第5話 燃焼実験
「お兄ちゃん、今日は何をするの?」
マリーを自室に呼び寄せ、あらかじめ準備をしておいたテーブルの前に座らせる。目の前には蝋燭が2本立っている。
「これなんだ?」
「ローソク。火をつければいいの?」マリーは人差し指に炎を煌めかせた。
「実はここにマッチを用意してある」
ディアはポケットからマッチを取り出し、左側の蝋燭のそばに置いた。
「俺が何を試そうとしているのか想像してごらん」
マリーは黙り込んだ。しばらくしてマリーは口を開いた。
「ローソクは2本ある。なんでかって言うと比べるため。だけど何と何を?」
マリーはまた固まった。
「おっと忘れてた。これも使うんだった」
ディアは胸ポケットから懐中時計を取り出した。
「時間を比べるってこと? ローソクの燃える時間?」
それからマリーは分かった! と叫びながら立ち上がった。マリーの膝に押されて座椅子は音を立てて勢いよく倒れた。
「お兄ちゃん、マッチで灯したローソクと魔法の炎で灯したローソクのどっちが早く消えるのかを比べようとしてるでしょ。だから長さまで揃えてあるんだ」
ディアはその通りだといい頷くと、マッチを取り出し擦った。特有の匂いを出して炎が灯る。マリーもすぐに自分の役割に気づき、右手の人差し指に炎を輝かせた。
「お兄ちゃん、せーのでいくよ」
「せーの」
同時に蝋燭に火が灯る。ディアは時計を見やる。
「今度は何か面白いことが起きるのかな」
マリーの質問に肯定も否定もせず、ディアは待った。蝋燭の燃え方には双方に差はない。長さも大体同じペースで短くなっていく。じっと観察し続けるのに耐えきれなくなったのかマリーはカードを取り出して遊び始めた。
さらにしばらくするとまず魔法で灯された方の蝋燭が一際強く輝き、それから煙を残して消えた。その少し後にマッチで灯された蝋燭も同じようになった。
「つまり、魔法でつける方がローソクは早く消えるってこと?」
マリーが言う。
「果たしてその通りかな?」
「せーのでやったけどマリーの方が一瞬早かっただけなのかな?」
「どうやっったらそれを確かめられると思う?」
またマリーは考え始めた。
「時計を使う……とか?」
「惜しい。それだと結局どこかでタイミングのずれが紛れ込むかもしれないよ」
「お兄ちゃん、私もうダメ。降参」
ディアはマリーはよく頑張ってるねといい、答えた。
「同じ実験を何度も繰り返せばいい。俺がつけた蝋燭が早く消えることもあるだろうし、マリーがつけた蝋燭が早く消えることもあるだろう。だけどもしかすると常に魔法でつけた蝋燭の方が早く消えるのかもしれないよ」
マリーは「あー!」といい、納得した様子で部屋の中を走り回った。「それやろう! お兄ちゃん! すぐにやろう!」
ディアは今度は蝋燭を10本取り出してきた。
「何でそんなに沢山ローソクを使うの?」
だけど、そのようにする理由も今のマリーならすぐに理解できるだろう。第一マリーには待ち時間に退屈した記憶がある。待ち時間はなるべく減らしたいはずだ。
物理学者転生 ザード@ @world_fantasia
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