お父さんの隠し子

「ふわぁ……んっ」


 上半身を起こして、目をこすり。


 わたしは寝ていた? ゲームは? 頭が重い。

 やっぱり最近体の調子がおかしい、徐々に悪化しているけど、お父さんがいないと、どうしようもない。


 手で抱いてるぽっちゃりする黒猫のぬいぐるみを、両手でぬいぐるみの顔を向けるように持ち直した。


「おはよう」


 ん? 返事がない。


 枕の隣にベッドに落ちたVR機器が転っている。

 約束守れなかった、今まで約束を破ったこと一度もないっていうのに。謝ろう。


 背なかから見えない糸のような魔力を伸ばして、脇机上からスマホを掴むとカーテンを開ける。


【サイコキネシス】


 魔力の糸を操作して、猫耳が付いたスマホを浮かせ来てから右手で掴んだ、重い分厚いカーテンが開けられた。


 窓越しに差し込んでくる日射しは薄暗い部屋を一気に神聖な日の色に染まって、暗闇の居場所がなくなった。

 それなのに、悲鳴がない。


 右手にあるスマホを右手の親指で画面を触れ、指紋認証センサーに押せる……届かない。

 スマホを掴んだまま別の親指で押せる。


『指紋認証に失敗しました……』

「ん?」


『指紋認証に失敗しました……』


 なん回も失敗してから諦めた。指先をスライドさせる、パスワードをポチポチと入力する。

 もう水曜日。ニ日間寝ちゃった。原因は分からないが、体はもう限界かも。 


 肩の部分がスースーする、寝巻きが崩れた。

 Tシャツと短パン着ているはずなのに、浴衣のような寝間着に着替えられた。着崩れを直し方法が分からないから、雑に直した。それても、結構きれいに直した。


 黒宮くろみや姉妹からのメッセージがいっぱいきた。彼女たちは楽しみにしていたなのに。とりあえず謝りに電話をかけよう。


 電話が繋がらない。今は授業中か。メッセージを送ろう……。

 ポチっと送信から、スマホを脇机上に戻した。ガバッと布団を引っ剥がしてベッドから降りる。


「ん……?」


 周りのものはいつもより大きく見える。それよりも、目がはっきり見える。


 もう治った? 自分の目でハッキリ見えるのは久しぶりだ。目より優秀ながあるから、自分の目を使う場合は少ない。


 魔力異常なし、まさかニ日寝ただけで治った? しかし、起きたからずっと睡眠不足のように、頭がぼんやりしている。

 口の中に唾が全くなくなって喉が痛い、体は水分がほしいことが分かる。


 わたしは部屋を出た。


 広い家の中に、カーテンは微風で不規則に揺れている声が聞こえる。それ以外は自分の足音だけだった。

 いや、聞こえる、やかましいほどに小鳥の明るい鳴く声が聞こえる。

 動物はわたしに近づけないのに、なぜ?


 キッチンに着いた。


 わたしの冷蔵庫がいつのまにが、黒宮くろみやたちのものになっている。彼女たちが来る度に、冷蔵庫の中身は増える。


 冷蔵庫の中に甘口の緑茶を取り出す。ひんやりした感触がペットボトルから伝わってくる。中身を一気に飲み干すと、喉の痛みが鎮められる。

 甘い、喉が満たされて心地よさを感じる。


 風呂場に行って、いつものようにお風呂を沸かす。

 このあと、ふらふらと部屋に戻った。


 窓際に差し込んでくる太陽の光に照らされて目を細めた。

 日光を浴びるにもかかわらず、眠い。

 

いのり、いる……? ん?」


 自分の喉から妙に幼く、甘えた声を出した。

 これはわたしの声? 確かに自分の聞き慣れた声だけど、どこかでおかしい。


 だけど、分かったことがあった……体が縮んでいた、視点がいつもより低いしだから。

 なにこれ、呪い?


 ベッドにある黒猫のぬいぐるみを両手で持ち上げる。手にした黒猫は首が見えないほど太っている、手足も短い、抱き枕としてはぴったりだ。

 いのりはいない。いるならわたしが起きたから、すぐに挨拶してくるはず。黒猫から出たのは初めてだな、どこに行った?


 困った。やることがない。ここでお風呂を沸かすまで待っていればいいかな。それに、周り魔力があった、しかも多い。魔力は大抵霊脈にしかいないはずなのに。まぁいいか、これで狩りの必要もなくなった。


 わたしは黒猫をベッドに戻して、ベットに座ってから、しばらくぼーっとしていた。


 突然、部屋ドアの向こうから足音が聞こえる、ドアの前で止まった。


 がちゃり


「起きたか?」


 ドアが少しだけ開かれて、一人の少女がドアで半身隠しつつ部屋を覗き込む。


「お、やっと起きた。おはよう」

「おはよう……?」


 挨拶あと、ドアが開かれて、少女がドアを通り抜けて、白いと黒いベースミニスカートの着物を着た少女がてくてくとこっちに歩いてくる。膝まてあるくすんだ金色の髪は歩きながら揺れている。


 誰? 黒宮くろみやさんはうちのキーカードを持っているから、黒宮くろみやさんの知り合いか?


