転移魔法

 魔法陣がある部屋に行く途中で、マイとお姉ちゃんがいろいろ教えてくれた。どうやらわたしは二十年以上寝ていたらしい。お姉ちゃんも一週前に起きたらしい。

 意外ではない、起きたとき、自分の魔力が増えたことを気づいた、増えた量から考えれば、わたしがどれくらいここで寝ているのは分かる。


「あのね、アキちゃんと一緒に転移したら、あの家の中にいたの。アキちゃんは二十年ほど寝るって言ったら、ベッドに入ったあと、呼んでも起きないよ。心配したんだからね」


 わたし、そんなこと言ったっけ?


すみれがあの変な家を教えるまでは、その存在すら気づかなかったぞ。わらわすら騙されるとは、見事な隠蔽いんぺい魔法だったのう。千愛ちあきが起きないのは神剣を使ったのせいかもしれん、あのとき、魂がごちゃごちゃだったからな」


 神剣のせいで、わたしが長時間寝てたのか?


 もう二十年以上過ぎたが、きっとみんなが年を取ったんだろうね。

 マイとお姉ちゃんが若いままだけど……どういうこと? わたしもそうだけど。


「着いたぞ」


 わたしたち着いたのは、外に繋がりやすい場所だった。この前礼拝堂の奥に、なにもない部屋に繋がっている。


「どうだ? なにか感じることあるか?」

「……? なにか?」


 出口のこと?


「そうか……」


 マイは項垂れて、肩を落とした。


「よしよし」

「へっ? えっ? なんだ? また頭を撫でたりして、千愛ちあきの妹ではないのじゃぞ」

「いや、なんとなく」

「ああ……」


 お姉ちゃんが羨ましいそうにこっちを見てる。

 お姉ちゃんも頭を撫でられたいのか? お姉ちゃんのことをいったん放っておこう。

 マイはわたしに、転移魔法陣を操作してもらいたいかもしれない。


「それで結局、わたしになにかしてもらいたい?」

「ああ、そうじゃな。実はこの魔法陣は魔族の侵攻少し前から壊れておったのじゃ、ご主人の魂を籠もった神剣を使った千愛なら、魔法陣に反応すると思ったのだが、どうやら無理だったか。仕方がない、自分で直すしかないか」

「国のことは心配いらないって言ったのに、もう。過激派の魔王たちはもういなくなったよ、あとはおじいちゃんたちに任せればいいのに」

「それもそうなのだが……」


 魔王か……。戦争からみんな家族を守った……なのに、喜びは一瞬だけだった、今こころに残ったのは疲労ひろうしかない。


みんな家族のことならきっと大丈夫だよ、わたしが神剣を取ったのも、そのためだから」


 世界樹もそう言ってたんだから、きっと大丈夫だ。でないと……ねぇ?


『ひぃ!?』


 あれ? 世界樹が怖がっている、やっぱり前と違う。わたし、怖くないよ。


「アキちゃん……頑張ったんだね」


 戦争中に、お姉ちゃんはわたしがしたこと分からないはず、わたしの噂でも聞いたんだろうか。


「別に」


 頭が撫でられた。


「ねぇ、マイは国に帰りたいの?」

「うむ、そういうことなのじゃ。しかし無理ならそれでもよい、時間かかるが、わらわが直せるからな、あと少しじゃ、心配せんでもよい」

「じゃあ、みんなで一緒に帰ろう」

「ああ、そうじゃな、一緒に帰ろう」


 ずっとここにいてもいいけど、二十年あとのみんなが気になる、心配されているのかな? 顔を出すが必要だが、もう二十年以上過ぎたし、少し待たせるのもいいと思うが……。


「あれ? おかしいな。お姉さまがアキちゃんなら直せるって言ったんのに……」


 お姉ちゃんのお姉さま? 誰?


「あ、直った」

「え?」

「へ? 直ったって、なにかが? まさか……」


 マイがわたしにこの転移魔法陣を直したいと知ったときから、魔法陣を直せるかどうかを試してみた。


「操作パネルが出た……転移魔法陣が稼働しておる」


 マイは先出てきて、宙に浮く透明な青いパネルを器用に叩いている。


「これはね、元々魔力の流れを無理やり変更されたんだから、壊れたんだよ。霊脈から膨大な魔力が直接にこの魔法陣に流れ込んでるから、魔力の流れ止めないまま流れを変更したら、魔術回路がダメになるよ」


 本当は転移魔法陣の術式を読んでも、分からない部分が多い、まるで別の新しい言語を読んでる気分だ。お母さんが教えてくれた術式の系統に似ている部分があるから、ある程度解読できる。

 それに、マイに直られた部分もあるし、この壊れ方見覚えがあるから、あとはおかしいな部分を直すだけ。とは言え、もう直す直前だけどね。


「凄い~、本当に直したんだ」

「どうやって直したのか、千愛ちあき? 魔道具がないと、魔法陣の仕組みすら見えないのだぞ。それに、千愛ちあきが直してるふりすらないのだが……神剣の仕業が、しかし……」


 魔道具?


「見えないの? 魔力で直したよ」

「魔力で?」


 どうやらマイは魔力を見えないらしい、教えたらできるかな?


「まぁよい、すみれ千愛ちあき。これで、わらわたちここから出られるぞ! 千愛ちあきのおかげなのじゃ、ありがとう」


 ここから出るには、転移魔法陣は必要ないけど、穴を開ければいいだけどね。


「よし、王城に行くぞ」

「え?」


 礼拝堂に転移するじゃないのか?

 礼拝堂と繋がってるから、礼拝堂に転移するのは分かったが、王城って……これは本当にどこでも転移できる術式というのか! 霊脈からの魔力供給あるとはいえ、魔力が足りないはずだ。わたしの転移魔法の術式と違うのか? それなら、その魔法を見てみたいものだ。

 そういえば、王城ってどこだっけ?


「待って、マイさま。焦り過ぎだよ」

「なんじゃ? すみれは外に出たいではないのか?」

「まだいろいろと準備してないよ、せめて着替えからして……ほら、アキちゃんってっ! もの凄く嫌な顔してるよ!」


 授業のこと思い出した……。

 ティアお母さまの授業を休みたい。帰ったら、また授業か……世界史はもう嫌だ。


「どうしたの、アキちゃん?」

「わたし、世界史の授業が嫌い」

「あ、そうか。授業か。よーし、お姉ちゃんに任せて。ティアラさんを説得するから」

「本当に?」

「うん! 任せて。かわいい妹のためなら、なんでもするから!」

「うん、任せた」


 一応家族と会わないとね。お姉ちゃんはティアお母さまを説得するし……できるかな? わたしはもう昔と違う、失敗したら逃げればいい。


「ああ、そうだ、千愛ちあきの着物はまだ返しておらんかった。せっかくの機会じゃ、うちで湯浴みしてみないか?」


 湯浴み……。


「お風呂……」


 ようやくお風呂に入れる。






 

 

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