第4話 魔法の解析
ディアがこの世界に転生してきたのは魔法を解析するためだ。ディアを転生させた女神は言った。この世界は大体地球と同じであるが魔法という不思議な力がある、と。
「そんなわけあるか!」
魔法がある以上素粒子の標準理論が成り立つはずがない。つまり地球とこの世界が大体同じだなどというのはあのクソッタレ女神の言ったデタラメだ。
「せめてコンピュータが使えれば素粒子と対応する場を増やした理論を形成する超弦理論のランドスケープを計算できるのだが……」
何よりも研究するリソースが足りない。想像通りのテンプレ中世世界に送り込まれたとあって科学のレベルもたかが知れている。一人でどうこう出来る話ではない。
王宮の一角に簡易的に作らせてもらった研究室でディアが唸っていると、ノックもせずに誰かが入ってきた。
「この本を書いたのはお前か?」
それはディアが国王に取り入るために書いた数学の本だった。解析学の初歩を記した本だったが、この世界では既に微積分が発見されており、学会は喜んでこれを受け入れた。
「あんた誰?」
「俺はリザ。図書館で偶然この本を見つけた」
「で、俺に何か用?」
「弟子にしてくれないか。階級がなくて大学に入れないんだ」
「ということは今は王宮の中にあるここに忍び込んできたということか?」
「スラム育ちだからな。そういうのには慣れている」
ディアはこの女の言っていることを整理した。
「まさかお前、貴族しか入れない図書館に忍び込んで本を持ち出し、一人でその内容を理解したと言っているのか!?」
「なんだ? そんな驚いたような顔をして。スラム育ちと言ったが俺は幸運にも文字は読めるぞ?」
ディアは考え始めた。場所は移す。王宮の中でやっていてはこういう才能を取りこぼす。タイミングを見ている余裕はあまりないだろう。時間は多いとはいえ高々有限だ。
「いや、君にもっと色々教えるにはどうしたらいいのか、と思ってな」
ディアは一息ついた。
「近々誰にでも入れる大学を作るつもりだ。君のような優秀な人間なら特待生として無料で勉強できる仕組みを作るつもりだ。そこに来てくれれば俺と一緒に研究が出来るぞ」
「俺が優秀だと? 貴様、馬鹿にしているのか!」
リザはスラム育ちで苦労してきたようだ。その事への配慮が足りなかったと思いつつディアは続けた。
「貴族ならあの本を誰でも理解できるとでも思っているんだろうが、実際はそんなことはない。俺の思い通りになればこの国からスラムなんてものは無くなってみんなが平和に暮らせるはずだ」
ディアは本当は今すぐにでもリザに数学をレクチャーしたかったが、人が来るとややこしくなるので、今日はひとまず帰すことにした。
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