刺される

「刺された……」


 神剣に刺された。

 痛っ……くなかったが、違和感がある。

 胸のところにある神剣を触ってみたら、硬い棒状ようなものがあった。それを取ってから、違和感がなくなった。


 柔らかい……ベッド、真っ白な天井。

 夢か……昔の夢。


 手にある硬い棒を見る、白いステッキだった。


「眠い……寝よう、これ邪魔」


 ぽい~。


 ちょうどそのとき、ドアが開かれた。


「あたいっ! あ、頭が……」

「ん?」


 それって……明音あかねのおもちゃじゃない? 確か、魔法少女のステッキ、先のステッキにちょっと似てる気がする……。


「はぁ!」


 わたしは一気に上半身を起こした。

 思いっきり投げでしまった、壊れてないよね……? 【偽神の目】でも見つからない、どこに落とした?


『不要だと判断して、戻りました。取り出しますか?』

『おはよう』

『おはようございます。アステルライブラを出しますか?』

『なにそれ?』

『神剣を進化させて、アステルライブラになりました』

『先のは神剣? それなら自分で出せるけど』

『……』


 ちょっと落ち込んでるぽい。まぁいい、必要なとき、出せてくれるのはありがたい。


『今はいい、必要なとき出して』

『はい』


 神剣がステッキになったらしい。剣が使えないわたしなら、ステッキってちょうどいい、持ちやすいし……。いや、もう手で持ち必要はないか。


『君、誰?』


 いつもの声と違う。


『……世界樹です』

『そう』


 まぁいいか。


「あ、アキちゃん。もう起きたんだ、おはよう」

「おはよう、すみれお姉ちゃん。頭、大丈夫?」

「びっくりするけど、大丈夫だよ。お姉ちゃん、頑丈なんだから」

「そう」


 ワンピースを着てるお姉ちゃんは、あどけなさ残った顔に、猫のように輝いた赤いな目を見開いている。少しだけ起伏がある胸を張って、柔らかいそうな腕でその胸を叩いた。大丈夫だとアピールしている。


 腰まであるくせのないピンク色な髪を下ろしていた。

 どうやら起きたばかりなようだ。


「お腹すいてない? 朝ご飯食べる?」

「うん」


 確かに冷蔵庫に黒宮くろみやさんの弁当があるはず、レンジで温めると食べられる。


「マイさまのメイドたちが朝ご飯準備してくれるよ、便利だね、死霊術って」

「うん……ん?」

「眠い? あとでお姉ちゃんがおんぶしよっか?」


 この家は自分の足で歩けないほど大きいじゃないし。


「……いや、いい」

「えぇ~、少しお姉ちゃんに甘えてもいいのに、もしかして照れてる?」

「違う」


 彼女はベッドに上がった。


「ふんふ~ん、照れちゃって、かっわいい」


 お姉ちゃんがわたしのほっぺを指でつんつんしてくる。

 ちょっとウザい。


「照れてない」

「うふふっ、水持てくるね~」


 彼女が部屋を出た。

 一気にガバッと、布団を舞い上げて、寝床から降りて部屋を暗くする帳幕を開ける。目に入るのは果てしない草原だった。

 ここはどこ?


