第24話
「秋博君、お待たせ!一緒に帰ろう!」
その声を聞いて考え事を打ち切り、教室の入り口に目を向ける。俺がこの時間まで残っていた理由はこれだ。
勝負に負けた後に、何をお願いされるのかと少しソワソワしながら待っていたらその内容に拍子抜けしてしまった。
『今度、一緒に帰って!』
そんな簡単なお願いに勝負のご褒美を使ってしまって良いのかと思いつつ、約束の日を迎えていたわけだ。
席から立ち上がって鞄を持ち、七森さんの元に近づく。
学校に通うようになってもう10年近く経つにも関わらず、誰かと一緒に帰ることなんて一度も無かった。だから、正直どんな風にしているのが正しいのか分からない。
とりあえず、特に口を開くこともなく七森さんの横を歩く。小さな歩調に合わせるように俺も普段より気持ちゆっくり歩くことを意識していた。もう少し気の利いた会話を振った方が良いと思うが、何も思いつかなかった。
田舎の帰り道だ。会話がなければ、恐ろしいほど静かな道だ。都会であれば、街ゆく人の声や行き交う車等の音が静寂を埋めてくれるのだろうに、二人で帰っているというのに一人で頭の中でくだらないことを考えていた。
「秋博君、少しだけ寄り道しても良い?」
静寂を切り裂いてくれたのは七森さんの追加のお願いだった。ここら辺に寄り道で寄るようなところにあまり覚えはなかった。買い物とか何かを食べたりするなら、方向的に言うと反対側に行かなければならない。一度学校の方向に戻ってから反対側に歩いて行くのは距離的にも結構大変だと思う。
「どこに行くんだ?買い物とかであれば、ここら辺にはないから、日を改めた方が良いと思うよ。俺は良いけど、七森さんの親が心配するだろうからさ」
俺の言葉に七森さんは目を見開いて驚いている。なんか驚かせることを口走っただろうか?心配になって振り返ってみても特に思い当たる節がなかった。
「また別の日にも誘って良いの?本当に!?」
隣を歩く七森さんはこちらに顔を向けて、もの凄く嬉しそうに聞いてくる。まるで、誘っても断られると確信していたかのようだった。
「別に俺は出歩くことが嫌いなわけではないから、用事が無ければ、断ることもないよ」
人付き合いが苦手なことは否定することは出来ないが、気の知れている人となら普通に話すし、頻度は多くないが出かけたりもする。その相手は大抵光希だけれど。
少しだけ七森さんの歩調が軽快になる。小さく自信の無い歩き方から、スキップをするかのように、俺より数歩先を歩き出す。続く声音も心なしか弾んでいるように感じられた。
「今の言葉を忘れないよ!絶対忘れないからね」
俺もその言葉に嘘はないつもりだから返事をして、七森さんに置いて行かれないように歩調を少しあげることにした。
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