 幼な顔に、縮んだわたしよりも少し低い身長。スカートの下にはフリル付きサイハイソックスが見える。

 明音あかねの友達? 同じコスプレ好きだし、年も近いだし。まだ中学生っぽいだけど、まだ小学生にも見える。学校は行かないのか?


「ここでなにしてる? 学校、サボる?」

「む、なにを言ってるのだ? 寝ばけてるのか? まぁよい、久しぶりじゃな、チアキ」

「……?」


 咄嗟に誰を呼んでいるだろうと思えば、榊原さかきはら千愛ちあき、わたしの名前だった。だけど、なにかがずれているような、釈然としない。

 久しぶりにその名前で呼ばれた。最後はいつだっけ? 思えば、王都を出てから、その名前に呼ばれることはない。


 ……ん? ものすごい違和感……記憶のどこがずれている……?

 あ、違和感の正体は分かった。この家にいるとき、誰もわたしを千愛ちあきと呼ばないから?


「どうかしたか? ぼーっとしていて」

「……誰?」

「ん? わらわのこと覚えておらんのか?」

「知らない」


 記憶力に自信がある。それでも、この子に会った覚えはない。


 口調から見れば中二病っぽい。休日でもないし、学校に行かない事情でもあるだろうね。

 明音あかねと同じく中二病だし、二人はいい友達になりそうだ。


明音あかねの友達?」

「違うと思うぞ……どうやら本当に忘れておったじゃな」


 彼女は苦笑しならか否定した。


「まあ、会ったのは一度だけ、覚えていないのも無理はない。わらわの名前は榊原さかきはらマイ、思い出せるか? 初代教皇の盟友に仕える巫女と言えば、分かるであろう」


 マイは腕を組んで、平らそうな胸を少し反らした。


 そう言われても分からないだよ。

 ん? 苗字はわたしと同じ、イケメンのお父さん失踪中だし、お母さんは亡くなったし。もしかして、お父さんの隠し子? 


「どうした? 驚きすぎて言葉も出ないのか?」


 マイは少ししゃがんで、頭を傾げて赤色の目でわたしの顔を覗き込んむ。


「お父さんは?」

「えっ……すまぬ、わらわも分からないのじゃ」


 彼女がしょんぼりと肩を落としている。


「そう」


 いつものことだし、別に期待しなかった。

 その目、よく見れば、お父さんと似ている気がする。それなら家のカードキーを持っていてもあり得る。

 とはいえ、やはり会ったこと覚えはない、マイはどこでわたしに会ったんだろう?


 魔力を通してこの家を探してみる。


 【偽神の目】


 お父さんが家にいない、いのりのほうは見つけたけど。なにしに行ったのか、あの部屋に。


 窓の向こうには……緑したたる大地だった。風が吹き渡り、茂り放題に茂ってる緑の草はそれを合わせて揺れながら、カサカサと響き渡っている。

 植物が生きている……。


 おかしい、ここは七階だったはず。この光景こうけいが、まるで地面にいるだと思われる。それに、家の近くにこの風景ふうけいは見えないはず……。


「……君、一人?」

「ん? ふむ、確かにわらわは一人でこの家に来たんじゃが……どうかしたか?」


 マイは頭の上に疑問符が浮かべるように首を傾げる。

 なんてことだ。うちのお父さんはなにをしているのか。未成年の娘をぽいと、うちに捨てるなんて……一人になって、寂しいや不安はあるだろうに。


「お父さんは忙しから。大丈夫、マイの世話をするからね」


 そう言いながら、手を伸ばして彼女の頭を撫でる。


「よしよし、よく頑張ったね」

「……ほえ?」


 そう、妹を守らなくてはいけない、お父さんに頼まれたから。


 先から下腹部に重苦しいものに押しつけてって、下腹部の筋肉が締めつけている。

 先まで平気だったなのに、今は気を抜けば、なにか出そうだ。


「あ、あの……」


 マイから離れて、ベッドから降りる。


「ちょっとトイレ行ってくるね~」

「えっ……あ、うむ」


 トイレに向かって歩き出す。

 子供相手になにをすればいいだっけ? マンガやゲーム機をあげれば、自分一人で楽しめるから、そうすればいいのでは?

 ドアの前止まって、首を回して振り返る。


「二階に上るあと、右の部屋にマンがやゲーム機があるから、好きに楽しめるがいい」


「……へっ?」


 マイが口を半開きにして立ちすくんでる。

 なにしてる? まぁいいか。


 このあと、わたしはゆっくりとトイレに向かって部屋を出た。

 膀胱がヤバいとはいえ、こんな程度って、わたしを慌てさせるほどでもない、トイレは部屋を出てすぐ右にあるからだ。







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