聖域せいいきです』

『そうだった』


 世界樹に助けを求めると、魔力を要求される、要求する魔力の量はことによって違う。今回のように魔力が要求されない場合もある。


 それにしてもこの場所、霊脈より魔力濃度が高いのに、瘴気がない。


「アキちゃん」


 肩を叩かれて、振り向くとほっぺが指に刺された。


「むぅ」

「えへへ、水を持って来たよ」

「……うん、ありがとう」


 コップの水を空けたあと、コップを取ってキッチンに行こうと部屋のドアに向く。


「あっ、お姉ちゃんに任せて」

「あ、お姉ちゃん。食洗機の使い方分かる?」

「しょく、せんき?」

「付いてきて」


 わたしはお姉ちゃんと一緒にキッチンに着いた。

 この家でお姉ちゃんの姿を見えたのは初めてって気がする。この家にある電器の使い方が分かんないかもしれないと思った、どうやら知らなかった。

 こっちの文明とお姉ちゃんがいる世界の文明が、なんだか違う。本当に二つの世界があるのか。


「お! すっごい~! コップが洗われてる~」


 すみれお姉ちゃんは食洗機を止まるまでキラキラな目で見つめてはしゃいでる。

 ふふ、科学の力思い知るがいい。眠気を覚ますために、コーヒーを飲もう。

 コーヒーメーカーにコーヒー粉と水を入れて、電源プラグをコンセントに差し込む……。


「んっー」


 なんてことだっ! 届かない。


「あっ……」

「これを刺さればいいの?」

「うん」


 エスプレッソを作れようと設定すると、待つ。


「コーヒーの匂いがするね、この変な魔道具はコーヒー作ってるの?」

「うん」


 魔道具じゃないけど。そういえば、ここ、電気あるのか? 電気がないのに、食洗機が動いてる……。おかしい、電気に代わってこの空間の魔力を使ってる、これでは科学と言えないのでは……?


