女の子になった

 コックをひねってトイレの水を流して、しばらく水の音がする。


 かわいいバッツだった……わたしは自分が女の子だったのことを気づいた。先まで自分のことを男だと思ったのに、どうやら違ったらしい。わたしはいつから女の子になった? いや、わたしは元々女の子だったのでは……?


 時間がたつほど記憶が深い沼の底から浮きあがってくる……。





 呪いじゃなかった。自分の記憶がおかしいのことが分かった。どうやら自分の中に二人の記憶があった。二つの魂が混ざって、一つになったかもしれない。

 記憶の断片はどちらからのものを完璧に区別くべつするのは無理がある。

 先から頭が重い。眠気がどんどん強くなっていく。


 もうどうでもいい、どっちでもわたしだし、わたしはわたし、それでいい。


 魂はこちに来たら、その体はもう抜け殻になったんだろう。もし悪用されたら……体から魂が抜けられたこと考えたこともなかった、準備不足。


 眠い、もうどうでもいい。わたしが死んだら、体は火葬にするっと、黒宮さんに頼んだ、なにも問題がなければいいけど。


 洗面室に行って栓を捻って、水流が手から流されていく、また栓を捻る。

 目の前にある鏡へ向くと、映ているのは雪のような銀色の二つ大きな団子がわたしの頭に乗っている。あどけない顔に、色白輝きに満ちた肌、パッチリした金色な瞳。

 この鏡で映ている自分はいつもより二十センチ以上背が低くなった。お団子ヘア……かわいい。

 頭が重いのはこれのせいか?


 王都から離れた三ヶ月前と変わらない、右目を除いて。右目だけが赤色になった。


 これで明音あかねの仲間入りだな、だったらあれをやってみるか、眠気が覚めるかもしれない。ごっこ遊びの練習をしよう。

 わたしは苦しそうに右手で右目を抑える。


「ぐっ……疼くな。とうとう抑えきれないのか、この力……」


 いつも思うけど、これ……おもしろいか? 気のせいじゃければ、眠気が少し弱まったかもしれない。


千愛ちあき!」


 見られた。

 足音で、マイが後ろにいることは分かっている。別に見せられないものでもないし、だから止めていなかった。

 二階のゲーム部屋に行かないの? 遠慮しているのか?


「なに?」


 首を回して振り返って見ると、マイは心配そうにわたしを見ている。


「大丈夫か? 頭痛いのか?」


 妹に頭大丈夫って心配された。なんてことだ、これは中二病ごっこだよ、察しが悪い。

 昔からあの姉妹たちに演技が下手って言われ続けたけど、これはどう見ても本気で心配されているぽい。

 ちょっと傷つくから、止めればよかったと少し思い始めた。


「いや、別に……ぐぅ」

「どうした! やはり魔力暴走しそうなのか?」


 自分の魂に接触しようとしたものを感じたんだけど、抵抗する気はなかった。この感覚は懐かしい。


『……接続成功しました』


 頭の中に響く機械的に感情が含まれていない少女の声だった。

 この声、懐かしい。《パラディ》のサポートエーアイAIの声に似ている。


「神剣を使ったであろう、魂はまだ安定したばかりだからな」

「大丈夫だから」

「無理するな。しばらく休めるべきなのじゃ」


 完全に病人だと思われた。

 神剣? ごっこ遊びか? いや、確かにわたしは神剣使ったことがある。神に創られたものでもないのに、本当にナンセンスだな。


 マイは千愛ちあきのほうのわたしが神剣を使ったことを知っている? マイは千愛の知り合いだったか。


「エリカ、いるか?」

「はい、マイさま」


 突然マイの前に一人のメイドが現れた。彼女はフリルエプロン付きのワンピースを着てる

 目鼻立ちのきりっとした美人に青いな目、色白だが輝くない肌。頭の後ろで上品にハーフアップした金色なセミロング。


 転移魔法か? 凄い、夢か? ここは。わたしにはこの魔法を使うほど魔力の余裕がないのに。

 頭が重くてまわらない。


「千愛を部屋に運べ」


 部屋に運ばれそう、いいけど。その心配するような顔、彼女の言うこと聞くしかなかったじゃないか。まぁ、今さらあれは中二病ごっことは言えない、言ったら怒られそう。それに、そうする気力もなかった。

 マイは中二病じゃないの? 一人じゃないのか。まぁ、いいか。


「かしこまりました。では千愛ちあきさま、失礼いたします」


 エリカがもうちょっとわたしに触れるとき。

 スッ。

 反射的にその手を避けた。


「こらぁ、なぜ避けるのだぁ!」

「癖、だから?」

「そ、そうなのか?」


 思えば、高校のとき、これのせいで変な目で見られていた。気にしてないけど。


「大丈夫、自分で抑えれる、からっ」


 わたしは両手を開いて、目をつぶった。


「さぁ、どんとこ~い」

「ほんとに大丈夫なのか? ちょっと震えておるではないか」


 触られると思うと、体がムズムズしている。


「だいっ、じょうぶっ」

「……まあよい、エリカ」

「はい、では失礼いたします」


 ほらね、大丈夫だよ。

 繊細な両腕にふんわり抱きかかえられて、枕に頭を預けた。柔らかく膨れ上がった胸から心臓の鼓動がなかった。

 【偽神の目】で見れば分かる、やはり冷たいが、シャンプーのいい匂いと冷たさに包まれていて、やかって体温が伝わって、ぽかぽかの寝床ねどこに変わっていく。

 先から、マイの声を聞こえるだけど、もう頭に入ってこない。


「……千愛、眠いのか?」

「……うん」

「ゆっくり眠ってよいのじゃぞ」


 ダメだ、まだ朝風呂が……無理、この胸が離してくれないんだ。

 【サイコキネシス】で壁を通り抜けて、給湯器リモコンのスイッチを押して電源を切た。


 よくここまで頑張ったな、わたし。

 やるべきことをやり尽くしたように、眠気に逆らわず、軽く目を閉じた。






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