第33話

『文化祭のフォローもしてるなんて凄いな』


 七森さんと話をした後、光希に真っ先にメッセージを送っていた。別に俺に教えてくれていなかったことを根に持っているわけでもない。ただ、率直に思ったことを伝えていた。


 俺と光希の会話には基本的に遠慮とか嘘は存在してはいない。嫌なことは嫌とハッキリ言うし、気に入らないことがあれば直接伝える。そんな間柄だ。お互いにこの遠慮のいらないやりとりに心地よさを感じている。


『ああ、今日聞いたのか?別に俺は何もしていないよ。七森さんのフォローをしただけだから』


 メッセージの返信の凄く早くて俺は驚かされる。バスケ部員だとは思えない返答だった。光希以外には絶対にそんな他の人のことなんて構ってはいられないだろう。


『でも、これ以降はバスケの練習が佳境を迎えそうだからさ。なんか問題が起きたら秋博が手を差し伸べてあげろよ』


 そんなメッセージとともにウサギのスタンプが送られてくる。ボロボロで傷だらけのウサギが手を伸ばして、後は任せたと言っているような絵だった。


 七森さんも同じようなスタンプを使ってきたが、俺にはあまり流行は理解することはできない。


『俺の出番はないと思うけれどね』


 クラス内の空気もいい感じだし俺の手が必要になるようなことはないと確信出来ていたが、荷物を運ぶぐらいなら問題なく出来ると思うので、そういうところで役目を果たそうと考えていた。


『今はな。何が起きるか分からないのが学校生活だ。七森さんが困っていたら、秋博、お前が手を差し伸べてあげろよ。約束な』


 文章越しでも光希が真剣に話している声が聞こえてくるような気がした。いくら俺でも隣の席の生徒が困っていたら放っておくことは出来ない。その生徒が意中の相手だとしたら尚更なことだ。


『ああ、ちゃんとするよ。俺でも放っておいたりはしないさ』

『そうだな。夏花ちゃんだもんな~』


 ノータイムでの返信に俺はスマートフォンをぶん投げてしまいそうになったが、グッと耐える。今、これを失うと何かと困ってしまいそうだし、我が家の経済状況はスマートフォンをすぐに買え返ることが出来る程裕福ではない。


『うるさいよ!俺のことは良いから練習頑張れよ』

『任せとけ!』


 ウサギのキャラクターがサムズアップしているスタンプが送られてくる。このスタンプはいかなる場面でも使用出来そうだ。今度俺もダウンロードしておこうと決めてスマートフォンをポケットにしまった。




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