 コーヒーが出来上がった。

 サーバーを取り出して、コーヒーをコップに入れてから、少し砂糖を入れたら完成だ。

 それを一気に飲み干す。


「えっ! それだけじゃ足りないよ!」


 コーヒーの酸味に近い苦味のあと、コップの底部に残された甘いな結晶がコーヒーの渋さを連れ去る……のはずだった。その苦味はまだ口の中に残されている。


「うぇ……」


 子供の舌が原因か、それとも女の子になっただからか? どちらにせよ、次はミルクを入れて試してみよう。


「大丈夫?」

「ふむ、飲めないほどでもない」

「もう~、大人びちゃって、無理しちゃダメだよ」


 わたし、大人だけど。


「次はミルク入れようと思う」

「うん、それがいいよ」


 朝風呂……風呂場に行って、風呂を沸かすか。


「あっ! 朝ご飯のこと忘れてた、マイさまが待ってるから、早く行こう!」

「え? どこに?」

「隣の屋敷だよ」


 いつの間にか、視線が高くなった。


「え?」

「しゅっぱーつ!」


 家を出たら、広い田畑が見えた。田舎によく見える風景だった。

 お姉ちゃんが履物を履く、家を出たすぐに、わたしを背負たまま走り始めた。周りの景色が流星のように流れていく。

 眠い。このままでは寝てしまう、どうやらカフェインはまだ効いていない。お風呂か、また朝風呂に入れなかった。



 ※



 壊れた門を通り抜けて、体育館ほど大きな礼拝堂のような場所へ来た。


 礼拝堂の中にベンチがないが、代わりに幾つ四角石柱が並べていて、石柱に光ている大きな宝石が嵌まっていた。

 両側にポロポロなランセット窓、その奥に大きなステンドグラス嵌め込まれていた。そこから差し込む夕日の光によって、礼拝堂を赤く染めている。

 その赤くになったステンドグラスに絵が書いていた、聖職者せいしょくしゃのような格好にしてる男と女の子がかろうじて見える。


 膝まで伸び過ぎた髪とママから譲ってもらった着物に、生乾きの泥がこびり付いていた。

 ちらりと手にした神剣を見ると、白い剣身に彫られる不規則金色な模様が優しく光っている。


『魂の同化完了まで残り十分、完了までしばらく待ってください』


 抑揚のない少女の声が頭の中に響く。

 声の持ち主は自称世界樹の存在。世界樹はエルフの信仰対象だって、物知りのティアお母さまが言ってた。


 魂は人の心って、本から読んだことがある。心の同化……。


『わたしはどうなるのか? 消えちゃうの?』

『いえ、そのようなことがありません。同化するのは、あなた自身です』


 なにを言ってるが分からないが、もう信じると決めたから、彼女に任せた。自分のことはいい、みんなを守れば、それでいい。


 悪夢の中で突然頭に入ったあの声、最初は、信じていなかった。

 三か月前、いつも通りベッドに入ったら未来の夢を見えた。あの夢は現実だと思うほどリアル過ぎた。永遠に帰れない家族、壊滅する国。


 それに所詮しょせんは夢だ、本当に自称世界樹は存在するのか分からないし、だから夢のことを放っておいた。


 それから、魔族の侵攻が始まった。わたしと弟のジンがおじいちゃんの教会に預けられた、あの悪夢と同じように。


 わたしは神剣を抱いたまま、石柱を背にして座った。


『魂の器が限界に到達しまい、同化は一時的に停止しました。計画変更します』

『魂の器ってなに?』

『魂の容器です』


 体のことかな?


 自称世界樹の指示に従って行動してるけど、わたしやることが多すぎるのでは。おかしい、家族を助けるためのに、国まで救った気がする。国に入った悪い魔族を掃除するとか、国のためにドラゴンと交渉するとか、国の防衛戦までに出るとか。

 なにせよ、これで最後。魔神をなんとかできれば終わり。同化が終わったら、魔神をなんとかできるらしい。


「みんな慌てて探してるネズミちゃんは、ここでなにをしてるかしら?」


 落ち着き透き通る少女の声が礼拝堂の中に響く。


『魔神を止めるため、聖域せいいきに向かう。すみれを連れて矢印の方向に向かってください』

『え? 同化はもういいの?』

『いえ。聖域せいいきで続きます。同化をしなければ、魔神の暴走によって、周辺の国が消滅しょうめつする』


 魔神は一人で国を滅ぼすことができるらしい、放っておくと、家族全員生き残るが無理だって、自称世界樹が言ってた。


 矢印が礼拝堂の奥にある扉を指してる。あの扉から、ピンク髪をツーサイドアップして、黒いドレス着た少女が出てきた。その赤い目は、獲物を狙う猫のように鋭く、決して逃れないという意志が宿ってる。

