自分の部屋に戻った。ここは主人の部屋、どうせ誰も使わないから、わたしの部屋にした。部屋が余ってるから、たまに黒宮くろみやさんたちが泊まってくる。


 先ずはいのりを連れて行かないと。

 魔力の糸を、なにもない壁を通り抜けて、中の術式を触ると。壁が格子状になってから消えた。


「付いてくるの?」

「え? 付いて行っちゃダメなの?」

「いいや、いいけど」


 わたしはベッドに置いてた猫のぬいぐるみを持って、魔法の糸でウエストバッグのように腰に固定する。

 そのあと、お姉ちゃんと一緒に先の部屋に入った。


「猫のぬいぐるみだ。かわいい」

「ティラミスって言うんだよ」

「へぇ~、ティラちゃんか。名前もかわいい」


 ここは十畳ほど広さがある隠れ家、わたしの部屋にある壁は唯一の出入り口だ。

 さらに奥にあるドアを開けて部屋の中に入った。その中に、人が入れるような大きさのカプセルが等間隔に三つ並んでいる。


 寝てる、いのりがその中に休止状態で眠ってる。自分の体に戻ったのか、戻ることを嫌がってるのに……。

 ん? 髪の色が変わた。元々黒だったのに、紫になった。


 記録を見ると、どうやらいのりは体の遺伝情報を弄った。

 いのり隣のカプセルは一週前までに使ってた記録が画面から見えた、それを使ったのはお姉ちゃんだった。


「お姉ちゃん。これ、使ったの?」

「うん、使ったよ。アキちゃんはしばらく起きないから、聖域せいいきから出られないって言ったのはアキちゃんでしょう、忘れたの? それで、お姉さまがこれを使ったほうがいいって」

「ふむ」


 言った覚えはない。


「あっ、お姉さまはこの子のことだよ」


 お姉さまはいのりのことだった、薄々気づいているけど。いのりがお姉ちゃんのお姉さまか……いのりはまだ十一歳だけど。


 いのりなら壁をすり抜けるから、術式を触れるし、カプセルの使い方も知ってる。タイマーをセットするのもいのりだったはず。しかし、わたしがいつ起きるのは知らないはず。知ってるのはおそらく世界樹だけ、まさか世界樹が教えたのか?


『サービスです』

『……ありがとう?』


 どうやら体が勝手に動くのは世界樹の仕業たっだ。


「アキちゃん。お姉さまと知り合い? お姉さまはアキちゃんのこと知ってるらしいよ」

いのりは妹だよ」

「え?」


 いのりもそろそろ起きそうだ。カプセルはいのりを起こしてるが、まだ時間かかりそう。個体差があるから、お姉ちゃんが先に起きた。

 あるね、カプセルの電池残量はまだ持ちそう。


 腰にいるティラミスをカプセルに向かって投げた。ティラミスはその飛んでる途中で口を開けてカプセルを丸呑みした。


「えぇぇ!」


 ティラミスに繋がる魔力の糸を引っ張って、手に戻る。


いのりゲット。どうしたの、お姉ちゃん?」

「お、お姉さまが食べられちゃった……」

「取り出せるよ。ほら」


 ティラミスの口から、カプセルを吐き出した。


「ああっ! ティラちゃんがアイテムボックスか。びっくりしたよ」


 似てるが、違うけどね。

 またカプセルを食べさせた。

 そのあと、あきのスマホとラップトップをティラミスに食べさせた。


「それで、召喚されたばかりのお姉さまが、どうしてアキちゃんの妹になったの?」


 召喚? いのりが魔神?

 あきいのりと一緒に召喚されたのか?

 同化始めるのは礼拝堂入ったから、それならあきの魂が礼拝堂にいた可能性が高い。だけど霊体になったとしても、記憶は残るはず……なのに霊体として、礼拝堂にいた記憶がない。分からない。


「元々いのりは妹だよ。いのりのお兄ちゃんの魂と同化したから」

「え? 待って、情報量が多すぎる……アキちゃんはアキちゃんじゃなくなったの?」

「わたしはわたしだよ? 舞依まいが待ってるから、行こう」

「え……? アキちゃん、待って、アイテムボックスがあるなら、二階の本も連れてってもいい? まだ読み終わってない本があるの」


 お姉ちゃん、二階のマンガや小説を読んだのか。


「読みたい本があるなら、全部連れてってもいいよ」

「えへへ、ありがとう」


 いのりは魔神……いのりが暴走するのか? お母さんみたいになるのか?



 ※



 そのあと、お姉ちゃんと一緒に舞依まいの屋敷に戻った。

 舞依まいは前のスカート付きの着物に着替えて、髪もわたしと同じツーサイドアップしてる。


「遅いぞ」

「あはは、ごめんね……あっ! 舞依まいさま、アキちゃんと同じ髪型してる、いいな~」


 お姉ちゃんとの話と本の選びは時間がかかりすぎた。


「ほれ、そろそろ出発するぞ、忘れ物がいないか?」

「ないよ」

「では行くぞ」


 また転移魔法陣の部屋に着いた。


「王城へ転移する」


 出かけるよ、いのり、お母さん。


 床に魔法陣が現れたあと、わたしたちは世界から離れていく。






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