第36話

 甲高い音が眠りについている俺に耳に突き刺さるようにして鳴り響いてくる。毎日聞いている音なのだけれど、今日は寄り一層、耳に付きうるさく感じる。それはおそらく、昨日夜遅くまで起きていたことが原因だろう。


 重たい体を強引に動かして、うるさい目覚まし時計を叩きつけて停止させる。


「頭が……痛い」


 寝不足による頭痛が俺の行動を妨害しようとしていたが、今日は学校を休むわけにはいかない。昨日の成果を七森さんに提出したかったからだ。文化祭当日まで時間は少ない。ましてや、ポスターは早く準備をしておけば、より効果を上げることができる。


 いつも通りに準備をして学校を目指すことにした。いつもと変わらずにお一人様専用かと思えるような通学路を歩く。


 教室にはいつもと同じ時間に来たはずなのだが、もう先客がいたようだ。自分の席について昨日と同じように電卓を叩いている七森さんの姿があった。


「おはよう。秋博君!」

「おはよう」


 俺が教室に入ると七森さんは直ぐに反応をして挨拶をしてくれる。それに合わせて、挨拶を返して自分の席へと足を伸ばす。


「昨日話をしたポスターの件だけれど…」

「やっぱり、私のにしようか?」


 七森さんの声は少し残念そうな感情を含んでいた。恐らくは俺がポスターを完成させることができてないと思っているのだろう。


「俺はちゃんとポスターを描いてきたけれど、正直うまくは描けていないと思うが、今を俺にできることだけはやってきたつもりだよ。もしこれで駄目なようなら、七森さんが描いたポスターを使ってくれ」


 今日このときのために、俺は久しぶりに学校にスケッチブックを持ってきていた。それを七森さんに手渡すと嬉しそうな表情で開いていた。


 たった一枚のポスターを真剣な顔で見つめている七森さんに俺はなんだか嬉しくなってしまう。自分が描いた絵をここまで真剣に見てくれていることがこんなにも嬉しいことだということw久々に感じることができた。


「これは! すごいよ! 秋博君」


 手を叩いて喜ぶ仕草の七森さん。それを見ることができただけで、俺は寝不足になりながらもこのポスターを完成させた甲斐があったというものだ。


 正直に言うと、あのポスターはうまく描けたとは言ったが、多くの人から見ると対してうまくはないだろう。


 ポスターのデザインは概ねパステルカラーで統一されたもので、いくつかの花の絵を拵えたものだ。



「いいと思う秋博君。コレで行こうよ。絶対にみんなから高い評判を得ることができるよ! きっと、お客さんもいっぱい来てくれるに違いないから」

「ああ、わからないけど七森さんがそう言うなら俺もそれでいいと思うよ。ただ、コピーしないといけないね」


 俺は七森さんの提案を受け入れる。そうしないとあのホラーのようなポスターをこのクラスのポスターとして出すことになる。それよりはいくらかましだろうから。


「うん。そうだね。でも、それは私が一人でやっておくからいいよ。秋博君はコレを描いてくるので疲れているみたいだから、私がやっておくよ」


 寝不足ではあるが、そこまで顔色が悪かったのだろうか。たしかに辛くはあるが気を遣わせてしまうほどのものだったらしい。というか、そこに気がついてくれていたことが素直に嬉しかった。


「たしかに辛くはあるが、別にコピーに付き合うぐらいなら、問題はないよ。まぁ、言うほど役には立たないかもしれないけれどね」

「いいから!秋博くんはここでゆっくりしていてね。授業が始まる前にちゃんと起こすから安心して眠っていてくれていいよ」


 七森さんは頑なに俺のことを休ませようとしてくるので、これ以上は何を言ってもダメそうなので、俺は机に突っ伏して眠りにつくことにした。

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