 だけど、その人はわたしがよく知ってる人だった。


「お姉ちゃん……」


 攫われたお姉ちゃんだった。


「……えっ? 嘘っ! どうしてここにいるの?」


 すみれお姉ちゃんがわたしを気ついたあと、いつも通りのお姉ちゃんになった。

 お姉ちゃんが凄い勢いで走ってくる、そのまま、彼女に抱きつかれた。


「この匂い、間違いない。アキちゃんだ~」


 匂いで人を見分けのか? 君、犬か? ママもそうだけど。


「私に会いに来たの? お姉ちゃんうれしいよ~、一人で来たの?」

「うん、一人」

「えっ! 危ないよ。ごめんね、お姉ちゃんのために、危ないのことまでしちゃって。危ないことはもうしないってお姉ちゃんと約束して!」

「いいよ、これが終わったからね」

「もう~、今じゃなきゃダメだよ。でも、どうやってここに来たの?」

「ちょっとどいて」


 お姉ちゃんがようやく放してくれた。

 わたしは神剣を持ち直しから立ち上がった。


「これ、神剣があるから、大丈夫」

「えっ……? 噓……? それを使ったら、死んじゃう、アキちゃんが……」


 お姉ちゃんはこっちに見ているようで見ていない目をしてる、力のない声から焦りを聞こえる。

 そんなに危険なものなのか? これ。持ってると身体能力が上がるだけ、それ以外はなにも感じなかったけど。


「お姉ちゃん」


 なにかに魂を奪われたような顔してる。わたしの声は聞こえないようだ。

 わたしは手に握った神剣を放したあと、神剣を消した、神剣は自分の好きなときに出すことができるから。

 両手でお姉ちゃんのほっべをつまむ。


「痛い~」

「ずっと使ってるし、なにもなかったから、大丈夫と思う、たぶん……」


 自称世界樹に言われた通り神剣を使ったから平気、たぶん。

 お姉ちゃんはちゃんとこっち見てるから、そのほっべを放した。


「そう、なの? 先祖たちの言い伝えによると、神剣は使い手の魂を侵食する……、使うたびに感情が失え、最後は神剣の一部になっちゃうよ」

「なら大丈夫、そういう症状はない」

「本当に?」

「うん」


 わたしはお姉ちゃんの手をつないて、礼拝堂の奥に向かって行く。


「どこへ行くの? あれ? 神剣はいなくなった?」

「付いてきて、お姉ちゃん、いのり


 いのりって、誰?

 知らない名前が自分の口から出た。


『……なるほど、なるほど……』


 聞こえるような聞こえないような音が耳に届く。気のせい?


「えっ? お姉さま?」

「ん?」


 お姉ちゃんが誰もいない空間に話している。

 そのとき、複数の足音が入口から届いたあと、扉が乱暴に開けた。


「魔神さまっ! ご無事ですかっ!」

「……誰にもここに入るなって言ったでしょ」


 お姉ちゃんの声がいつもよりトーンを落とした。


「はっ! 申し訳ございませんっ! だが、侵入者が……」


 お姉ちゃんが魔神……。

 あ、魔族たちと目が合った。


「人間の侵入者だっ!」

「ち、違うっ! えっと、そう、彼女は私の妹。もう一人の魔神なの」

「えっ? 魔神が二人……」

「そうよ。それに、戦争はもう終わりよ、私は妹と共に帰るわ。君たちだって、戦争はとっくに終わったって気ついたでしょ。戦争なんてどうでもいいが、我々の負けだ、最初から勝てるはずないんですもの……。ほんと、愚かな魔王たちねぇ」

「……そう、でしたか。これから、我々はどうしたらいいでしょうか?」


 お姉ちゃんが首からペンダントを外した。


「城でいる他の人に戦争の終焉しゅうえんを伝えなさい。それと、これを持ってに教王国に行きなさい、あとのことは分かってるでしょう。嫌なら、どこがで戦争終わるまで隠れなさい」

「はいっ! すみれさま」

「かしこまりました。すみれさま」

「ふふっ、行きなさい」


 魔族たち出ていた。

 その様子だと、お姉ちゃんがその魔族たちに慕っているような……。


「その魔族たち、お姉ちゃんの配下なの?」

「ふっふっふ、ここ残ってるみんながお姉ちゃんの配下だよ」

「殴ったんだけど……」

「ま、まぁ、彼らは頑丈だから、きっと平気だよ」

「殴ったら、気絶した。ほら、扉の向こうに倒れてるよ」

「あはは……あの人たちは寝不足だよ、きっと」


 そこまで嘘ついて、意味あるの?


「そう」

「あのね、アキちゃん」


 お姉ちゃんが戸惑い顔してる。


「なに?」

「後ろの女の子見える?」


 わたしは後ろに振り向く、なにもなかった。


「うん、見えるよ。行こう」

「え? どこに?」


 それを言い出したのはわたし? なにもなかったのに。おかしい。

 お姉ちゃんの手を引いて、女の子ぽい部屋を通り抜けて、なにもない部屋に着いた。その女の子ぽい部屋はお姉ちゃん住んでる部屋らしい。


「その部屋は、私が来た前のままだったの。かわいいから、そのままにしたんだよ」


 さらに奥に行くと、なにもない部屋に着いた。


「アキちゃん。ここなにもない部屋だよ、なにするの?」

聖域せいいきに行くよ」

聖域せいいき?」

『転移魔法を起動し、聖域せいいきに行きましょう』


 転移魔法って、なに? 体が自分で動いた。

 目の前に青い透明なパネルが現れ、手が勝手に動いってそれを操作して、床に魔法陣が現れたあと、意識が朦朧としてきた。最後に闇の底に落ちた。



 




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