第39話


 結論から言うと俺達の文化祭は問題なく終了した。クラスの発表もそれなりの客足があり、常に賑わいを見せていたし、お客さんからの評判も上々で、中にはポスターのデザインを褒めてくれた人もいるらしい。


 らしいと言ったのは、俺が実際に聞いたわけではないからだ。文化祭は人が多すぎて俺にはひどく辛い環境であることを察した七森さんが俺をフリーにしてくれたのだ。


 結局賑わいは避けて、一人で屋上で時間を潰していた。


 そのおかげで、文化祭のことは何もわからなくなるかとも思ったが、文化祭が終了したあとに、七森さんが色々と教えてくれたから、全く問題がなかった。


「七森さんはみんなと打ち上げにいかなくてよかったの?今回の主役じゃん」


 そんなわけで、共に帰路についた七森さんに問いかけていた。俺は文化祭が終わった後。速攻で帰ろうとした。大人数の打ち上げには興味がなかったからだ。だが、まさか、七森さんまで一緒に帰ると言うとは思わないだろう。


「別に私が主役ではないよ。だって、大したことをしていないんだから、みんなが協力してくれたからうまくできただけだよ」


 手を振りながら自分の功績を否定してくる七森さん。どうやら、自分の力を理解できていないようだ。今回は七森さんと光希がいなければ、絶対にうまく行っていなかった。それは確実にクラスメイトたちは気がついているだろう事実に当の本人は気がついていないらしい。


「いや、きっと、みんな同じことを思っていると思うけれど」


 俺は改めて事実を伝えてみるが、やはり、本人は納得していない様子だ。


「私のことはいいんだよ。そんなことより、今週末、一緒に打ち上げをすることを忘れないでね。秋博君が来るまで私、待っているから」


 平然とした顔で凄く嬉しいこと言ってくれる七森さん。本人は何とも思っていないようで涼しい顔をしているが、俺はその顔を直視することができなかった。


 その後、待ち合わせ場所を決めたりしてから俺達はそれぞれの帰路につくのだった。


 文化祭なんてこの俺には関係ないイベントだと決めていたけれど、今年は随分と頑張ってしまった。光希が驚くぐらいには頑張った。この世の学生達はこんなイベントを繰り返し行っているのだから、尊敬してしまう。あれだけ騒いだ後にもみんなで集まって、更に騒ぎ倒すのだから尊敬と同時の恐ろしさまで湧き上がってくる。


 なれた帰り道。静かな一人の道に刺す真っ赤な夕陽はやけに目に刺さる。いつも見ているはずの景色なのにも関わらず、その景色は明るく輝いていた。


 まるで、俺のこれからの学校生活を表してくれているのかと柄にも無いことを考えてしまう。でも、今日は頑張ったのだからそのくらいは良いだろうと言い聞かせて、少し軽くなった足取りで家に帰るのだった。


  


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